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アーカーシャチャンネル

本編

『次回の配信内容は未定ですが、何かあればお知らせします』

 モニターに表示されていたのは、いかにもラノベ辺りで見かけそうな金髪美女のアバターである。

実際は動画投稿者なのだが、モニターの動画を見ている女性こそ、そのアバターの配信者の中の人だ。

「ああいう風に言ってしまったけど、どうするべきか…」

 彼女が悩むのには理由がある。普段から日常とかの雑談を得意としており、チャンネル登録者数もそこそこ。

さすがに数万人規模のファンを今すぐほしいというわけではないが、状況を変えたい思いはあった。

 ゲーム配信では他の有名配信者に来場者数が負けるのは目に見えている、唐突に自分とは違うジャンルの話題をやろうとしても知識の浅さが原因で炎上しかねない。

その塩梅で彼女は悩んでいた。期限は特に決めていないが、あまりに日数があいてしまうと他の配信者の方に流れてしまうのは明白だろう。

「これは……?」

 そんな彼女が発見したのは、とある小説サイトだった。

小説サイト自体、そこまで珍しいものではない。むしろ、配信者がWEB小説をテーマにして配信していたり動画を投稿しているのを見たこともある。



 小説の書き方自体は、そこまでの知識があるわけではない。せいぜい、提出する部類では読書感想文とかレポートを書いたレベルである。

しかし、今になって小説の書き方を有料の講座などで学ぶにしては、時間が足りないだろう。

「書き方に関しては色々とあるし、一種の推し活みたいなものと考えれば……」

 彼女は、ふと何かをひらめいた。書き方を今になって教わって書くのであれば、逆に開き直って好きなように書けばいい、と。

それこそ小説を『推し活』と考えれば話は早いだろう。彼女の疑問は思わぬところで解決した。



 配信する内容が決まった彼女は、SNSで生配信を行う事を告知する。内容に関しては重大発表とだけ。

「大抵、重大発表だけだとネガティブに捉える人が多いけど、大丈夫かな」

 彼女が不安になっていたのは、ここ数日のSNS上におけるバーチャル配信者の重大発表がらみである。

それを踏まえて、ネガティブな方向に切り取りを行った結果、炎上するケースが個人勢や企業勢に限らず存在していた。

「まぁ、自分の所は個人勢でも小規模だし、大丈夫でしょ。きっと」

 配信を始める数分前、色々と不安要素はありつつもチャンネル登録者数を考え、そこまで不安になるのはやめよう、と。

その一方で、開始前には多くの視聴者がどのような重大発表をするのか注目をしている。



 その中にはバーチャル動画投稿者のまとめサイトもいたようだが、それは誰にもわからない。

『皆さんに重大なお知らせがあります』

『私は、本日付でWEB小説家としてもデビューします』

 これを聞いて驚いた人物も多い。つい最近に二刀流を発表した同じようなバーチャル動画投稿者がいたからである。

それを踏まえると、重大発表と言っても引退とか企業勢になるとかでないことで、そこまで炎上するような事案にはならなかった。

『ですが、これだけは言っておきたいです。書くという事を恐れないでください』

 彼女の一言、それは周囲に衝撃を与えたのは言うまでもない。下手にネットミームとして拡散してもおかしくはないようなものなのだが、それさえも許さないものだった。

『自分はバーチャル動画投稿者として、新たな推し活を小説に見出しただけです。これを別の方向に内容を歪めて炎上する人もいるかもしれません』

 その後も彼女は執筆活動に対する意思表示を続け、重大発表は十分ほどで終了する。

発表後、彼女の小説が発表されたのだが……その内容は小説というよりはエッセイなどにも近いという印象を受けた。

もしかすると、彼女は今までの表現とは違う可能性を『推し活』にしたかった、という事かもしれない。

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