十年ぶりに公式が推しを供給する

ヤミヲミルメ

十年ぶりに公式が推しを供給する

 十年ぶりに公式が推しを供給する。

 小一のころに大好きだったクレパス戦隊ニジュウヨレンジャーのフィギュアが出る。

 通学バスが、まだ閉まっている店のシャッターの前を通る。

 こんな田舎でもすでに何人か並んでる。

 一番人気のクレパスピンクや、オトナになってから良さがわかるようになったクレパスグレー、もちろんクレパスレッドやクレパスブルーは開店と同時に完売になるだろう。

 この四名や、ほかにもグリーンやイエローなんかは、放送終了からの十年の間に何度もグッズにされている。

 だけどオレの最推しは……クレパスふかみどりは! 十年ぶりのグッズ化なんだあああ!!


 クレパスふかみどりの良さを、友だちに理解してもらえたことは一度もない。

 波風立てたくなくて適当な相槌を打たれたり、いろんな趣味の人がいるからねーで片付けられるのは理解されるのとは違う。

 グリーンとのキャラ被りだとか、ブラックのなりそこないとか、せめて黄緑なんて言われるのはまだマシで、作品のファンを名乗るやつと思い出話をしても九割のやつに「そんなのいたっけ?」なんて言われる。

 でもオレは! クレパスふかみどりが! あの落ち着きが! 謙虚さが! 決して前に出ない感じが! 手柄を自慢しない感じが! 大好きなんだッ!!


 ……事前情報によれば、さっきの店に仕入れられるのは各キャラ十体と全キャラセットが五箱。

 転売ヤーが狙うのは全キャラセットと人気キャラだけだろう。

 あせることはない。

 クレパスふかみどりを買うやつなんか誰もいない。

 オレのほかは誰も。

 だからオレが十体全部買い占めたって、どこからも文句なんか出ないはずだ。

 誰にもわかってもらえなくていい。

 そのせいで一人ぼっちになってもいい!

 オレはクレパスふかみどりが好きだ……




「一……二……三……」

 放課後、例の店のフィギュア売り場の棚の前で、オレは何度もクレパスふかみどりを数えた。

「七……八……九……」

 やっぱり一体足りない。

 ほかのクレパスレンジャーは全員売り切れ、とかではない。

 クレパスグリーンですらまだ五体残ってる。

 つまりほかがないからしかたなくクレパスふかみどりを買ったとかでなく、クレパスふかみどりが欲しくて買った人がいたのだ。


 オレは一人ぼっちじゃなかった。

 オレ以外にもクレパスふかみどりを好きなやつが、この町のどこかに一人いるんだ。


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