会場散策(36:南雲 燦さん)

 ここはクリエイティブな物書きと、それをこよなく愛する読者さんが住んでいる国『カクヨーム王国』である。


 本日は朝から無謀にも動画編集に取り組んでいた和響とやらは、ウクライナの惨状の写真を眺めながら心を痛めていたようだ。


「わたしの書いた祈りというお話に楽曲を書いてもらって動画にする予定だったんだけど、どうぞ使ってくださいってうフリー素材のウクライナの現状が分かる写真を見てたら、あぁ、これは動画にしてってそうじゃないなって思っちゃたんだよね。でも、これが現実。興味のある方は、テレビでは見れないウクライナの現状が見れるので、ぜひ、だよね。


《ウクライナでのロシアの戦争についての真実:https://jp.depositphotos.com/folder/ウクライナでのロシアの戦争についての真実-299150880.html》


戦争は街も人も破壊する。そんな惨状を目の当たりに見て、今自分に何ができるのかを、また考えてしまった。って、長い独り言だなこりゃ」


 午前中の心の余韻をまだ引きずっているようだけれど、大丈夫なのだろうか。しかしそこは心配することもなかったようだ。早速、参加受付を終了した自主企画のイベント会場へと向かっていく。


「先週は来れなかったけど、 自主企画【戦争のない平和な世界になりますようにと、優しい「祈り」を込めて書いた作品募集します!https://kakuyomu.jp/user_events/16816927861270086890】にきてみたら、ここは毎回本当平和な世界だよね。お? あれは、もしやカラス天狗の子供ではないだろうか? 黒い羽を羽ばたかせて浮かんでるや」


 今日もカラフルポップなイベント会場には、虹の橋がかかり、そこにはカラス天狗の男の子と女の子が仲良く羽を羽ばたかせて浮かんでいた。どうやら沢山の友達も一緒のようだ。猫耳の女の子に、ハードボイルドなお兄さん、コック服を着た優しそうなおじさんに、なんと、空を歩く水牛までいるではないか。


 どんな人でも、どんな種族でも仲良くなれる、それがこのカクヨーム王国。なんの垣根もない世界である。


「よしと。では早速、今日はエントリーナンバー36番の方だね! さっご挨拶に行ってきたけれど、だいぶ昔に参加をしてくれたと思うから、なんのことかわかんないかも!? でも早速いてみましょうか!エントリーナンバー36番、南雲 燦燦さん(https://kakuyomu.jp/users/SAN_N6)の本屋さんへレッツゴー!」


 いつもながらに便利な妄想世界、あっという間に南雲 燦さんの本屋さんがある異世界シティに到着した。だがしかし、いつものような異世界シティとは少し異なり、ここはどこか戦争が起こった後のような、破壊されて、虚しく悲しい空気が漂う場所。石畳の道路は所々剥がれて土が剥き出しになったいる。その上に息絶え絶えに横たわる人影も。じっとりと重い空気の中、雨がしとしと降って、白い靄がかかっている。


「ここは……。まるで、今日の朝に見ていたウクライナの街のようだ……。異世界シティに、まさかこんな場所があるとは……」


 細かい雨に濡れてくせ毛がくるくると跳ね出した和響は、手でその髪の毛をなでつけて直しながら、ため息を漏らした。


「ここは、悲しい街なのかもしれない。でも、だからこそ、きっと自主企画に参加してくださった理由があるんだよね?」


 そう言って、一歩一歩、南雲 燦さんさんの本屋さんに近づいて行った。南雲 燦さんの本屋さんは、元は貴族のお屋敷、といった雰囲気の本屋さんである。


「お邪魔、しまあす」


 和響が木のドアを手で押し開けると、ぎいぃと湿った音を出しながら南雲 燦さんの本屋さんのドアは開いた。中には蜘蛛の巣がかかったシャンデリア、曇った窓ガラスは所々割れていて、外のむわっとする風を生温く部屋に運んでいる。


