推し活の方法は人それぞれ
風見☆渚
ひとはみかけによりません
俺は、どこにでもいる平凡なサラリーマン。
仕事は、学校で使う為の文房具を卸す商社に勤めている。
体型は、デブ。そしてモテない。
そんな、どこにでもいる只の人間の俺の唯一の趣味。それは、これからのアイドルを発掘し応援し育てること。そして、彼女たちを見送る事を生き甲斐としているからこそどんな仕事でも頑張れる。
地下アイドルには兎に角金が掛かる。積んで積んで、兎に角積んで。
俺には、そこへさらに見守る為の資金も重要だ。未来を夢見る少女達の応援には、兎に角金が必要。だからこそ今日も仕事を頑張ろう!
俺の今一推しのアイドルが、1年くらい前から活動している“ねこねこ戦隊にゃんかりおん”といユニットで活動する“にゃおパープルのよしにゃん”こと“由脇由依”ちゃん。彼女の笑顔の為ならどんな労働でも絶えられる。そんなある日、俺が納品にいった学校に居たんだよ。
誰がって?彼女に決まってるじゃないか!
仕事柄色々な学校を回る。小学校から高校、大学まで様々な学校に堂々と入れるこの仕事は俺の転職だ。今までも推しの学校を調べ、その学校には猛営業で導入を勝ち取る。
どこにでもいるデブの俺ですが、実は会社の成績はかなり良い方なのだ。
俺のことより彼女の、よしにゃんの事だ。
彼女との出会いは偶然だった。
地下活動したばかりのアイドルに基本情報はない。しかも、今回は尾行を何度もまかれてしまい、学校は疎か自宅の場所すら調べ尽くせなかった。
そんな彼女を偶然見つける事が出来た俺に神降臨!
しかもしかも、仕事で納品中に偶然見かけた彼女と目が合った。その瞬間彼女は俺に、こんな俺に、こんなデブで冴えない汗臭いガチ恋勢キモヲタの俺に笑顔で手を振ってくれたんだ。もうこれはもっともっと推すしかない!彼女の為なら何でも出来る!
彼女の学校がわかった。そこからは、いつもよりイージーな推し活だった。
自宅の場所はもちろん、家族構成や同居家族の生活リズムを把握。自宅の間取りから彼女の部屋を確認。細かいカメラの向きやマイクの配置を調整する期間が数日予定よりもかかってしまったが問題ない。今回の俺の推し活の準備は全て整った。
これからは、24時間いつでもよしにゃんと一緒。
今までは、毎月のイベントや遠征しての活動、毎日のSNS更新チェックしか出来なかったが、これからは学校から帰った後のよしにゃんをいつでも観られるんだ。仕事にも精が出るってな。
今回の推し活を満喫して3ヶ月がたった頃、彼女の生活パターンがわかってきた。
6時半起床。寝起きで洗面台の角に足をぶつけてうずくまるよしにゃん、マジKAWAマジangel。学校の準備を済ませ8時には登校。今日も長い髪の毛先がまとまらないとお悩みのよしにゃん、マジKAWAマジangel。16時には帰ってくるが、仕事やレッスンのある日はそのまま事務所に直行だ。忙しいよしにゃん。まだまだ高校生のよしにゃんは遅くても22時には帰宅している。事務所もちゃんとやってくれているようだ。どう考えても飲んだ勢いの思いつきで作ったようなアイドルユニットだが、そんなユニットでも頑張って輝くよしにゃん、マジKAWAマジangel。
23時には自室でノートPCの前に座りSNSチェックは欠かさない。ファンを大事にするよしにゃんはマジ神だ。だが、一つ気になっている事がある。
SNSチェック以外にもPCで何かをやっているのだ。しかもニヤニヤしながら。その
何かを観ている時間はよしにゃんのリラックスタイムになっているようだから、どこにでもいるごくごく普通の一ファンとしては嬉しいことなのだが。やはり、どんな方法でストレス発散しているのか気になる。推しの趣味は絶対気になる。よしにゃんのことだから、もしかすると愛らしい動物の画像でも眺めているのだろうか。彼女が使っているイヤホンの性能が高いせいなのか、マイクの音声が全く入らない。マニアックな動画でもチェックしているんだろうか。
もしや・・・男か?!男なのか?!
