名探偵「シックス」

砂漠の使徒

第1話(最終回) 事件の予感

 ごきげんよう、諸君。

 私は人呼んで「名探偵シックス」。

 探偵であることは自覚しているが、「名」まではつかない未熟者さ。

 そんな私の特技は「第六感」。

 君達は第六感をご存じだろうか。

 人によっては虫の知らせとでも言うだろう。

 私はそれが人一倍強い。

 ゆえに、事件が起きる前にそれを予知することもできるのだ。

 しかし、唯一で最大の欠点は不安定なことだ。

 いつこの第六感が発動するかは不確定。

 また、その内容もかなりおおざっぱで事件解決に導くにはかなりの努力が必要になる。

 だが、ご安心を。

 私はこれでも、探偵だ。

 己の第六感の指し示すものを推理するのも仕事の一つ。

 どんな事件だろうと……。


「む!」


 久しぶりに、感じるぞ!

 今まさに事件が起ころうとしている。

 現場に急がねば!


「先生、朝食を!」


 助手のファイブ君の制止を振り切り、家を飛び出す。


―――――――――


「ふむ……」


 私が今いるのはジェームズ邸。

 と言っても、主人は数年前に死亡し、今は荒れ果てている廃墟だ。

 そこで事件が起きようとしている。

 私の第六感がそう告げているのだ。


 たしかに、事件を起こすならここは最適な場所だろう。

 めったに人が来ない郊外の廃墟。

 誰かに目撃されることもなければ、死体さえも見つからないかもしれない。


 凶器はなんであろうか。

 なにも死傷者が必ず出るとは限らない。

 しかし、私の経験と第六感は被害者が出ると予測する。

 例えば、この散らばっているガラス。

 この破片で犯人は首を掻き切るかもしれない。

 あるいは、この壺。

 東洋のショクニンが作ったと言われる価値あるものだ。

 今はこの廃墟で静かに眠っているが、この大きさ、重量。

 鈍器には十分だ。


「待てよ」


 犯人は密室トリックを考えているかもしれない。

 私は今にも抜け落ちそうな床を慎重に踏みながら、玄関からすぐの部屋に入る。

 うむ、もちろん普通の部屋だ。

 今は特に仕掛けがされていない……ように見える。

 だが、この絨毯。

 床に開けられた落とし穴をごまかすために敷かれているものかもしれない。

 今回はほこりの積もり具合から見て、動かされていないのでその心配はなさそうだが。

 あるいはこの窓。

 密室トリックの要である密室を作るための細工があるやも。

 例えば、外から鍵を閉めるために……。


「む……?」


 あるぞ。

 この鍵に緩く結ばれている細い糸。

 きっとここで被害者を殺害した犯人が、外から鍵を閉めて……。


「さすがですね、先生」


 突如馴染みのある声が聞こえた。

 振り返ると、そこには。


「ファイブ君」


 私の愛しい弟子ではないか。

 どうしたんだ、銃を持って。

 まだ犯人は現れていないぞ。


「僕は前から、先生が嫌いだった。第六感だなんて、探偵に反します」


「そうは言うが、事実事件を解決して……」


「死んでください」


 静まり返っている邸宅に銃声が鳴り響く。

 私はまさか彼が本気とは思わず、反応が遅れ避け損なう。

 しかし、ご安心を。

 このコートは……。


「ぐはっ!」


 忘れていた。

 あの防弾チョッキ兼コートは昨日ファイブ君にしつこく頼まれてクリーニングに出していたのだ。

 なるほど、このためだったのか。

 私は倒れこみ、血の海の中で彼の捨て台詞を聞く。


「肝心の犯人がわからないんじゃ、第六感なんて意味ないじゃん……」


 今度推理するときは……犯人……か……ら。


(完)

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