第32話:最終決戦
聖歴1216年4月6日:エドゥアル視点
『人間ごときが、思い上がるな!』
郷土神たちとは比べ物にならない桁違いの魔力がこもった言葉が、心と頭に叩きつけられたが、準備をしていた俺にはまったく通用しない。
ゴッドドラゴンのラファエルをガブリエルの従魔にしようとして、誓約をかけた管理神がいる事を知っていた。
俺をガブリエルの育成者にした上位神がいる事も知っていたのだから。
「思い上がっているのは、お前たち神々だ!
力があれば何をしてもいいと思っているのか?
他の世界に住む神や生き物を自分の思い通りに支配しておいて、よく恥ずかしげもなく善神だと名乗れるものだ。
お前らのようなモノは悪神、いや、悪魔と言うんだ」
『神に逆らう不届きモノめ、魂まで焼き尽くして滅ぼしてくれる』
「じゃかましいわ、滅びるのはてめぇえだ!」
「エリア・ウルトラ・ヘル・ファイアウォール。
エリア・ウルトラ・ヘル・ウォーター・フロウ。
エリア・ウルトラ・ヘル・サンシャイン。
エリア・ウルトラ・ヘル・アース・ウォール。
エリア・ウルトラ・ヘル・アース・ランス。
エリア・ウルトラ・ヘル・ウッド・アロー……」
などと叫んで、悪神に使う攻撃魔術を悟られるようなバカはしない。
やっている事は許し難い悪質な行為だが、こいつらはそれを善だと言い張り、ホーリーと言う魔術属性としている。
だから、ホーリー系の魔術は悪神には通用しない。
だから、悪神と敵対している邪神の属性を持つ魔術で攻撃する。
『ギャアアアアア、おのれエドゥアル、やはり我ら善神を裏切っていたか。
邪神に魅入られた悪魔の手先め、滅ぼしてくれるぞ』
こいつは悪事を善だと言い張る身勝手きわまりないクソだが、この世界に生まれた郷土神を支配するくらいの力はあるのだ。
ゴッドドラゴンのラファエルにむりやり誓約させるだけの力もある。
俺が放った100の邪魔術に耐える事くらいはできる。
「滅びるのはお前なのじゃ。
妾にむりやり誓約をさせた罪、万死に値するのじゃ」
孤児院の子供たちの護りを俺と交代したラファエルが、積年の恨みを晴らすべく、当初の300倍以上になった魔力を併用したブレスを放つ。
ゴッドドラゴンの神の系譜につながる聖なるブレスではなく、純血種ドラゴンとしての灼熱のブレスに、邪魔術の地獄の業火を付与したブレスだ。
『グッギャアアアアア』
不意を突いて背後から放ったブレスだったが、それでも神の中の神だ。
ラファエルが管理神と呼ぶ、バカ神たちを支配するほどの力を持つ神だ。
とっさにとてつもない魔力を込めた防御魔術を展開しただけでなく、自分の身体にも魔力を行き渡らせて、身体強化をしやがった。
さらに転移魔術を展開してブレスを避けようとしたのだ。
「今の妾から逃げられると思うなよ、管理神、もう1度喰らうのじゃ」
管理神が展開した防御魔術は粉砕され、転移魔術もラファエルがブレスと同時に展開していた、魔術を無効にする対抗魔術によって発動を封じられていた。
さすがに単純で簡単な防御魔術を封じる事はできなかったようだ。
管理神の膨大な魔力で、むりやり防御魔術を展開したのだろう。
それでも、最初のブレスで身体の半分を消滅させられた管理神は、もう死ぬしかないだろう。
『うっははははは!
