恋愛ごっこ
RIM
Prologue
ゆらりゆらり、揺れて昇って消えゆく煙は空に散る。
その棒一本で快楽に浸り、肺を
付いたリップが光を反射して、また自分をあざ笑った。
息苦しい世の中から背を向けるように。
息苦しい世の中の縛りから抜けるように。
息苦しい、この自分の性格を踏みにじるように。
私が息をするために。
「こーんなところで女の子がたばこ吸ってていーんですかー?」
ふと聞こえてきた言葉に肝が冷え、とっさに振り返った時、『あ、しくじった』と思った。
顔を自分から見せてしまったら駄目じゃないの。
けれど、時すでに遅し。
コンビニのある通りの路地裏で19時、人気なんてなかったはずなのに、私はあっさりとその人に見つかっていた。
「なーにしてるの、かいちょ?」
手首をやんわりと掴まれ、その指先で挟まれているたばこ。
17歳の私がしてはいけないことなんて、解っているし。
ましてや……。
「ねぇ会長、これ学校にチクっていい?」
「やめてっ」
『詰んだ』というやつだ、これは。
私服だし、大人っぽいとよく言われるし、母のカバンの中から一本くすねてくるくらい……そうして、そうしてまた、それを何度も繰り返して。
麻痺していたんだ、見つからないじゃんかって。
私のことなんて見る人、いないじゃないかって。
「どうしようね、会長の弱み知っちゃった」
「……なんでこんなところにいるの」
「生徒会室に忘れもんがあったから、会長に届けてあげようと思って」
ほら、と差し出されたのは、紙袋。
中身は、放課後暑くて脱いでいたカーディガンだ。
確かに、それは私が生徒会室に忘れていったもの。
けれど別に、わざわざ届けに来るようなものでも無いと思うのに。
とりあえず、この体勢で火のついているものを持ってるのは危ないと思い、掴まれている腕を抜けば、その手は簡単に外れた。
一緒に持ってきていた携帯灰皿にその灰を押しつぶして仕舞う。
まだ少し、残っていたんだけどなぁ。
「私を煽ってくる割にはあっさり手を離すのね」
「会長は逃げないでしょ。いい子ちゃんだし」
「今の見ていい子に見えてるの?」
「少なくとも地面に落として火消しすることはしなかったじゃん、ね」
にっこり、いつも通りに笑うその愛嬌のある顔が、今は暗闇の中に浮かんで怖く見えてくる。
いや、私が不安で仕方がないから、そう見えるだけかもしれない。
「どうせ逃げても、明日も会うもんね」
「……」
「それなら今口止めした方が、効率いいもんね?」
どう口止めしようかと悩んでいるところにそう言われてしまえば、腹も立つ。
「うざ」
「いつもクールな会長の焦った顔が見れて、俺は腹の底から楽しいよ」
「副会長のくせに性格悪すぎ」
けれど私も、コイツの性格の悪さを知っている。
今コイツは、学校で私の右腕なのだから。
会長の私、副会長のこの男。
私たちはいつも、生徒会室で顔を合わせるのだから、逃げ出したって逃げ道なんて無い。
「さて」
完全な諦めモードに入った私は、今度はこいつがどんな難題を吹っかけて脅してくるもんなのかと、睨みつけてその言葉を待つ。
どうせあと半年もなく生徒会は解散して次へ引き継ぐことになるんだから。
とりあえず今は、話を聞いて、無理そうなら妥協案を──。
「じゃあ会長、キスしよっか」
「は?」
腹の底からそんな声が出たのは。
かつて、私がこの男を好いていた頃が、一瞬にして蘇ってきたからだとは思いたくない。
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