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私は知っている。


この男には『好きな人がいる』ことを。






「かーいちょ」




他に誰もいない生徒会室の中、今日も私は彼に呼ばれる。




作業を中断して見上げれば、すぐ隣にその男はいて。


私は"その時間"が来たことを察して彼を見上げた。




降ってくる唇に、私は何も言わずに瞼を閉じる。


額に、頬に、鼻先に……キスするならさっさとして終わって欲しいのに、この男はまるで愛しい人に接するかのように。


耳をはみ、瞼を撫で、そしてようやく。




そうして私はまた、弱みをこの手に、彼の欲に溺れていく。






「ちょ、腰撫でないでよ」


「え、だめ?」


「そもそも、キスだけって話でしょ」


「俺もうお預け食らって1ヶ月も経ってるんだけどなぁ」




そう言って机の上に座るその男、副会長のかけい明楽あきらという男である。




「調子乗んな、カケイ副会長」


「俺とリアとの契約でしょー?」


「それは……!……き、きすだけって、話で」


「ウブなかーいちょかわいー」


「バカにしてない?」




首の裏に腕を回されると、彼の動きが止まる。


そのまま項を、つつっと短く、弱く触れられて。


背骨を辿るようにその指先が降りてくる。




服の上なのに、なんでこう、いちいち触り方が……っ。


もぞもぞしている私の唇をまた塞ぐ男は、「物足りなくならない?」と私の顔を近距離から覗き込む。




解っててやってるクソ野郎。




「生徒会室なんだけど」


「場所変えればいいわけ?」


「そうじゃなっ……ちょっ、やめ」




降りてきた唇が首を撫でると、体がビクッと大きく跳ねた。











私たちは付き合っていない。


ただ少しだけ、弱みを握られていることから始まったって関係。










「会長今日も美しい……」


「ほんとカッコイイ、男子より惚れる」


「この前なんて花壇の前で水かかりそうになった子を身を張って守ったって」


「なにそれイケメン」


「なんでそんなカッコイイのに女に生まれてしまったんだ会長……」




なんか、変な会話が聞こえてくる廊下。


私、福田ふくだ莉愛りあは今日も会長として早めに学校へ登校してきた。


生徒会長を少々していて、目立つだけだ。






というか、




「はよーーっすかいちょ!今日も麗しいねぇ」




目立つのはコイツ、かけいの方。




「ウザ」


「酷くない?今日は長いのしよっかぁ?」


「…………ッ、黙って」




今日もウザ絡みしてくる筧副会長がウザイ。


なんで一時期でもこのチャラ男に惚れ込んでいたのか、今となっては自分がもうわからない、黒歴史だ黒歴史。


私は額を手で覆ってため息を吐いた。




「それすらエr」




なにやらほざく筧に、すかさず腰に膝蹴りを食らわせたのだった。


性欲魔は黙ってろ!




「会長と副会長がお戯れになってるわ!」


「ほんと、あんな会長の姿を引き出せるなんて、副会長のあの方くらいしか──」




「ねぇちょっと、変な噂されてるからやめて」


「はは、自分が蹴ってきたんじゃん」




そう言って軽々と避けて逃げる筧に、私はカチンと頭にくる。


する時に舌噛んでやろうかしら!














なんて思っていても。




「……ん、ふ」


「もっと、リア」


「むり、……あ、」




人間の舌を噛むなんて怖いこと、ビビりな私には出来なくて。




生徒会室の隣にある備品室の中で私たちはいつものように蜜事をする。




頬に当てられる指先が柔らかく頬を撫でてから首元へと降りていく。


ぞわりとした感覚に肩が跳ねると、くっつけたままの筧の唇が弧を描いたのを感じた。


そのまま首を撫であげられると、耳元へ移っていく指先に、吐息が漏れる。




「……っしつこい」


「長いのするって言ったでしょ」


「了承してない」




……って、言ってるのに、筧はまた私の唇に噛み付いてくる。


いい加減心臓がドクドクと煩いし、耳をいじっている指先が気になって仕方がない。


腰を引き寄せられ、さらに密着する体に、息が苦しくなっていく。




「はぁ……可愛いね、リア」


「……るさい」


「はは、照れてるー」




ようやく耳元にある手が離されて、その手は頭をぽんぽんと柔らかく撫でる。


今度は子供扱いされているようで、私はムスッと顔を顰めた。


腰に回された手はそのままだ。




「もう終わったならいいでしょ、会議いくわよ」


「つれないねぇ……でもいいの?」


「なにが」




頬に再び落とされた指先が目尻を撫でるから、ピクっと反射的に瞬きすると。




「顔まっかっかだけど、そのエロい顔みんなに晒すわけ?」


「だ、誰のせいだと思って……!!!」




もうやだ、もうやだこの変態……!!!




くすくす笑う、腰にある奴の手を振り払って距離をとると、いててと手を振ってニヤニヤ笑う。


ほんと、なんでこんな奴に惚れていたのかわからない!


もう惚れない、そんな間違い起こさないから!


そうぷりぷり怒って、私は備品室を出ていった。




「あ、会長戻ってきた」


「お疲れ様でーす……あれ会長赤くないですか?」


「怒ってるの。ごめんなさい頭を冷やすわ」


「あらら、また副会長なんかしでかしたんですか」




後ろから出てくる筧……副会長が、くくっと笑って答える。




「またってなんですか。そんな年中はやらかしてないでしょ」


「この前生徒に靴投げてたじゃないですか」


「それはぁ、変質者がそこにいたから制裁しただぁけ」




のらりくらり、今日も副会長の仮面を被った男はその自分の席に座る。


頭の中がさっきのことでいっぱいになりそうな中、今日の議題について話し始めた。




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