世にも恐ろしいコント
ゆーにゃん
恐怖でコントにすらならない
男女四人である心霊スポットに赴いた俺たち。
動画投稿サイトで、心霊スポットを巡りその様子をカメラで撮影、アップして稼ごうという話になり高校時代から仲が良い俺を含めた四人が集まった。
「ねえ、ここが言ってた学校?」
「そうそう」
「うわー。雰囲気あるわね」
亜希子が訊き、康太が答え、裕美が懐中電灯を照らしながらちょっと楽しげに言う。
俺たち四人が訪れたのは小学校だ。五十年前に、男が侵入し生徒五人を殺害したという。殺された生徒五人は、無残な姿だったとか。手足を切断、目を刺しくり抜かれ、耳を切り落とされ、体中をロープで縛られプールに沈め、何度も殴る蹴るを繰り返し。
そうやって幼い子供の命を奪ったと、調べると昔の記事が見つかり知ることができた。
問題はその後だ。それからこの学校では怪奇現象が多発。休み時間に外で遊んでいた生徒が転んだ拍子に、何故かあるはずのない物が地面に埋められていた。それは、鋏。その鋏に目が刺さる事故が。
他にも、授業中に走り回り足音、笑い声、泣き叫ぶ声、悲痛な声が廊下に響いたのだとか。
亡くなった五人をプールで見た、犯行現場にもなった三年二組で五人がぬいぐるみをめった刺しにしている姿の目撃。
そうして、この学校に通えないと保護者からの声が募り廃校になったっらしい。
年月は流れ、今では最恐心霊スポットとして残り、未だに噂や幽霊の目撃情報が飛び交いここへ来る者が多い。俺たちもその類。
「それじゃあ、さっそく回っていこうよ。ね、啓介」
「だな。全員、懐中電灯は持ったか?」
裕美が俺に問いかけ、俺は友人たちに声をかける。三人共、頷きいざ校舎の中へて足を踏み入れる。
この時、遊び半分と稼ぐためにここへ来たことを後悔するなんて思いもしなかった。
校舎の中は古く、歩く度に床がギシギシと音が鳴る。埃臭く、懐中電灯の光がなければ何も見えないくらい暗い。
最初に向かったのは、音楽室だ。学校と言えば、音楽室と理科室だろうと話になりこの二箇所を回る。
撮影担当は、康太だ。俺と裕美が先頭、亜希子と康太は後ろからついてくる。
音楽室に辿り着き、中へ入り撮影を続けるが何も起きないし映り込んだりはしない。次は理科室へ向かい、人体模型にちょっと驚く俺たち。だが、何もなかった。
「ねえ、何も起きないんだけど」
「だな。拍子抜けって感じだわ」
「でも、なんか寒くない? 怖いことに変わりはないし」
「だよなあ~。どうする? もうメインに行く?」
裕美の言葉に俺が反応し、肩を抱き寒がる亜希子、カメラを回し何も起きないのでメインの三年二組に行かないかと提案する康太。
動画としては、何も起きないと面白くないなこりゃ。康太の提案に、俺たち三人はそうしようと三年二組の教室へ。
『クスクス』
『来た来た』
『何してあそんでもらおうかな』
『コントやってみたい!』
『みんな、ころしちゃえ!』
『『『『『ふふふふふっ』』』』』
ん? 今、声がしたような? 気のせいか?
メインの教室へとやって来て、カメラを回しながら小さな机を見て回る俺たち。スマホで撮影をし写真を確認してみるが本当に何も写らないし起きない。
ここ、本当に最恐の心霊スポットかよ……。マジで、何も起きないんだけどよ。これじゃあ、再生数を稼ぐこともできやしない。失敗したな……。
そう思い、みんな帰ろうとした瞬間――。
バンッ――!
「――っ!? な、なんだ!?」
「な、なに!? なんの音!?」
俺と裕美が声を荒げ、音が鳴った方へ懐中電灯を当てる。そこは扉が照らされる。
「な、なにもないわよ……」
「風で、扉が閉まっただけだろ……」
泣きそうな亜希子、カメラを回しながら扉に近づき開けようとする康太。
「脅かすなよ。って、あ、あれ?」
「どうした? 早く開けろよ」
「い、いや。それが、開かなくてさ」
「は? なに言ってんのお前」
「いや、ほんとだって! 啓介もやってみろよ!」
「ったく」
扉に近づき手をかける。古い扉だ。力を込めないと動かないだけだろ。
グッ、と力を入れて引くがビクともしない。
はっ? なにこれ? マジで開かないんだが。どうなってるんだよ。この教室、扉はここにしかないんだぞ! ここ三階で、窓から出るなんてできないしよ!
