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私たちは付き合っていない。
ただ生徒会長と副会長、キスをするだけの関係、弱みを握った者と握られた者。
「んむっ」
「もっと溺れて、リア」
でもね、怖いの。
溺れてしまったら、あなたがいつかいなくなってしまう日がもし来たらと思うと、私は耐えられなくなるんじゃないかって。
母はもう家にはあまり帰ってこない。
帰ってきても言葉をかわさない。
お酒の香りに包まれながらばったりと倒れるように布団に入り込む。
その横でタバコをくすねる私は悪い子なの。
気付いてくれないの?
それとも気付いていて黙ってるの?
私は、私は母にただ、ただね。
私に気づいて欲しいと思って、この悪事を続けているのだと思う。
そんな自分に、ただただ虚しくなる。
そんな心を埋めてくれるかのように、今日も。
「まって、だから首は」
「耳のがいいって?」
「だかっ……ちょっ、ん、」
筧が私を喰らい尽くすの。
「ちなみに、会長と副会長って今どうなんですか?」
「なにが?」
ふと、会計の子が私と二人になった時にそう話題を振った。
「だから、あの……付き合ったんですか?」
「……。……は?」
「え、違いました?」
いきなりガールズトークが始まったようで、私はきょとんとする。
書類から目を離し、その子を見れば、おかしいなぁというかのように首を傾げていた。
「いや、だって副会長からダダ漏れなんですもん」
「何がよ」
「会長のこと、愛しい〜〜〜!!みたいなあの目!ぜーったい特別に見てますよね?ていうか会長もわかってるでしょう?」
「……それは、変態だからでは?」
「え、なに、本気で言ってますそれ?」
会計ちゃんにため息をつかせてしまった。
「報われないなぁ、副会長も。会長、学生には恋愛事情も大事なんですよ?今のこの当たり前な時間は今しかないと思ってください!」
「……つまり?」
「はやくくっつけばいいのに」
「それが本音か」
私だって考えてないわけじゃないし、アイツを意識してないこともない。
そもそも、初恋の相手というのは変わらないし……。
でも私はその1歩が踏み出せなくて、もたもたしている。
「いやでもぉ、ほんと、会長は頑張りすぎるくらい頑張っちゃうので。もっと自分の時間を大切にして欲しいと思うのですよ」
「大切に?……してる、わよ」
「ほんとにー?」
自分の時間は、うん、大丈夫だと思う。
ただ、自分の心や体は、傷付けてしまっているかもしれない。
あの快楽に浸れる煙によって。
「会長みてると完璧すぎて心配になってくるんですよ。安心感もあるんですけどね?」
「そんなに心配にさせてしまっている?」
「弱み、見せられる相手がちゃんといるならいいんですけどね」
そう言って彼女は荷物を纏めて鞄に入れた。
「今日、彼氏連れてパフェ食べに行くんです。お先に失礼しますね」
「あぁ、それで恋愛の話を?」
「ふふ。会長も幸せ、掴んでくださいね」
ガッツポーズをされ、彼女は早々に生徒会室を後にした。
幸せを、掴む……?
彼女がしていたようにガッツポーズを真似てみる。
それでなにが変わったというわけでもない、けれど。
その手を胸に持っていくと、ふと思い出すのは筧の顔だった。
『俺?好きな子いるんだよねぇ』
それを聞いたのは1年の秋頃だっただろうか。
教室の端で数人に囲まれ話していた何気ない言葉を聞いて、私の恋は終わったのだと察した。
それまで何気なく話しかけられては、私の心はときめかされていた。
軽そう、けれど優しい。
話しやすくて、よく話しかけてくれる。
こんな私を気にしてくれる素振りを見せられると、優しさに飢えた私の心にはあまりにも潤いを与えてくれて。
終わった……と思っていた恋愛がまさか、こんな形で……キスするような間柄になるなんて、あの頃は思ってもいなかった。
タバコも……筧だけに気付かれたんだよなぁ……。
タバコを吸った次の日、筧のキスは激しめになる。
匂いとかで、わかるのかな。
筧にだけ気付かれている、私の秘密。
それを思うだけで、胸がぎゅっと苦しくなった。
私たちはキスしかしない。
……いや、体を触ることは結局許してしまっているけれど、一線は超えない。
筧も超えてこようとはしない。
まるで、備品室や生徒会室でのあの時間は、恋愛ごっこをしているようだと思った。
恋愛とまではいかず、友達という枠では括れない、その間にある恋愛の、ごっこ遊びのよう。
けれど……。
『会長のこと、愛しい〜〜〜!!みたいなあの目!ぜーったい特別に見てますよね?』
そう言われた私は確かに、期待をしてしまっていたんだ。
一度諦めた恋愛、けれどもし、もしも、彼の好きな人がもしも変わっていたなら。
もし私に少しでも……可能性があるのなら。
『会長も幸せ、掴んでくださいね』
私も、幸せを掴めるだろうか。
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