あの番組の企画って言えば人ひとり消すのも容易い説
悠井すみれ
第1話
まだ筋肉痛なんすよ。あの番組マジやばいっす。あの番組って、あれですよ。水曜深夜の! 説立証するやつ! いや、出られるのはそりゃ嬉しいですけどさあ、観てても分かるでしょ? 無茶させるんだから、もう。
俺がやらされたのは、あれです。「落とし穴を知る者は最強の落とし穴を掘れる説」ですね! いつも落ちまくってるから、今度は掘る側に──ってやつです。まあ、楽しいは楽しかったですよ。これまでの鬱憤を晴らすじゃないですけど、ドッキリかけられ仲間で自然な導線を考えたり、カモフラージュ頑張ったり。掘るのまでやらされたから筋肉痛って訳ですけどね!
すっぽり頭が入るくらいだから、二メートルくらいは掘ったと思いますよ。俺らもシャベル握って──え、死体を埋めてもバレない深さって──だって落ちなきゃ面白くないでしょ。それくらいは掘らないと。
場所は、ちょっと分からないです。どっかの山奥で──ロケバスで三時間くらいだったかなあ。自由に掘らせてくれるとこって限られるんでしょうね、地主さんとか厳しいんでしょ。
誰を落とすかは聞いてないです。オンエアをお楽しみに、ってスタッフさんが。大物の俳優さんとかだと嬉しいですよね。多少燃えても良いですよ。それで売れる切っ掛けになれば。この筋肉痛も報われるってことで。
でも、なかなかオンエアしないんですよねえ。こういうのって教えてもらえないのかなあ。怒られてお蔵とかだったら嫌だなあ。
* * *
あの番組のロケ、確かに行きましたよ。××県の、■■山だったかな。いかにもあの番組らしい質の悪いドッキリですよ。「深夜に心霊スポットで出会ったらたとえ相方でも怖い」って、そりゃそうだろって感じで。
俺は仕掛け人側でしたね。相方、ああ見えてすげえビビりなんで。俺、いつもの衣装で突っ立ってただけなんすよ? なのに悲鳴上げて転がり回るの。すげえ受けましたね。相方こんなとこで何やってんの、って思う前に幽霊だ! ってなっちゃいますよね、そりゃ。検証するまでもねえって思うけど、まあそういう番組なんで。
俺らのほかにも何組か呼ばれてましたよ。ドッキリされるほうは、なんか心霊番組ってことでバラバラに呼ばれたらしいんですけど、仕掛け人側はまとめられてて、で、前の組の様子見てこう脅してやろう、とか話してたんで。
ええ……だから、スタッフさんも含めて結構な人数がいましたよ。現場を荒らしたって──いや、いくらあの番組でも許可は取ってると思うんですけど……ですよね? 畑とかでもなかったし。俺らはそこまで知らないですよ。
掘り返された後? そんなん、見える訳ないじゃないですか。暗いんだから。心霊スポットは──いや、ドッキリで言っただけで本当は違うんでしょうけど──夜に行くものでしょう。
スタッフの誘導は──いえ、何も思わなかったですけど。昼間、ロケハンしてくれたんじゃないんですか? だから安全なルートで脅かせって意味だと思ってたんですけど。あの番組だって怪我人とか出したらマズい、くらいは分かってるでしょ。
……なんか、あそこダメなとこだったんですか? めっちゃ面白かったのに、なかなかオンエアされないのもそれで、とか? マジかあ……俺ら、ほんとに何も知らなかったんですよ。
* * *
はい、ここが彼の部屋です。何もないですね、はい。そういうドッキリだと聞いていたもので──スタッフさんに鍵を預けて、お任せしてました。その前の企画、一週間は開けといて欲しいって話だったので、その隙に運び出したんです。はい、その時は私も立ち会っていました。
犯罪……になるんですかね。そりゃ、一般の人にやったらそうでしょうけど、芸人なのでそういうものかなって……あの番組に出してもらえるなら事務所としては喜んで、だし、彼としてもそうだっただろうと思います。
脱出ゲームみたいなことだと聞いてました。身ひとつで拉致って、知らない山で解放してどうするか、みたいな──でも、カメラが回ってるから危険はないですよ。っていうか、本人にも教えてましたし。正直、あんまりリアクションできない人なので……良い感じのコメントとか、あらかじめ考えといて、って。制作会社の方から。
制作会社の方……って、思ってたんですよ。名刺もいただいたし、打ち合わせもしました。実は違ったって言われても何がなんだか……。この部屋の荷物も、保管場所は聞いてたんです。やっと帰ったと思ったら部屋がからっぽでって、あの番組ならやるでしょう。みんな、処分されてたなんて知らなかったです。マネージャーって言っても、担当は彼だけじゃないんで。
連絡は来てたから心配はしてなかったんです。いえ、彼からじゃなくてスタッフさんから。スマホも取り上げることになってて──っていうか、彼から渡したと思いますよ。下手に失くしたり壊したりするよりは持っててもらったほうが良いって、そう思うのは普通でしょう。
まるまる三日、音信不通……になるんですかね。あの連絡が嘘なら……。それだけあったら、何でもできちゃうしどこにでも逃げられちゃいますよね……。
* * *
目隠しって、マジで何も見えなくなるんすね。うわあ、分かってても結構怖いなあ。パンツ一枚なのもありますけどね、きっと! こんな格好で放り出されるって、知らなかったらマジで怖いよなあ。移動距離とかも全然分かんないしなあ。さすがに行き先は──教えてくれないですよね。仕方ないっすね、そのほうがリアリティ出るから。
とにかく山の中、なんすよね? 第一声は──どこだよ!? だとそのまんま過ぎですよねえ。大自然かよ! 樹海かよ! いや、顔芸で見せたほうが良いかな?
あ、さっきの暴れ方、あれくらいで良かったです? 何ならリテイクします?
そりゃもうやる気ですよ。チャンスですもん。良い反応して、ほかの番組にも読んでもらえたら良いですよね。うちの親にも報告したんですよ。やっとブレイクできるかもって。へへ、泣かれちゃった。苦労も心配もかけたからしょうがないんですけど。地上波に出れるのもマジで久しぶりだからなあ。
で、オンエアはいつですか?
あの番組の企画って言えば人ひとり消すのも容易い説 悠井すみれ @Veilchen
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます