775.一家に一台やっぱほしい

 風呂はないがお湯を沸かせば身体を拭くぐらいはできるだろう。

 湯を沸かしてまずはニワトリたちをキレイにした。空いたコンロで相川さんが夕飯を作ってくれる。野菜はおっちゃんが持ってきてくれたりしたのがあるから豊富だ。ニワトリたち用にごはんを出し、あげたりしている間に夕飯ができたらしい。


「佐野さん、ごはんですよ」

「ありがとうございます」

「相川君は手際がいいなぁ。いただくよ」


 おっちゃんは家に電話をかけ、電話越しにおばさんに怒鳴られていた。せっかくごちそうを作っていたのに、ってやつだ。それは本当に申し訳ないと思った。

 明日の朝、おっちゃんが家に一旦戻っておばさんと料理を運んでくるということでどうにか収まったらしい。おばさんとおばさんの手料理をケータリングとかどうなってんだ。(ケータリングの意味が違うかもしれないが俺的にそんな気分なのだ)

 その前に相川さんの手料理である。

 ある野菜をざくざく切って炒めた肉野菜炒め、かぼちゃを大きめに切ってオーブンで焼いたベイクドパンプキン(チーズも載っていた)、シイタケとヤマイモのスープ、漬物とごはんというラインナップである。なんでこんなに早くおいしそうな料理が出てくるのか不思議でしかたない。


「かぼちゃか。こういう食い方もいいな!」


 おっちゃんがガハハと笑う。陸奥さんや戸山さんはあんまりチーズが得意ではなさそうだったが、おっちゃんはそうでもないらしい。陸奥さん戸山さんもチーズの味が苦手なのではなく、ベタベタとくっつくのがどうのと言っていた。確かに冷えたら固まるしな。


「佐野さんちのレンジはオーブンレンジなのでなんでもできますよ」


 電化製品はすごく適当に選んだ気がするが、母親が電子レンジだけはいいのを! って言ってたんだよな。俺的には温めさえできればってカンカクだったんだけど、相川さんに言われてそのことを思い出した。


「母に言われて買っただけなんですけどね」

「山の生活なんて想像もつかないでしょうから、できるだけなんでもできるものとお母さんも思われたのでしょうね」

「そうだろうな」


 おっちゃんも返事をしながらごはんを豪快に食べていた。米、冷蔵庫にしまっておかなくてよかったなと思った。(本当はおっちゃんちに泊まりにいく予定だった為)

 俺の部屋は寒いから居間に布団を敷いて雑魚寝することになった。

 手足だけ洗って寝ることにした。

 明日はおばさんが来るのかーとなんて思っている間にもう寝ていた。

 朝、足になんか乗っかった感触に気付いてバッと上半身を起こして抱きしめた。

 キュワワッ!?

 いつもと鳴き声が違うなと思ったし、もっと大きい?


「あれえ? ……ユマ?」


 なんで今日はユマが俺の足の上に乗ってんだ?


「サノー」


 ユマを抱きしめたまますりすりする。ユマも足の上に乗るとそれなりに重いなー。でもユマにだったら何されてもいいかもなー。胸の上に乗られるのは勘弁だけど。


「佐野さん、ユマさんが困ってますよ?」


 相川さんの声が聞こえて一気に覚醒した。

 バッとユマを放す。ユマは俺の足の上からどくと、コキャッと首を傾げた。


「オハヨー?」


 うあー、朝からかわいい。


「ユマ、おはよう」


 ユマをなでなでしてから周りを見ると、おっちゃんの姿はなく、相川さんは台所に、ポチタマメイはじっと俺を見ていた。


「あれ? おっちゃんは……」

「真知子さんを連れに行きましたよ」

「早いな……」

「ニワトリさんたちのごはん、準備しますね」

「あ……すみません」


 俺が一番寝ぼすけということでユマが起こしてくれたみたいだ。


「恥ずかしいな……」


 苦笑して布団を畳む。TVを付けて天気予報を確認する。ちょうど晴みたいだ。


「布団干してきますね」

「手伝います」


 相川さんがスパダリすぎて困る。手伝ってもらった方が早く終わるからお言葉には甘えさせてもらった。


「……やっぱり知ってたよな……」


 布団を干して、俺は昨日のことを思い出した。おっちゃんだけでなく陸奥さんたちもうちのニワトリたちがしゃべれることはわかっているんだろう。


「ニワトリさんたちのことですか?」


 相川さんに聞かれて頷いた。


「知っているのは湯本さんだけではないでしょうが、まだしゃべるのは湯本さんの前だけにした方がいいでしょうね」

「……ですよね」

「そこは僕もできるだけフォローしますよ」

「俺もそうですけど、一番うかつなのはポチなんですよね」

「あー、そうですね……」


 相川さんは一瞬遠くを見てから、苦笑した。


「そこは……」


 相川さんが言いかけた時、ポチが身体を揺らしながら庭にやってきた。


「ポチ?」

「アソブー、イイー?」


 ポチがコキャッと首を傾げて聞いてきた。


「うーん、今日はイノシシの回収をしないといけないだろ?」


 ポチはそうだった! と言いたさそうな顔をした。忘れてたのかよ。


「マツー」


 そう言ってポチは身体を揺らしながら戻っていった。その後ろ姿はまるでニワトリらしくはないのに、うちの子はかわいいなと思ってしまい、自分でもそれはどうかと思ったのだった。(ニワトリバカ全開


次の更新は、11/29(金)です。よろしくー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る