【短編】異世界漫才

misaka

とある墓場の漫才

※ほぼ会話文だけです。読み辛かったらすみません。


 ある異世界の、ある墓場。

 魔王が使う死霊術によって蘇った2体のアンデッドが、お隣同士ということで漫才をすることになった。


 「はいどうもー」

 「どうも、どうも」

 「ゾンビの俺と」

 「スケルトンの私で」

 「漫才していこうと思うんですけど――」

 「ゾンビさん、ゾンビさん」

 「なんだい、スケさん」

 「スケさん?」

 「スケルトンだからスケさん。そんなことよりどうしたの?」

 「ああ、私の意見は無視なんですね? まあいいでしょう。私、生前、冒険者になりたかったんです」

 「はぁ」

 「ついでに受付嬢さんとあれやこれやもしたかったんです」

 「はぁ」

 「なので、良ければ私が冒険者になるので、受付嬢さんをやってもらえませんか?」

 「え、俺男だけど?」

 「いいんです、いいんです。心の目を使うので」

 「はぁ、スケさんがそれでいいなら、いいけど……。これでも生前は、冒険者だったから、うまくできると思う」


 「じゃ始めますね。オホン。ウィーン。こんにちは! 受付嬢さん!」

 「……待って、聞いていい? ウィーンって何?」

 「え、ギルドのドアですけど?」

 「あ、魔力で動くタイプの自動ドアなのか。ギルドって普通、木の両開きのドアじゃない?」

 「細かいとこは良いんです! 私は早くイマジン受付嬢さんとイチャイチャしたいんです」

 「わかった、わかった」

 「じゃあ。ウィーン、てりれりれりーれ、てりれりれ♪ こんにちは、受付嬢さん!」

 「ごめんやっぱり待って」

 「なんですか、ゾンビさん」

 「いや今なんか変な音楽入ったよね?」

 「いや、自動ドアと言えば、入った時に流れる音楽かなと」

 「うーん分からんでもないけど。ついつい俺の頭に緑と白の看板の便利店が思い浮かんだ」

 「そんなことより、受付嬢さんとイチャイチャしたい」

 「いやほとんどスケさんのせいなんだけど……まあいいか。じゃあ続けて」

 「じゃあ。オホン。ウィーン、てりれりれりーれ、てりれりれ♪ こんにちは、受付嬢さん!」

 「こんにちは、冒険者さん! ようこそ、冒険者ギルドへ!」

 「依頼を受けに来たんでぇ」

 「あれ、白紙ですね? 依頼書はどちらに?」

 「受付嬢さんの、プロフィールをこちらに。あと、結婚してくだせぇ」

 「依頼書はどちらに?」

 「上から91・53・87? いい体してんじゃねぇかぐへへ」

 「はいストップ。スケさん」

 「え、今から良いと頃なんですよ?」「スケさんの冒険者への印象、悪くない?」

 「え、受付嬢さんとイチャイチャしたい冒険者って大体あんな感じじゃないんですか?」

 「あー……。なるほど、スケさんがそれでいいならいいんだけど。あと、受付嬢さんへの理想、高くない?」

 「え、受付嬢さんとイチャイチャしたい冒険者が狙う受付嬢さんって大体あんな感じじゃないですか?」

 「あー……。はい、もういいです」

 「じゃあ。ウィーン」

 「(そこからなんだ……)」

 「てりれりれりーれ、てりれりれ♪ こんにちは、受付嬢さん!」

 「はい、こんにちは冒険者スケさん! ようこそ、冒険者ギルドへ!」

 「依頼を受けに来たんですけど、結婚してください」

 「依頼書はどちらに?」

 「へへへ、ええ体してるなぁ。ワイと遊ぼうぜぇ」

 「依頼書はどちらに?」

 「ぼ、僕と付き合ってください!」

 「この受付嬢モテるなぁ! ――オホン。どのような依頼をご所望で?」

 「ちょっと魔王退治に」

 「(最強勇者プレイかな?) なるほど。では手続きをするのでお待ちください」

 「それよりおいらと結婚してくだせぇ」

 「この町の冒険者、みんな終わってんなぁ! ――うおほん。ではこちらに依頼受注のサインを」

 「え、わしのこと好きだったの?」

 「(ツッコまない! 鈍感系主人公の老後か、なんてツッコまない!) サインを」

 「上から95・54・90? いい体してんじゃねぇかぐへへ」

 「あ、最初の人だ! って、進まない! 進んでない! この冒険者ギルドがある街、絶対滅びる! むしろ魔王様に滅ぼされろ! あと受付嬢さんちょっと成長してるんだけど!」

 「なんだかんだあって、魔王を倒してきましたよ、受付嬢さん!」

 「くっ、滅びなかったか……。オホン、これで世界は救われましたね、スケさん……いえ、勇者様!」

 「だ、だから……! う、受付嬢さん!」

 「(お、この感じは……) は、はい。なんですか、勇者様……?」

 「お、俺と……俺と……」

 「(ドキドキ)」

 「お友達になってください!」

 「惜しい! 惜しいよスケさん! でも一番、印象良い冒険者!」

 「こうして2人は仲良くなり、やがては結婚したのでした」

 「やっと終わった……」




 「どうですか? 私の事、思い出してくれましたか、勇者様?」

 「え? どういう……痛っ、痛覚が無いはずなのに、頭が、痛い!」

 「ずっと、ずっと。死んでも一緒だって約束、守ってくれて私、嬉しいです」

 「記憶が……ま、まさかスケさん……いや、リリアーナ、なのか?」

 「はい、勇者様! リリアーナです! ……ようやく思い出してくれたんですね?」

 「そうか……。悪かった。ゾンビになってしまったとは言え、愛する君のことを忘れるなんて……あの時、守ってやれなくて悪かった」

 「いえ、いいんです。むしろこれから守っていただきたいので」

 「ああ、誓おう。今度こそ、君を守ると。リリアーナ、お、俺と――」

 「今頃、私達の子どもたちが勇者になって、魔王様のもとを目指しているはずです。じきにこの墓場にもやってくるでしょう」

 「ああそうか……。また、君を守ることが、できないのか……。魔王も酷なことを……!」

 「いいえ。またこうしてあなたと話すことが出来た。それだけで、私は幸せです」

 「し、しかし……そうは言うがリリアーナ……」

 「それに。――生きている時は守られてばかりの私でした。でも今回は、あなたの隣に並んで、いっしょに戦うことが出来る……。魔王様には感謝しかありません」

 「……そうか」

 「だから、勇者様。どうか、今度こそ。最期のその時までは、おそばに」

 「ああ。俺たちの息子の凱旋に、餞を送るとしよう」

 「今度は、忘れないでくださいねっ」

 「ああ、今度こそ、必ず……!」




 後に最強の魔王幹部として恐れられる2人のアンデッドのお話が、こうして始まった。

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