愚か者どもが、本当に我に勝てると思っていたのか。
我の真の姿を見て驚くがよい』
ラファエルが放った邪魔術と複合させたブレスを、管理神は逃げる事なく受けた。
だが、燃え滅びる事なく、ブレスを受けながら俺たちに悪態をつく。
悪態をつきながら、半分消滅させた体を強大化させている。
『上位の神々に隠れてこの世界を作り替えるのはもう止めだ。
人間ごときに滅ぼされるような善神の体など、何の未練もない。
邪神様は我にこの世界を任せると約束してくださった。
もう偉そうに指図される事はないのだ、いや、今度は我が今まで偉そうにしていた上位神どもに指図してやる』
(ラファエル、邪魔術は管理神を強大化させるだけだ)
(だったら聖なる魔術をブレスに併せるのじゃ)
(ダメだ、この卑怯者なら、聖なる魔術を感じたとたん、元の神の姿に変化するかもしれない、危険だ)
(だったらどうしろと言うのじゃ、エドゥアル)
(純粋な魔力のまま叩きつけろ。
それで通用しないのなら、魔力を純血種ドラゴンのファイアブレスに変換しろ)
(分かったのじゃ、手出しするなよ)
(ラファエルが危険だと思ったら、恨まれても介入するからな。
死ぬ気でブレスを吐けよ)
(分かっているのじゃ)
ラファエルが俺との訓練を生かして多面複合的に魔術を展開する。
呪文を唱えるのではなく、とっさに思い浮かべるだけで魔術が展開する。
複数の異なる属性の魔術が邪神に変じた管理神に降り注ぐ。
聖なる属性を持たない、熱や強度を力とした攻撃魔術だが、魔力変換効率が悪い。
むりに魔術を転嫁するよりも、純粋な魔力叩きつけた方が効率的な魔術もある。
『グッギャアアアアア!
おのれ、よくもやりおったな、これでも喰らえ』
管理神が100を超える邪魔術をラファエルに叩きつけようとした。
だがラファエルも100を超える聖なる魔術を展開して迎え討つ。
管理神が邪魔術で魔力を消費してくれるのなら、ラファエルはゴッドドラゴンの属性を使って効率のいい聖魔術で対抗できる。
『うぬぬぬぬぬ、喰ってやる、喰い殺してやる』
1度は誓約で縛ったラファエルに圧倒されて我を忘れたのだろうか。
神としての強大な姿をすてて、アメーバーのよう姿に変化しやがった。
魔術や魔力で戦うのを止めてラファエル包み込もうとしている。
アメーバーのような姿が邪神の性質なのだろうか。
(ファイアブレス)
よほど莫大な魔力をファイアブレスに変換したのだろう。
ラファエルが念じ想像した想いが俺に伝わってきた。
白く輝く誰にもマネできないファイアブレスが管理神を包む。
一点だけを貫くブレスではなく、線でなぎ払うブレスでもなく、広範囲に効果を与えるファイアブレスだった。
『グッギャアアアアア!』
管理神は聞く者の魂が恐れを抱くほどの苦痛に満ちた悲鳴をあげた。
白い火炎ブレスにつつまれた表面を焼き滅ぼされながらも、管理神はラファエルを喰らおうと、執念で広がり包み込もうとする。
(ラファエルを喰らって失った力を取り戻すつもりだ。
ここで完全に焼き滅ぼさないと復活するぞ)
俺はラファエルにそう伝えながら、魔力を純粋な炎に変えて周囲を焼いた。
こそくな管理神なら、復活をもくろんで自分の一部を隠している可能性がある。
大闘技場跡にできたクレーターはもちろん、破壊を免れた王都の隅々まで炎で焼いて浄化しなければいけない。
生きている生命まで浄化しないように気を付けるのが邪魔くさい。
『グッギャアアアアア!
おのれ、人間やドラゴンごときに負けてたまるか。
必ず復活してお前たちを殺してやる。
いや、この世界の管理を任されていた我を殺したのだ。
上位神や始祖神がお前たちを許すはずがない。
ワッハハハハ、死ね、殺されろ。
お前たちが上位神に殺されてからゆっくりと復活してやるぞ』
バカが最後にいい情報を残して死んでくれた。
管理神と上位神は別の存在だったのだな。
しかも、上位神の上に始祖神という存在までいるのか。
孤児院の子供たちを護るためには、今のままではいられないな。
(死ね、妾の誇りを傷つけ、ゴッドドラゴンの名誉を地に落とした恥ずべき神ども。
ゴッドドラゴンの王女としてここに誓う。
ゴッドドラゴン族の名誉を取り戻してくれたエドゥアルのためならば、上位神であろうと始祖神であろうと滅ぼしてみせる)
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。 克全 @dokatu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます