頭を下げたくないならば……

荒川馳夫

それは違う。そのような意味じゃない

「くそ、倒産だよ。チクショー……」


男がひたすらにわめいていた。経営に失敗して、会社がつぶれてしまったのだ。


「オレは絶対に悪くない。悪いのは契約を打ち切ったアイツらだ」


自分のことは棚にあげて、責任転嫁を続けていた。だが、事実は変えられない。

責任を問われることは確実だ。


「何か良い言い逃れはできないか。このままじゃ、従業員に何を言われるか分からないぞ……」


男の会社には多くの従業員がいた。彼らも仕事を失っているが、それを心配するようなことはしない。あくまで保身が最優先だ。


「記者会見までもう時間がない。どうすれば……」


このままじゃ頭を下げなくちゃならない。絶対にやりたくない。

頭を下げたら負けなんだ。袋叩きにされちまう。

男はイライラしながら、スマートフォンを触る。首周りに痛みを感じた。

そこで、ひらめいた。


こう言えば、頭を下げずに済むじゃないか。男は名案を記者会見で行うことに決めた。



 記者会見から数日、男はネット上で有名人になった。ただし、悪い意味で。

男に関する書き込みは増え続けた。擁護する声は全くなかった。


「まったくアホだねえ。素直に頭を下げたほうがまだ良かったのに」


時間が経っても、ネット上での彼への書き込みはとどまることがなかった。


「頭を下げたくないからって、スマホ首を理由にして謝罪をしないなんて。まったくとんでもないヤツだぜ」


「スマホの使い過ぎで首を痛めておりまして、頭を下げたくても下げられないのです。だってさ。通じると思っていたのかしら」


「スマホ首ってそういう意味じゃないのにね」


ちっぱけなプライドがもとで破滅すると、男は考えなかったのであろうか?

嘲笑の書き込みはネット上で広まり続ける。男の醜態は決して消えることはない。


社長という肩書を失っても、晒される一生が待っているのだ。








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頭を下げたくないならば…… 荒川馳夫 @arakawa_haseo111

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