男はダメだ!よしにゃんの危機を感じ取った俺は、見守り強化でカメラ配置を何度か変えてみたりもした。だが、毎回見る場所が変わりどうしてもPCの中を観ることが出来ない。彼女が使うPCは薄型で小さいノートタイプ。そのせいか、毎日持ち歩いているからPCを直接調べる事も出来ない。
どうしたものか・・・
俺の悶々とした推し活が2ヶ月ほど過ぎたある日の日曜早朝。今日は珍しく家族全員が不在にもかかわらず彼女がPCを置いたまま出かけて行った。このチャンスは逃せられない。
そう思った俺は早速彼女の部屋へ入った。
久しぶりに入るよしにゃんの部屋。
まずは深呼吸。
すーはーすーはー・・・・・
体全体によしにゃんエキスを充満させ、いざPCへ。
予測通りの画面ロック。自慢じゃないが、俺はパスワードの解除で手こずったことは一度も無い。
「おじゃましまーす」と独り言を言いながら彼女のPCをひらいた俺は隅々までファイルとフォルダーをチェック、中でも一番稼動率の高いアイコンを発見。早速クリック。
そのファイルの中身は、何かの画像が写し出されている。いや動画か?
どうやら、遠隔カメラでどこかを場所を撮影しているような映像が生配信されているようだった。
それにしても、この画像に映っている場所、どこかで見たことあるような・・・・
机や棚の配置、このイスは・・・
?!
コレってまさか、俺の部屋?
そんなことあるはずがない。よしにゃんが俺の部屋を知ってるはずが・・・
何度も何度もPCに映っている画像を隅々まで見ているが、どこからどう見ても俺の部屋だ。
何故?どうして?!と混乱しながらPCで操作可能なカメラの角度をイジっていると人影が見えた。
拡大、拡大・・・・・!!!!!!!!!!!!
ん?!よ、よしにゃ・・・ん?
カメラに映っているよしにゃんは、俺の部屋に散らかっている服や肌着、さらには下着まで物色した全てのモノを自分の顔に擦りつけている。どうやら臭いを嗅いでいるようだ。
今まで見たことのない程にうっとりと悦な表情を浮かべた彼女がカメラ目線でウインクをし、そのまま部屋を出ていった。
何故、どうして?何が起こっているんだ。
俺は混乱し、その場から動けなかった。
すると、この家には彼女はもちろん家族の誰も居ないはずが、俺の居る彼女の部屋のドアがゆっくりと開く。ドアが開く事に気が付いた俺が振り返ったが一歩遅かった。全身に走る電気の痛みに気を失った。
目を覚ますと、俺は何故か全裸でイスに座らされている。
叫ぼうとしても、大声が出せない。小さく微かな声が精一杯。
暴れようとしての体に力が入らない。
唯一動かせる眼球で辺りを見回したが、状況が全く掴めない。
だが一つだけわかる。ここは俺の部屋だ。
さっきまでマジKAWAマジangelなよしにゃんの部屋にいたはずの俺が、何故自分の部屋でしかもこんな状況。
理解不能でパニックになっている俺の目の前に現れたのは、先月発表したばかりの新曲で使うステージ衣装で身を包んでいるマジKAWAマジangelのよしにゃんだ。
よしにゃんは、今まで見たことのない悦な表情でゆっくり俺の体を端から撫でている。
「あなた、わたしのファン?それともストーカー?」
「だ、大ファンだよ!よ、よしにゃん。大好きだよよしにゃん。な、なんで・・・」
「なんで?だってコレが私の推し活だもん。私ね、まるまると太った人が大好きなの。私ね、昔はすっごい太っててすっごい自分が嫌いだったの。でもね、脂肪吸引やって鍛えて頑張ってやっとこの姿になったの。だから、私が大好きなおデブちゃんのファンをスリムでかっこいい人にするのが私の推し活♪」
悍ましい笑みを浮かべているよしにゃんの手には、太めの注射器が優しく握られている。
「や、やめて!やめてくれ!やめてください!やめろーーーーー!!」
「や~めない♪大丈夫、痛いのは最初だけだから♪」
由脇由依は笑みのまま、俺の腹に注射器を刺した。
何故か、痛くはなかった。
ただ、その注射は針も本体も太く大きい。射されたままの注射を経由し、俺の体から血だけでなく脂肪らしき黄色い塊や何かわからないモノが次々に体の外へと放出されていく。
「や、いやだ!いやだーーー!たすけ、助けて下さい、あ、お、お願いしまします!おねがいします!!おねがいします!!!」
「だーめ♪もう少しであなたもかっこよくなれるから♪」
助けを求める俺の小さな声は次第に出なくなり、自分の体から何もかもが吐き出されていく中、意識が遠のいていく。完全に声が出なくなってぐったりした後、微かに彼女の声が聞こえてきた。
「ちっ。死んじゃったんだ。折角同類に出会えたと思ったのに。あー冷めた萎えた!
さ~て、次は誰を推しにしようかな~♪ふふっふ~ん♪」
推し活の方法は人それぞれ 風見☆渚 @kazami_nagisa
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