777.ニワトリにもいろいろあるらしい

 メイを放したら俺から少し離れて、ぶんぶんと尾を振り始めた。もしかしてポチタマに付いていきたかったのだろうか。


「メイ、今日は運んでくるだけだからここで待っていよう」


 メイが振り向いてまた俺に突撃してきた。そんなことわかってるから! と言いたさそうだった。つんつんつんつんっとメイが俺をつっつく。気持ちはわかるけどつつかれたら痛いって。


「メイ、つつくなよー」


 ココッとユマがメイを窘めると、メイはしぶしぶ俺から離れた。タマと違い、メイはあんまり手加減とかしないからけっこう痛いんだよな。タマは容赦なさそうで、かなり手加減をしてくれているということがわかった。つか、タマが本気を出したら大怪我しそう……。


「ユマ、ありがとう」


 ユマの羽を撫で、陸奥さんたちに声をかけた。


「俺、家の中で作業してるんで何かあれば声かけてくださいねー」

「わかった」


 俺も風呂場の作業をした方がいいんだろうけど、多分足手まといにしかならない気がするから手は出さない。陸奥さんと戸山さんは無言で作業しているが、なんとも楽しそうだった。

 ユマとメイは家の周りにいることにしたみたいだった。

 洗濯したり掃除機をかけたりする。そうしている間に相川さんたちが戻ってきたようだった。ユマが少し開けてある玄関から、コッコォッ! と声をかけてくれた。


「あ、戻ってきた?」


 掃除機をかけてると音が聞こえづらいんだよな。もしかしたらユマは何度か声をかけてくれたのかもしれなかった。


「ユマ、ありがとなー」


 表に出る。昨日はよく見えていなかったけど、一頭は本当にでかかった。いったいどこにこんな大きさのイノシシがいたのかと思うぐらいである。


「お疲れ様です。でかいですね」

「ああ、かなりね。昨年から狩ってきてくれる数は多いけど、でかい個体が多いんだよなぁ……」


 秋本さんが苦笑した。

 それだけイノシシやシカが繁殖している証拠なんだろう。思わずポチとタマを見てしまった。二羽はなんとも得意げである。

 もう一頭はそれほどでかいわけではなかったが、そちらも成獣だった。もしかしたら裏山の更に向こうから流れてきたんだろうか。

 俺が考えたってわかんないんだよな。

 秋本さん、結城さん、相川さんが軽トラにイノシシを二頭積んだ。


「冷やしておいてくれて助かったよ。解体してなんかあったら連絡する」


 秋本さんと結城さんは手をよーく洗った。ニワトリたちが近づいて、三人をつついた。


「やっぱ虫とかついてるのかな」

「メイちゃん、ありがとう」


 秋本さんと結城さんはくすぐったそうだった。


「ところでこのイノシシはどうすりゃいいんだ? またゆもっちゃんとこに持っていけばいいか?」

「はい、よろしくお願いします」


 秋本さんたちがイノシシを運んでいってから、おっちゃんが戻ってきた。相川さんはまだメイにつつかれていた。


「メイちゃん? そんなに何か、付いてますか?」


 確かに細かい何かがたくさん付いていた。たまにこういうの付くんだよな。


「ふー、まいったよ」


 おっちゃんは軽トラから下りると、伸びをした。


「お疲れ様です」

「途中で秋本たちとすれ違ったぞ」

「そうだったんですね」


 イノシシはおっちゃんちに運ぶことになったことを伝えた。何かあればおっちゃんか俺に連絡をくれるだろう。


「なんか気が付くとニワトリたちは狩りしてんなー」

「そうですね」


 おかげで痩せるヒマがない。胃薬も常備している。


「さー、やるか」

「やりますか」


 おっちゃんと相川さんは張り切って風呂場の方へ。俺はポチタマに軽くつつかれて、まだいたことに気づいた。

 ココッ? とポチにコキャッと首を傾げられた。出かけていいのかどうか聞いているみたいだった。


「ああうん、今日はー……とりあえず少し早めに戻ってきてもらえるか? また相川さんちに行くことになるかもしれないから……いてぇっ!?」


 タマにブスッと強くつつかれた。それはタマさんどうかと思います。


「タマッ、いてえって!」


 クァア? とか首をコキャッと傾げてごまかしてんじゃねえよ。そんなこといつ覚えたんだコラ。


「嫌だからってそんなに強くつつくことないだろ? もう少し優しくしてくれよ」


 そう言うとツーンとされた。ツンデレのツンが強すぎると思います。ポチがタマにココッと鳴いた。タマはしぶしぶという体でこちらを向き、俺にすりっとするとそのままトトトッと歩いていった。

 謝ってるわけではないけど、まぁいいかな。

 ポチがその後に続く。


「ポチ、タマ、イノシシのあるところに秋本さんたちを案内してくれてありがとなー」


 そういえば礼を言ってなかったと声をかければ、コココッと返ってきた。ホント、親しき仲にも礼儀ありだよなと思う。

 二羽はそのまま木々の向こうに走っていった。その後をメイが付いていこうとしてユマに止められていた。今日はユマ的にダメらしい。メイがぷりぷり怒っていた。

 ま、もうそろそろで昼だしな。

 今日の昼ごはんはどうしようか。スープは相川さんが作ってくれたのがあるからいいけど。おかずがなにかないかまず確認することにした。


次の更新は、6日(金)です。よろしくー

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