クソみたいな打ち合わせ

平 遊

クソみたいな打ち合わせ

すみません、さっき私が参加したミーティングの話、聞いていただけますか?

なんだかもう、内容がクソ過ぎて、逆におかしくなっちゃって、誰かに話したくて仕方がないんです。


※※※※※※※※※※※※


『今般の異動に関し、打ち合わせをさせてください』


昨年異動してきたばかりの上司からこんなメールを受信したのは、年度末も既に突入していた3月の初旬。

大抵の会社がそうであるように、利津子の会社の部署でも、業務は繁忙期に入っていた。

そこへ突然、人事異動の発表があったのだ。

しかも内容は、2人が入社し、利津子の部署に配属されると言う。

部署内のリーダー的な立場の利津子は事前に何も知らされておらず、利津子が5年の歳月をかけて大切に育てた副リーダーの真実もそれは同じ状況で、2人で顔を見合わせるばかりだった。


利津子の部署では昨年にも突然リーダーの異動があり、それに伴って致し方なく、当時副リーダーだった利津子がリーダーに昇格した経緯がある。

部署内の人数は10人。

その内、勤務歴2年以下の社員が6人を占めている、安定稼働とは程遠い状況。

その事は、上司には折に触れて伝えており、当面、人の異動はやめて欲しいとお願いをしていた。

そこへきての、今回の人事異動。

そして、上司からの打ち合わせ依頼。

利津子は、納得の行くまで話を聞かせてもらおうじゃあないのと、意気込んで打ち合わせに臨んだ。



「隣の部署の部長がね、あ、俺の先輩なんだけど。金井さんがどうしても欲しいって言うからさ」


打ち合わせの冒頭、上司が脳天気な顔でこんな言葉を宣った。

金井さんとは、副リーダーの真実のことだ。


「金井さん、来月異動になったから。金井さん抜けたら大変だと思って、その分1ヵ月も前に2人も新人入れてもらったんだよ!」


まるで、『どうよ?俺、よくやっただろ?』とでも言わんばかりの上司の態度に、利津子は怒りを通り越して呆れ果てた。


上司の言う【隣の部署】とは万年人の出入りが激しく、全く落ち着くことがない。

『人を育てる』という意識が皆無な部署。

そこへ、利津子が大事に育てた、頼もしい右腕とも言える真実を、まるでモノのように引き渡すなんて!


「太田さん、どう思う?」

「は?」


太田さんとは、利津子のことだ。

よりにもよって、この能天気上司は、利津子に意見を求めたいらしい。


「金井さんの異動は困ります。断ってください」

「ええぇっ?!」


信じられない事に、利律子のこの意見は頭の片隅にも無かったのか、上司は目をまん丸く見開き、口をあんぐりと開けて利律子を見ている。

その様はまるで、愉快なコントを見ているかのよう。


「なんでっ?!だって、1人抜けて、2人も入るんだよ?!増員だよ?!」

「その新人を育てるために、どれだけの労力と時間がかかるとお思いですか?」


利律子の言葉に、やはり上司は阿呆みたいに口をポカンと開けている。

新人教育にかかる労力と時間の事を、全く考えていなかったらしい。


(・・・・なんなの、この人・・・・)


「で、でもさ。もう決まったから。上がさ、決めちゃったんだよね。あはは」


何がおかしいのか、今度は愛想笑いなどを浮かべて、上司は利律子に媚を売るような笑みを向けた。

自分のせいではない、上が決めたのだと言えば黙るだろうという浅はかな考えが見え透いていて、利律子にはもう、この上司が1人コントを演じているようにしか見えなかった。


「既に決定事項であれば、この打ち合わせはどのような意味があったのでしょうか?」

「それは、ほら!」


そう言うと、上司は得意げに振り返り、後ろの壁に貼られているポスターを指し示す。

それは、社内向けに貼られている、社員向けの啓発ポスター。


【所属長は、部下の話に良く耳を傾けましょう!】


「だからさ、太田さんの意見に耳を傾けたんだよ」


上司はやはり、『どうよ俺?すごくない?』とでも言わんばかりのドヤ顔だ。

その姿はもはや呆れを通り越して、滑稽ですらある。

『褒めて褒めて!』という言葉でも聞こえそうなくらいのドヤ顔の上司を一瞥すると、利律子は静かに席を立った。


「失礼いたします」


同時に込みあがる怒りと笑い。

相反する感情が胸の中で渦巻くこの経験は、利律子にとって初めての経験だった。


(私今、何を見せられていたのかしら・・・・?)


自席へ戻る途中。

真実の異動先である隣の部署を見ると、真実を欲しいと言ったという部長の背中側の壁には。


【世界一人が育つ会社!】


そう、デカデカと書かれたポスターが貼ってある。

そしてなんと。

部長は【世界一人が育つ会社!】と書かれたTシャツを着て仕事をしていた。


急いで空いた会議室に駆け込むと、扉を閉めて利律子は思い切り笑った。

笑って笑って、そして。

泣いた。


※※※※※※※※※※※※


なんか、自分の事だと本当に腹も立つし今でも正直怒りがおさまらないんですけど。

客観的に考えると、めちゃくちゃ笑えてきちゃって。

ほんと、何のコントなんだろうって、思っちゃいますよね。

フフフ・・・・

まぁ、正直これから、大変になるんですけど。


聞いてくださってありがとうございます!

お陰で、すっきりしました♪


【終】

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