目指せ芸人
志波 煌汰
あの子と付き合うために
「俺……芸人になろうと思う」
「どうした急に。芸人? お前が?」
「ああ」
「いや芸人って……出来るのか? お前、そういうの全然詳しくないだろ」
「そうだ。俺はそういう俗っぽいことにすごく疎い。昔から勉強しかしてこなかったからな」
「テレビもろくに見たことないよなお前。そんな真面目一辺倒な男がどうして急に芸人なんか」
「好きな子と付き合うためだ」
「……え?」
「俺の好きな子が芸人が好きだと言っていてな。俺も芸人になれば付き合えるんじゃないかと」
「待て待て待て。え? 好きな子? お前に?」
「そうだ」
「えー……ショックだ。全然知らなかった。親友だと思っていたのに」
「秘密にしてたからな。だがもう隠さない。そういうわけで芸人を目指すので、アドバイスが欲しい。お前に聞くのが一番だと判断した」
「や、まあ、確かに芸人にはそこそこ詳しいけどさ……。まあ、なんだ、仕方ないな。親友のお前のためだからな。相談に乗ってやるよ」
「ありがたい。では早速練習してきたので見てもらいたいんだが」
「本当に行動が早いな……分かった。見せてみ」
「了解だ。では……」
「いや待て。どうして三味線を取り出した。そういう芸風か?」
「……? 何って、義太夫をやろうかと」
「義太夫!?」
「ああ。俺は喋りは上手くないと思っているからな。演奏ならまだ……」
「いやいやいや、義太夫!?」
「ああ。……義太夫は駄目か? 浪曲も一応練習はしたが……」
「いやお前……『芸人目指す』っつって伝統芸能やるやつがあるか!?」
「何!? 芸人というのは『技芸で身を立てる職業人』のことだろ!?」
「現代日本でなんの注釈もなく『芸人』っつったら一般的にお笑い芸人を指すんだよ! 浄瑠璃を好む女なんてそういないぞ!」
「なんだと……。もう弟子入りの準備も始めていたというのに……」
「明後日の方向に全力疾走しすぎだバカ!! 手遅れになる前に断ってこい!」
「ああ、幸いまだどうにでもなるだろう……しかし困ったな、どの芸が好みか分からないから、色々試してみようと傀儡とか買ってしまったぞ……結構したんだが……」
「お前好きな子のことになるとそんなポンコツになるのか……」
「……こんな俺では、やはり駄目だろうか」
「いや、努力は十分伝わったよ。で、お笑い芸人の話だが……」
「ああ。一応コメディアンの勉強もしはしたが……」
「お、やるじゃん! 見せてよ!」
「了解だ。ちょっと待て」
「……オイ、一応聞くがなんだそのちょび髭とシルクハットは」
「? 偉大なコメディアンと聞いて勉強したのだが……」
「チャップリンじゃねーか!! だからそういうのじゃないんだよ!!」
「!?!?!?!? 違うのか!?」
「古すぎるわ!! お笑い芸人ってそういうんじゃないから!! テレビ全然見ないからこんなことになるんだよ!」
「なんだと……黄金狂時代もモダン・タイムスもライムライトも、画面に穴が開くほど見たというのに……」
「努力の方向音痴め……」
「しかし困ったな。最初からお前に聞いておくべきだったか。どんな芸人がいいんだ?」
「直接お前の好きな子に聞けよ……。うーん、お前はもうなんか素で面白いからそのままでいい気がしてきたな……」
「そうなのか?」
「ああ。女の言う『芸人が好き』なんて、結局『面白い男が好き』……『一緒に居て退屈しない男が好き』って意味だからな。お前は大分面白いよ。まあ、主観だけどな」
「本当か!! 付き合ってもらえるだろうか?」
「ああ。きっと上手くいくよ」
「ありがとう! とても嬉しい! 天にも舞い上がる気持ちだ!」
「おいおい喜びすぎだろ。ま、どういたしまして」
「それで、気が早いかもしれないが、初デートはどこに行こうか?」
「おいおい、それこそその好きな子に聞けよ」
「……? だから聞いてるんだが」
「…………は!!!??? アタシ!!!!????」
「ああ」
「ああ、じゃねーよ!! え、何!!??? お前アタシが好きだったの!? 全然知らなかったが!!」
「隠していたからな。だがもう隠さないと言った。お前が好きだ。付き合えて嬉しい」
「おまっ、なんっ……このクソボケ!」
「? 俺がボケか……確かにお前の方がツッコミに向いてそうだな。いわゆる夫婦漫才というやつか」
「めお……気が早いわ!! いい加減にしろ!!」
「どうも、ありがとうございましたー」
「終わらすなーーーーーー!!」
はー終われ終われ
目指せ芸人 志波 煌汰 @siva_quarter
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