【KAC20222】人外外道の推し活事情

朝霧 陽月

ひとりごと

 あの日、僕はたまたまそれを目にした。


「どうして……どうして……」


 灰になった故郷で雨に打たれながら、家族の亡骸を抱えて慟哭する少女の姿を。


 その時は、まだそこまで気には止めていなかったが……。



「私、魔王を倒します……これ以上、自分のような悲しみを背負う人が増えないように!」


 あの宣言のあと、本当に試練をくぐり抜け、勇者になってしまったことには痺れた。

 誰もが年端もいかない彼女のことを馬鹿にする中、彼女はやり遂げて見せたのだ。


 それから自分は彼女のことを調べた、生い立ちに、ひととなり……そう、彼女の人生を構成してきたその全てを徹底的に。


 そうすると驚くべきことに、その少女は元々武術の心得も全く学んでいない、ごく普通の村娘だったというではないか。


 故郷や家族を失ったをきっかけに彼女は変わり、そしてここまで鍛錬を重ね、勇者になるに至ったらしい。


 ああ、なんと…………面白い。

 なるほど、大概の人間は現状に絶望するだけだが、稀にこのような奮起をする個体もいるのか。

 数千年の退屈も吹き飛ぶような喜びが、僕の全身に駆け巡った。


 名を覚える価値もない人間たちを殺し、その嘆きや悲しむ様で、少しばかりの渇きを潤してきた僕だが、初めてもっと色々試してみたいと思えた。



 命のギリギリまで追い詰めたられた時、彼女はどうするだろうか。


 逆に一旦幸せにしてから、その幸福を取り上げて踏みにじったら、どんな顔をするだろう。


 どれだけ苦しめれば、涙を流すのだろうか。


 知りたい知りたい知りたい……!!


 でも彼女は決して替えが効かないから壊さないように慎重に、少しでも長く楽しめるように、時々優しくメンテナンスもしなくてはいけない。



 もしかしたら、僕の全ては彼女に出会うためにあったのかも知れない。

 調子づいていた神々を滅ぼした時にも、一つの大陸をまるまる血の海にしたときにも、ここまで高揚することなんてなかった。


 ああ、早く会いたいな……でも一方で、ずっと眺めてたい気持ちもある。


 まあ、着実にしっかり育てよう。

 死なないように、自分以外の誰かが壊せないように……。


 この僕魔王が、見守っているのだから失敗なんて有り得ない。



 君が我が玉座に辿り着くまで、きっちり面倒を見てあげるよ。

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【KAC20222】人外外道の推し活事情 朝霧 陽月 @asagiri-tuyu

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