冒険が突然やってきて、うちは焦ったよ。
五木史人
メリーゴーランドは回る
赤煉瓦の洋館の中庭に、それはあった。
忍者の勘で、何か違和感は感じたのだが。
うちは、くノ一の炉(いろり)と申します。
今日は、清貧美少女の絵里奈(えりな)ちゃんと、お金持ちの依之助(よりのすけ)くんの家に遊びに来てます。
うちは遊びに来る途中に、新作の忍法帖をどこかに落として、ちょっと凹んでる。
まあ素人が拾っても、開封すら出来ないものだから良いんだけど。
「メリーゴーランドだ!」
貧乏な美少女・絵里奈(えりな)ちゃんは、歓喜の声をあげた。
絵里奈(えりな)ちゃんは、
「貧乏なので遊園地に言った事がない!」
と言うので、お金持ちの依之助くんの家に来たのだ。
なぜなら依之助の家には、小さいながらもメリーゴーランドがあるのだ。
3人乗りの小さなメリーゴーランドとは言え、びっくりだ。
でも依之助くんは、習い事に行ってしまって、2人きりだ。
絵里奈ちゃんは大喜びなのは良いのだが、うちと絵里奈ちゃんは、もう3時間以上メリーゴーランドに乗っている。
「ねえ、もうそろそろ降りよう」
と、うちが言うと
「まだ乗ってる!」
と幼児の様な我儘娘だ。
依之助(よりのすけ)くんの家のメイドのお姉さんが、遠巻きに見つめていた。
その視線が何かを語っていた。
何?
あれ?回転速度が上がってきてない?
時計回りのそのメリーゴーランドは、まるで時間が加速しているかのようだ。
「止めて!止めて!止めて!」
うちは、メイドのお姉さんに助けを求めた。
メイドのお姉さんたちが、動く気配はなかった。
それでも、絵里奈ちゃんの歓喜の声はまだ響いていた。
メリーゴーランドが回り、うちの意識も回った。
うちは木馬にしがみついた。
くノ一であるうちは、飛び降りく事も出来るはずだが、飛び出す気力が消耗していた。
大きな太陽が、メリーゴーランドのすぐ近くで輝いていた。
見た事がない時代の見た事がない人達が、メリーゴーランドの周りで踊っていた。
幻想?
うちは木馬にしがみつきながら、ある光景を見た。
細い路地の雨どいの裏にある新作の忍法帖を。
あそこに落としたんだ!
この幻想は忍法帖の仕業か?
第六感を覚醒させた?
メリーゴーランドは回転速度を落として行った。
「ふぅ」
「めっちゃ楽しかったね」
絵里奈ちゃんは、初めてのメリーゴーランドに大満足だった。
それはそれで良かった。
降りる際、絵里奈ちゃんの方から、手を握ってきた。
くノ一のうちとは違い、か弱く柔らかい手だった。
嬉しい。
完
冒険が突然やってきて、うちは焦ったよ。 五木史人 @ituki-siso
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