778.ニワトリはとても図々しい

 ごはんは炊いてある。おばさんが持ってきてくれたおかずは漬物を除いて食べきってしまった。

 野菜は誰かが持ってきてくれるからある。


「うーん……」


 卵と野菜の炒め物でもいいか。もう考えるのが面倒だった。タマユマメイが卵を産んでくれているので、それを使って小松菜と炒めることにした。それで立派なおかずになるはずだ。

 そうして卵と小松菜の炒めを作っていると、一旦作業を終えた面々が入ってきた。


「お、今日はニワトリたちの卵か?」

「えー、本当?」


 陸奥さんと戸山さんが嬉しそうに言う。


「ええ、俺が調理してもおいしくなりますからね~」

「佐野君の料理はうめえぞ?」

「おいしいよね~」


 お世辞でも嬉しい。準備ができてからニワトリたちの餌を用意し、表にボウルを出してユマとメイに声をかけた。ユマとメイはごはんと聞いて一目散に駆けてきた。なんかはつついてるはずだからそんなにおなかはすいていないと思うんだが、ごはんは別なのかな。

 みんなでお昼を食べ、


「よーし、午後も張り切ってやるかー!」

「がんばろー」

「おー!」

「がんばります」


 風呂場作業組は気合を入れて作業を再開した。

 ありがたいんだけど、今日中には風呂場は完成しなさそうだった。

 ってことはまた相川さんちにお邪魔することになるのかな。なんか悪いなと思ったが、ニワトリたちが戻ってきたら笑顔の相川さんにドナドナされてしまった。

 なんかおっちゃんが困ったような顔をしていたが、ユマが風呂にどうしても入りたいのだからしかたなかった。おっちゃんちの風呂にニワトリを入れろとは絶対に言えないし。

 相川さんちに着いたら、すぐに風呂を沸かしてもらって入った。どんどん暗く、寒くなるから急がないといけないのだ。


「アイカワー、オフロー、オオキイー」


 ユマは俺と一緒に風呂に入れるのが嬉しいらしい。湯舟に浸かると、控え目に羽をぱしゃぱしゃと動かした。それを真似してメイも羽を動かす。ばっしゃんばっしゃんと水が跳ねた。


「メイ、もっと羽は控えめに動かしてくれよ~」


 楽しんでいるのがわかるから怒るのも違うんだよな。

 ココッとユマがメイに注意をしたらしい。メイは羽を動かすのを止めて俺に寄り添ってきた。これは甘えてるのかな?


「うちのニワトリたちはかわいいよなぁ」


 呟いて、相川さんちのお風呂を堪能した。

 タマは風呂から上がった俺を見るとあからさまに不満そうな顔をしたが、リンさんはご機嫌だった。


「サノ、イイオユ?」

「ええ、いい湯でした」

「サノ、モット、クル」

「来れる時に来ますね」


 ちょっと約束はできかねる。


「リン、佐野さんを困らせたらだめだろう」


 相川さんが夕飯のおかずをテーブルに運びながら苦笑した。


「相川さん、先にお風呂へ行った方が……」

「ええ、先に食べていてください。すぐ出てきますから」

「はい」


 ここで遠慮すると相川さんが恐縮してしまうから、遠慮はしないことにしている。ニワトリたちの餌は先に用意してもらったので、ポチは我関せずで食べていた。タマはユマとメイを待っていたらしい。なんつーか、待ってるってすごいことだよなと思った。


「いただきます」


 手を合わせる。にわとりたちが餌をつついているのを見ながら、肉野菜炒めと漬物でごはんを食べる。リンさんは餌を食べるニワトリたちをけだるそうに眺めていた。


「リンさんは、今の時期何も食べないんですか?」


 思わず聞いてしまった。


「……スコシ、タベル」

「そうなんですね」


 リンさんは相川さんの為に無理して起きているのかもしれない。本当は眠いのかな。でも寝たらどうですか? とか無責任に言うことはできない。


「お待たせしました」

「あ、先にいただいてます」

「はい、大した物が用意できなくてすみませんが……」

「相川さんがすまながることなんてないでしょうに」


 なんで俺がお世話になっているのに、相川さんがすまなさそうなんだよ?


「オカワリー」


 ポチが相川さんを見て要求した。態度悪いなー。


「あ、ポチさん。野菜でいいですか?」

「イイヨー」

「イイヨー」

「イイヨー」


 ココッとメイ。つーかなんでみんなで要求してるんだよー。


「佐野さんちは毎日こんなに賑やかなんでしょうね。いいなぁ」


 相川さんは笑いながらニワトリたちに白菜を出してくれた。そして俺には「こちらもどうぞ」と根菜と鶏肉の煮物を出してくれたのだった。肉厚のシイタケがうますぎる。相川さんはもうシイタケを見るのもつらいらしいので(それはそれでたいへんそうだ)、俺が率先して食べることにしたのだった。

 相川さんのごはんはサイコーです。



 翌朝、今度はメイが俺の足に乗りにきた。

 人んちでも乗って起こすとか止めてくれないかな。このままじゃ俺、ニワトリに乗られないと起きれない人だと思われるんじゃないか?

 でもおっちゃんちではわざわざ乗ってはこないよなとか思いながら、


「だから乗って起こすなって言ってるだろー!」


 とメイに怒ってため息をついた。


「佐野さんちは本当に毎日楽しそうでいいですね」


 相川さんが朝食を用意してくれながら、笑顔でそう言った。


「ええまぁ……」


 疲れるけど、「だったら代わりましょうか?」なんて絶対言わない。俺にとってはニワトリたちがいることが一番の癒しだから。



次の更新は、12/10(火)です。よろしくー


前回は777話お祝いありがとうございました!

これからも書いていきますのでよろしくお願いします

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