【KAC20224】解散

心桜 鶉

第1話

「「ども〜巷で有名なホラ吹きトリオです〜」」



「今日もお集まりいただき、ありがとうございました。

ですがまず、皆さんにお伝えしないといけないことがあります。」


神妙な顔つきで星野が客席に向かって話し始める。


「何だ何だ?相方の星野からなんと重大発表があります――」


俺はあらかじめ考えていた進行の通り、話を促す。


「このホラ吹きトリオ、本日を持ちまして解散いたします!」


「え!?」


予想外の展開に驚くような声を上げてしまった。






開演2時間前――――


「ありがたいことにここ一年、舞台と野外営業でネタたくさんやりすぎて、そろそろ尽きてきたよな……」


相方の星野はカレンダーのスケジュール表を見ながらそんなことを呟いた。


「確かに。新しいネタもまた考え始めたほうが良いっすよね」


ホラ吹きトリオのネタは4つしか無い。

4つしか無いのは、俺たちの処女作である1つ目のネタからなぜか大ウケしたからだ。

2つ目のネタも同じように発表してすぐ大ウケ、3つ目も流れに乗り、爆発的に伸びた。

もともと『気長に自分たちのペースでゆっくり人気になればいいよね』というのを2人の目標として決めていたのに、ありがたいことこんなに早く人気になってしまうと舞台や営業をやるためにネタも次々に考えないといけない。

俺たちは去年から矢継ぎ早にネタを考えてきたせいで、ネタ切れを起こしてしまった。


「即興でできるようになれば良いんじゃないか?早速、次の舞台でやってみるか」


「即興っていきなり過ぎないっすか?俺たちまだ一度もやっていないし………」


「ネタが4つしか無いんだからいつかはお客さんに飽きられてしまう。今、人気絶好調の波が来ているのに、この波に乗れないのはもったいないだろ?いつまで続くか分からないし」


「それもそうっすね……。じゃあ、例えばどんなテーマでやります?方向性くらいは決めておきたいです」


「やりやすいのがいいよな。『飲食店』でやってみるか」


「なぜ、よりによって『飲食店』…?」


「即興なら何にでも対応しないといけないからね。だから身近な話題でやろうと思ってね」


「あーじゃあ、やってみますか。 俺店員やるっすね」


「分かった。俺お客さんやるわ」


俺と星野は互いに距離を取り、準備体制に入る。

目で合図をし、スタートした。


「いらっしゃいませ〜何名様でしょうか?」


「いや、1名だよ。見りゃ分かるだろ」


「大変失礼しました。それでは席の方へご案内します。どうぞこちらへ」


「おい、椅子は?」


「そちらにあります、セルフサービスでございます」


俺は舞台裏の方に手を示し、セルフサービスの旨を告げた。

星野は椅子を手に取るふりをし、空気椅子になる。


「お冷も、もしかしてセルフ?」


「あ、はい。お水もご自分で注いでいただくようになっています――って、物がある前提でやるのむずいっす!」


「確かに。小道具用意する系は無理あるなぁ。椅子取りに行くのめんどいから空気椅子にしたけど、正直めっちゃ辛かった。足プルプルしてたもん」


「飲食店アルバイトの経験無いから、経験したこと無いやつをネタにするのは厳しいかなって、時間やばいっすよ!始まっちゃう、始まっちゃう!!時間無い、時間無い!!ど…どうします?持ちネタにしましょうよ」


「んー見えそうだったと思うんだけどな。さっきは小道具が必要になるやつだったから上手くいかなかったけど、流れはお互い上手く合わせられたから、小道具無しでできる物なら……。あ、よし思いついたぞ!今度は俺に合わせてくれれば良い」


「分かりました。上手く行きますか…?緊張しますね…あ、始まる前にトイレ休憩して来て良いです…?ちなみにどんなのにします?」


「本番まで秘密な。方向性は知らんほうが、自然な感じにできる。俺に合わせてくれれば大丈夫だから。あとそれでとりあえず今日でこれも最後にしよう。さっさとトイレ行って来い」


星野が俺の背中を叩き、舞台が始まる。

いつもと同じ景色のはずなのに、今日は緊張で違う景色に見えた。


「「ども〜巷で有名なホラ吹きトリオです〜」」



「今日もお集まりいただき、ありがとうございました。

ですがまず、皆さんにお伝えしないといけないことがあります。」


神妙な顔つきで星野が客席に向かって話し始める。


「何だ何だ?相方の星野からなんと重大発表があります――」


俺はあらかじめ考えていた進行の通り、話を促す。


「このホラ吹きトリオ、本日を持ちまして解散いたします!」


「え!?」



頭が真っ白になった。


ごめん、もうこれっきりにしよう――


相方の発言に俺は耳を疑った。


(え、てか今舞台中だよね?!)


と、俺たちのコンビ名を使うので本当なのか、ネタなのか訳が分からず、俺は相方の星野の方を向き、確認を取るが……

星野の顔はマジだった――――




舞台は何とか終わったが、ずっと俺は放心状態だった。

楽屋に戻ると星野は笑顔で嬉しそうだった。



「よし、今回は上手くいったな!いい演技だったぞ」


「え!?俺、ここに来る前に、関係者に解散しますって挨拶しちゃいましたよ?」

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【KAC20224】解散 心桜 鶉 @shiou0uzura

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