「マジでどうなってるんだよ!」
「なあ、言っただろ」
「そういうことはいいから、康太も手を貸せって」
男二人で扉を開けようとするが、扉は一向に開く気配がない。体当たりをしても、蹴っても壊れることはなかった。
内心、焦りと苛立ちで椅子でも使って壊すことを考えていると背後から亜希子の悲鳴が教室内に響く。
「きゃあああああああああああっ!」
「なんだ!?」
「亜希子、どうした!?」
俺と康太が反応し振り返ると、裕美が宙に浮いていた。
えっ? 裕美が浮いて……? はい? なにが起きて?
目の前で起きている現状に理解が追いつかない……。
『折っちゃえ!』
幼い高い声がして次の瞬間には、裕美の腰が海老反りになって聞きたくない音が木霊する。
「――――!!??」
裕美の声にならない声を聞き呆然とする俺たち。
宙に浮いた裕美の体は文字通り折れて、滴る赤い液体が古びた床に水たまりを作る。
『あははっ! 折れちゃった!』
「い、いやああああああああああああああああっ!」
「な、なんだよこれ! クソッ、早く開け!」
「いやああああっ! 早く開けて! 早く!!」
「やってるだろ! 亜希子も手を貸せよ! おい、啓介! お前も早く手伝え!」
扉の前で、康太と亜希子が言い合い。
俺は、目の前の光景に固まって動けない。
『ねえ、どこに行くの?』
今度は、俺たちのそばで声が聞こえた。
俺はゆっくり振り向けば、笑顔の男の子が見上げていた。
『お兄さん、ぼくたちとあそぼう?』
ぼくたち? それってどういう意味だ?
鈍い思考で、視線を巡らせると教室には五人の小さな男女がいた。机に座り、黒板前に浮いて、椅子に座ってこちらを見て、裕美の体で遊び、俺を未だに見上げる子供。
ご、五人……。まさか、この子たちって……。
「嘘だろ!? 入った時は、何も起きなかったじゃんか! それが、なんで!?」
「いやっ! こんなところいたくない! 早く開けてよ!」
ゴクリ……。生唾を飲み込む。康太の混乱した声、亜希子の恐怖で泣きながら出ようとする声。
俺は、なにもできない。あまりの恐怖と目の前の出来事に声すら出ない。
『ねえ、さっきからがんばってるお兄さん。ぼくと、コントしよう!』
康太にそう話しかけるのは、俺を見上げていた男の子だ。
「す、するわけないだろ!? それより、ここから早く出せよ!」
『わーい! ぼくと話してくれた! それじゃあ、さっそくコントしようね!』
「ふ、ふざけんなっ! だれが――」
「こ、康太!」
そこでようやく声が出た。康太が、見えない力で引き寄せられ、いつの間に俺から離れた男の子は黒板前に。康太はそのそばに立たされていた。
『じゃあ、ぼくがツッコミ役ね。お兄さんはボケ役!』
「や、やめっ! い、嫌だ! け、啓介、助けてくれ! 体が動かないんだよ! 啓介!!」
わ、分かってる! 助けてやりたいのに、体がまるで鉛みたいに重くて動かない! なんでだよ! クソッ! 動けよ! 動けってば!
『ほら、ボケてよ。お兄さん』
「ひっ!? く、来るな――っ!」
『なんでやねん!』
男の子が康太の腕を叩く。叩いた音はしなかった。目に映る言動は、確かに叩く動作がはっきりと映る。
すり抜けた瞬間に、康太の右肘から先が黒板に当たり、椅子に座る女の子が裕美から奪った懐中電灯で照らす。そこには、赤い血がこびり着き康太の声が木霊した。
「いっ、いたぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」
『あはははっ! ぜんぜん、コントになってないよ!』
『うでっ、うでが飛んだよ! あははっ!』
『コント、下手! もう、ちゃんとやってよ』
『お兄さん、泣いてるじゃん。ふふっ』
笑う子供たち。激痛で涙と鼻水を流す康太を見てただただ笑う。
もはや、狂気の沙汰だ。
俺も、亜希子も、康太が男の子にコントという名の殺しの場面から声も出せずその場にへたり込み、震えるだけ。
亜希子は耳を塞ぎ、目をつむり首を振り泣く。
俺も、左足を吹き飛ばされ血を流し死んでいく友人を助けることもできず涙を流すだけだった。
ああ……。こんな場所に来るんじゃなかった……。
最初から間違えた……。
し、死にたくないっ……。
俺たちを見る子供の霊。その笑顔は狂気で、恐怖しか感じない。
足音もなく、近づく五人。
だ、だれかっ……た、たすけてくれっ! お、おねがいだっ!
し、しにたくないっ――――――。
世にも恐ろしいコント ゆーにゃん @ykak-1012
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