リルカは私の魂に、くっきりと跡を刻んだ。深く深く鮮やかに、一番底の核にまで。

 そこに余分な私自身を、鋳型いがたに流しこむように押し込めて。

 新しい私になる。

 そうして気づいたのは。

 あなたを泣きながら全部食べ尽くしても、絶対に永遠に満たされない、——激しいかわきだった。


 イカレた食人鬼——もう私には、時間や常識やありふれた生活とかに、何の興味も持てない。

 あなたのいない世界。

 あなたは私を狂わせて、ひとりこの世界に置き去りにした。

 なんて残酷な、最愛のひと。



 時間がどれくらいたったのか——わからない。


 遠くの鐘の音のように、誰かを呼ぶ声が聞こえている。

 あなたは誰?

 私は床に伏せたまま、変容した世界に漂う。

 日光がさしているというのに、どうしてこんなに暗いんだろう。

 なんでここにいるの? 誰を探しているの?


 あたし? あなた? それとも——だれ——だれを、呼んでいるの?


「華月! いるんでしょ!」

 私だ。

 ああ、私を呼んでいる。

 未来みき

 そうだ、未来だけにはこの部屋のことを話したっけ。

「華月! やっぱりいた! ねえ、どうしたっていうの。華月の両親だって、とっても心配して——」

 やっぱり未来は親友。駆け寄ってくる足音。お互いにいろんなこと話したね。なんていとおしい。

 ゆっくりと、顔を上げる。

 私は笑ったのかもしれない。未来は絶句して後ずさりしたけど。

 でも許すわ。


 包丁、どこで落としたっけ。


 ねえ、未来——。

 

 

 わたしいま、とってもおなかがすいてるの。










                    終



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晩鐘 連野純也 @renno

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