779.とうとう、完成?
「よーし、気張っていくぞー!」
「お~」
「今日こそ完成させねえとな!」
「がんばります」
風呂場作業も今日で四日目だ。陸奥さん、戸山さん、おっちゃん、相川さんが気合を入れた。
「今日で完成させられそうだな」
今日は風呂桶を作る職人さんである斎藤さんも来ていた。風呂桶設置の監督としてきてくれたのだそうだ。ありがたいことである。
今日も風呂場の作業だと知っているので、ポチタマメイは相川さんちから帰宅したと同時にツッタカターと遊びにいってしまった。ちなみに、昨日回収したイノシシは病変もなくキレイな状態だったと聞かされた。
明日の昼は養鶏場に向かうことになっていると伝えたら、宴会は明後日の夜になった。昼間養鶏場でごちそうを食べて更に夜もごちそうを、なんてことにならなくてよかったと思った。また胃薬が手放せなくなってしまう。
今日でひと段落するはずだからと、今日もタマユマメイの卵を使ってお昼のおかずを作ることにした。とはいえ俺は料理のレパートリーが足りない。
一応今朝、相川さんに何かいいメニューがないかどうか聞いてみた。
「お昼のおかずですから、手頃なものでいいとは思いますよ。鶏肉は今ないんでしたっけ?」
「明日養鶏場で買ってこようと思っていたので買ってないんです。そういえば明日養鶏場へ行きますけど……」
「よろしければご一緒させてください。トマトと卵の炒めはおいしいですがトマトは時期じゃないので、ほうれん草と炒めましょうか」
明日一緒に養鶏場に向かうことをさらりと決めつつ、卵はほうれん草と炒めることになった。ほうれん草はシュウ酸が多いので少なくとも軽く湯がいて水に晒し、少し絞ってから使う。もちろん絞ったのをバラバラにしてからだ。相川さんに丁寧に説明されなかったら絞って固まった状態のまま使っていただろう。それぐらい俺は料理に対しても真摯じゃない。(えばれない)
というわけで相川さんの言った通りにほうれん草の卵炒めを作った。味付けは例によって鶏ガラスープの素と味塩胡椒である。
「ごはんですよー」
表に声をかけると、みないそいそと作業の手を止めて家の中に入ってきた。
みそ汁と漬物、ほうれん草と卵の炒め物を出した。主食は各自持参している。
「いやー、この卵は幸せだよなー」
「そうだねー。僕は佐野君のみそ汁も好きだけどね~」
今日のみそ汁の具はカブと豆腐だ。
陸奥さんと戸山さんが嬉しそうに言う。ユマには外に餌を入れたボウルを置いて食べてもらうことにした。
「いただきます」
斎藤さんも交えてお昼を食べる。
「……なんだこの卵は!?」
斎藤さんはほうれん草の卵炒めを食べて驚愕の声を上げた。
そういえば斎藤さん、何度も見に来てくれたけどうちの卵を食べるのは初めてだったっけ。
陸奥さんたちがニヤリとしている。それ、うちのニワトリたちが産んでくれた卵なんですけど。ちょっと笑いたくなってしまった。
「佐野君ちのニワトリの卵なんだよ、それは」
「なんだって!?」
「ええ、そうなんです……」
「売ってくれないか!?」
「売りません!」
「……そうか」
斎藤さんはすぐに引き下がった。うちで飼っているニワトリの数は把握しているからだろう。十羽以上メンドリを飼っていたら食い下がられたかもしれないけど、うちは卵目当てでニワトリたちを飼ってるわけじゃないしな。
午後は作業を少し見せてもらった。タイル貼りもあらかた終えて、浴槽は外から入れた。大きくて立派な檜風呂である。手入れがたいへんそうだ。
「……本当は廊下を通る幅がいいんだがな……」
斎藤さんが呟く。
そうでないと浴槽を出すことになった時、また壁を壊すか浴槽自体を壊さないといけない。それぐらい新しい浴槽は大きかった。そりゃあ風呂場の部分がせり出すはずである。うちを正面から見た時、なんかいびつなかんじにはなるが、ユマたちと快適に風呂に入る為なのだ。
今回はプロパンガスでなく薪と灯油兼用の風呂釜になったので、定期的に薪を集めないといけないし、早めに温め始めなければいけない。設置は斎藤さんがしてくれた。風呂桶を作る職人さんだけど、設置も専門なのだそうだ。そういう資格とか持ってるのかなと思った。(俺は全く知らない)
灯油は買ってある。
専用の風呂釜に薪を毎回3kg投入すればいいのだそうだ。俺が思っていたより手間が少ない。
「ありがとうございます」
「困ったことがあったらすぐ言ってくれ。それから、周りに燃えるものは置かないようにしてくれよ」
「はい」
重々気を付けることにした。
ポチとタマ、そしてメイが帰ってきた頃に風呂場は完成した。
「いやー、がんばったなー」
「働いたねー」
「もう終わりか、寂しいな」
「そうですね」
おじさんたちは満足そうである。
ココッ? とタマがコキャッと首を傾げて俺に聞いた。
「うん、お風呂完成したらしいぞ」
タマは頷くように首を前に動かすと、陸奥さんの前に行きココッ! と鳴いた。
「おう、タマちゃんねぎらってくれるのか? かわいいなぁ」
なんかそのココッ、はねぎらっているのとは違う気がしたが、俺はあえてツッコまないことにしたのだった。
次の更新は、13日(金)です。よろしくー!
斎藤さんに卵を振舞うことになったのは流れ。お仕事で来ているので口は堅い。
次の更新予定
前略、山暮らしを始めました。【11/9書籍7巻発売】 浅葱 @asagi
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