「ものすごい雰囲気のある本屋さんだなぁ。あ、あそこに本棚がある。いや、それだけじゃない、よく見ると本が沢山積んである部屋だ」


 二階もあるようだが、どうやら一階に今日の南雲 燦さんの本は置いてありそうだと思った和響は本棚の前まで歩いて行き、その本棚に入っている本の背表紙を人差し指で優しくなぞりながら一冊づつ見て行った。


「あ、これは、違うか。これは、短編集だね、で、……あった。これだ」


 そう言って、一冊の深いワインレッドの表装がされた本を取り出した。表紙には、鈍い金色の文字で『聖書を牙で裂く』と書いてある。


【 聖書を牙で裂く  作者:南雲 燦 https://kakuyomu.jp/works/16816452221121215688


「それでは、物語の世界にお邪魔させていただきます」


 和響はゴクリと唾を飲み込んで、神妙な面持ちでそう言い、頭からすぅっと南雲さんの本の中に入って行った。そして、物語の中で、「あぁ、人間とは本当に欲を間違える生き物だよね。悲しいよ。まさにだよ」などと言いながら妄想アトラクションを体感し、「お! この出会いがこれからいろいろな世界を生み出していくのかな? 面白い! そして何より文章力と世界観が凄すぎて!!!」と感嘆の声を上げ、白い煙になって元いた場所に戻ってきた。


「ものすごい世界観で、ものすごい文章力で、ものすごい面白いお話だった……」


 と全身全霊で感動しているようだ。


「ちょっと、これは長いお話だから読み進めるのには時間がかかりそうだけど、凄すぎる! しかも、読まれた方のレビューの数々を読むだけでも、いかに凄い作品かが分かるっ!凄すぎますっ!」


 感動しながら、南雲さんにお手紙を書き書きして、これまた素晴らしい短編集の【 燦  作者 : 南雲 燦 https://kakuyomu.jp/works/16816700428953294666 】も楽しんだようだった。


「はぁ、メッセージ性のある素晴らしい作品だった。しかも書いているのが大学生って。すごい才能だよね。43歳、いや、永遠の26歳のわたしには一生追いつけない気がするっ!南雲さん、拝読させていただき、ありがとうございました!」


 そう言って、南雲さんの本屋さんから出てきた。どうやらさっき降っていた雨はもうやんだようだ。重たい灰色の雲の隙間から光の筋がいくつもいくつも伸びている。その様子はまるで神様がこれから降臨するかのような神々しい景色だった。


――神様と人間が共存する世界であっても争いが起きるのであれば、人間同士ならなおのこと起きてしまうのかなぁ。でも、そんなの、もう今時って、ならないのかな……。


「神様がいるならば! 物語の世界だけに争いはしてもらって、現実は戦争がないなんてことにしてやくれませんかー? 本当にお願いしますよー!」


 いてもたってもいられずに、光の方に向かい和響は叫んだ。その声が届いたのか、雲の隙間から溢れている光の筋はどんどんその幅を広げ、ついには光り輝く太陽が顔を出した。


「太陽が見えた!」


 和響が嬉しそうにそういうと、どこからともなく白い鳩が何羽も何羽も飛んできて、遠くの空へと向かい羽ばたいていくのが見えた。それはまるで、平和の祈りを世界中に運んでくれているようにも見える。


 いつか、世界から戦争がなくなってほしい。

 そう願っている人々の祈りが、白い鳩に託されているのだろうか。


 そうであるならば、わたしは何羽も何羽も世界に飛ばしたいと心から思っている和響のカクヨーム王国での日常は、今日も平和にすぎていった。




 ウクライナの現状を写真で見ることで、いかに戦争が誰かの大事なものを奪い、苦しめていくものなのかを感じました。


 この戦争でお亡くなりになられた方々へ。

 心より、お悔やみ申し上げます。


 








――黙祷















戦争のない世界を望んでいます。


 

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「平和と祈りの祭典」ーカクヨーム王国での日常(番外編)ー 和響 @kazuchiai

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