776.なんでそこでバチバチやってるのかわからない
「ニワトリたちがイノシシを狩ってきたんですって?」
軽トラから降りた湯本のおばさんは、開口一番そう言った。
おばさんから重箱が入った風呂敷包みを受け取る。
「そうなんです。もう暗くなりそうな頃だったので、行けなくてすみませんでした」
「それはいいんだけど、昇ちゃんのところのニワトリちゃんたちは相変わらずねえ」
お重は三段のが二つあった。おばさんはどんだけ料理を作ってくれたんだろう。
「煮物はさすがに悪くなっちゃうと思ったから、汁が多いものは持ってきてないわ」
「ありがとうございます」
そう、鍋の中に入っている分にはいいのだが煮物はあまり持ち運びには向かなかったりする。冬でも朝タッパーに入れて夕方持ち帰ったら腐ってるなんてざらだった。
俺が好きなきんぴらとか芋の煮っころがしが入っていた。ありがたいことである。
相川さんが作ってくれたスープを温め直し、おばさんが作ってきてくれた料理で朝ごはんにした。おかずが大量で朝から豪勢である。
重箱の片方には材料が入っていて、それでおばさんが鶏肉と野菜の炒め物を作ってくれた。オイスターソースを使って炒められたそれはごはんによく合った。
「もっと早く連絡をくれればそんなに作らなかったのにねえ」
「すまんすまん」
おっちゃんがおばさんに両手を合わせて謝っていた。
「すみません……」
「だから、昇ちゃんはいいのよ!」
そうしているうちに陸奥さんたちがやってきた。おっちゃんが麓の柵の鍵を開けておいてくれたらしい。戸山さんが「閉めてきたよ~」と教えてくれた。ありがたいことである。
「相川君、イノシシは川か」
陸奥さんに聞かれて、相川さんは頷いた。
「秋本さんに連絡しましたから、そろそろ来るはずです」
「じゃあ俺たちはいいか」
「はい、風呂場の方を優先してください」
「わかった」
陸奥さんと戸山さんは風呂場の作業をしてくれるようだ。
お茶を淹れて、少し落ち着いたところでおばさんに聞かれた。
「昇ちゃん、今日中にお風呂場ができなかったらどうするの? うちに来る?」
「えっと……」
さすがに二晩続けて風呂に入れないとユマが悲しがりそうだし……。
「真知子さん、今日中にできなかったら今夜も佐野さんはうちに来ることが決まっているんですよ」
相川さんが笑顔でさらりと答えた。
「へえ……そうなの?」
おばさんも笑顔なんだけど、なんか怖い。よく見たら目が笑っていなかった。
「ええ、ユマさんとメイちゃんはお風呂に入らないではいられませんから」
「……それじゃしょうがないわね。一晩ぐらいなら我慢はできても……なのね」
おばさんがしょんぼりしてしまった。相川さんが珍しく得意げな顔をしている。それはそれでどうなんだと思った。
「佐野君は人気者だなぁ」
「だよねえ」
「やめてくださいよー……」
養鶏場もそうなんだが、やっぱりお客さんがいないからヒマなのかもしれない。
「昇ちゃん」
「はいっ!」
「お風呂場が完成して落ち着いたらうちにも来てちょうだいね。お昼でもいいから!」
おばさんにガシッと両手を掴まれてしまった。
「はいっ、もちろんです!」
村のおばさんたちの料理が絶品で困ってしまう。これはよく動かないと冬の頃のようになってしまうな。
ニワトリたちが玄関のガラス戸の向こうからこちらを覗いているのに気づいた。まだイノシシを取りにいかないのかと思っているみたいだった。
「ポチ、タマ、ごめん。もう少ししたら秋本さんが来るらしいから、そしたら案内してもらっていいか?」
ココッ、コッと返事を聞いてほっとした。
「昇ちゃん、絶対だからね!」
おばさんはおっちゃんが家に送ってくるらしい。おばさんを送ったらおっちゃんはまた戻ってくるそうだ。往復たいへんだよな。
「すまねえな」
おっちゃんは頭を掻いて、おばさんを送っていった。
「たいへんだなぁ……」
「でも、楽しそうですよね」
「ですねー」
陸奥さんと戸山さんはニワトリたちに声をかけてから風呂場のところにかかっているビニールシートを外し、作業を始めた。
秋本さんたちまだかなーと思っていたらユマがすりっとくっついてきた。
「ん? どうした、ユマ」
こうやって何の気なしにくっついてきてくれるの、嬉しいよな。ユマの羽をそっと撫でる。するとちょっと離れたところにいたメイがトトトトッと走ってきた。
「え?」
そのままドーン! とぶつかってきたので慌てて受け止める。
「メイ? 大丈夫か?」
ココォッ! と鳴かれた。意味わからん。ユマがまたすりすりしてくれたので、二羽共腕の中に入れてなでなでした。
なんだこの幸せ。
ブロロロ……と音が聞こえてきた。
秋本さんの軽トラが着いたようだ。ほっとする。
「やあ、佐野君。またニワトリたちがイノシシ狩ったんだって? すごいな!」
秋本さんが嬉しそうに声をかけてきた。運転していたのは結城さんである。
「あ、メイちゃん……」
結城さんがメイに手を振った。それにメイも気づいたらしく、ココッと鳴く。結城さんの顔が嬉しそうに綻んだ。メイがもう小さくなくても、結城さんはメイが好きなんだよなー。
「秋本さん、おはようございます。イノシシは二頭で、一頭が大型でした。三人いれば運べると思います。川に沈めてきました」
相川さんが二人に声をかけ、ポチタマがこちらにやってきた。俺はユマとメイを腕の中に囲ったまま、彼らが出かけるのを見送ったのだった。(何故かメイに腕をつつかれた)
次の更新は、12/3(火)です。よろしくー
山暮らし7巻楽しんでいただけてるでしょうか? 作者はユマが、「ダメー!」ってやってるところがかわいすぎて読み返す度に悶えています。
萌えポイントがあったら教えていただけると嬉しいですー♪
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