天道虫の知らせ

味噌わさび

第1話 天道

 予知能力とか、第六感というのがあるのかどうかは知らないが、そういうものに似たものがあるというのは、俺としてもなんとなく同意できる。


 なぜなら、限定的ではあるが、俺自身にそういう能力のようなものがあるからである。


「……雨か」


 その日、窓の外は雨が降っていた。かなり激しい雨だ。


 ふと、机の上を見ると、どこから入ってきたのかわからないが、天道虫が歩いていた。


 特に気にすることもなく、俺は窓の外に視線を戻す。


「……止んでる」


 雨はいつのまにか止んで、晴れ間さえ見えていた。今一度机の上を見ると、天道虫はいなくなっていた。


 といったように、俺の場合は、天道虫を見つけると、天気が晴れるのである。


 どんなに激しい雨や嵐でも、天道虫を見つければ絶対に晴れる。


 だから、俺としても、天道虫を見つけると、晴れるのだなと、予感というか、予知のようなものを感じするのだ。


 まったく、変な能力だとは思うが……まぁ、迷惑ではないときというのもある。


 と、その時、スマホに着信があった。


「はい?」


「あ、もしもし? 明日のデート、忘れてないよね?」


 最近付き合い始めた彼女からだった。


 彼女には、晴れが似合う。いつも明るい。そんな彼女に、俺はそれこそ、天道虫が太陽に向かっていくように、惹かれていった。


「忘れてないよ。大丈夫」


「そっか。あはは……なんか、ごめんね、心配性で……あ~、でも、大丈夫かなぁ。明日、天気とか」


 ふと、俺は今一度窓を開けてみる。それと同時に、部屋の中から天道虫が飛んでいった。


「……大丈夫。絶対に晴れるよ」


「え? なんで? 天気予報そんなこと言ってた?」


 俺は確信していた。明日も、俺は絶対に天道虫を見つけるし、天気は晴れる、と。


「いや、虫の知らせ、ってやつかな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天道虫の知らせ 味噌わさび @NNMM

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