774.フラグは立てちゃいけないとしみじみ思う

 みそ汁の具は大根と油揚げにした。

 戸山さんが幸せそうな顔をしてみそ汁を啜ってくれるのがありがたい。作り甲斐があるというものだ。今夜はおっちゃんちに泊まる予定だから、あまり量は作っていない。


「ニワトリたちはパトロールか」

「はい、そうです」


 陸奥さんに聞かれて答えた。


「そろそろ十二月だからいろいろ急がねえとな」

「そうだね。もういつ雪が降ってもおかしくないもんね」


 陸奥さんと戸山さんの話を聞いてドキッとした。

 雪か。もうそんな時期なんだよな。

 朝晩だけでなく日中も冷えてきたからいつ降ってもおかしくはないんだけど、徐々に寒くなってるから身体は寒さに慣れてきているんだと思う。ダウンを着てるのと、うちはオイルヒーターがよくきいてるからかもしれないが。


「そうですね。参道整備も急がないといけません」

「だなぁ。風呂は明日辺り完成させられるといいんだが」


 相川さん、おっちゃんも同意した。素人仕事だからどうしても時間がかかるよなーなんて話をしていた。

 夕方までで作業はそれなりに進んだらしい。それはよかったと思うんだが、なかなかニワトリたちが戻ってこないのが気になった。


「ニワトリたちはまだか?」

「……遅いですね」


 そろそろ日が暮れそうなのに。

 今日はおっちゃんちに泊まると言ってあるから、普段ならもっと早く戻ってくるはずである。もしかして、と嫌な予感がした。


「なぁ、ユマ……今日ポチたちはどこまで行ったんだろうなー」


 今は答えられないことをわかっていても、傍らにいるユマに聞かないではいられなかった。

 ユマはコキャッと首を傾げた。


「わかんないよなー」


 そんなことを言っていたらガサガサと草をかき分けるような音がし始めた。戻ってきたのか、と思ってそちらを見たら、タマだった。


「タマ、おかえり……」


 遅かったなと言おうとして、羽があちこちに飛んで汚くなっているのが見えた。

 え、もしかして……。

 タマは俺の服にガブッと噛みついた。


「おおう!?」


 そのままぐいぐいと引っ張っていこうとする。


「ちょっ、タマ、待って待って! どうしたんだなんかあったのか?」


 まだみんないるから話すわけにもいかないので実力行使に出たみたいだった。軽くつつくとかすればいいだろと思ったけど、もしかしたらメイに何かあったのかもしれないと思い直した。


「佐野さん、僕も行きますよ」


 相川さんが声をかけてくれた。


「タマさん、僕と佐野さんだけで足りますか?」


 相川さんがタマに向かって少しかがみ、尋ねた。

 タマは頭を左右に動かした。足りないみたいだ。


「すみません、湯本さんもお願いします」

「ああ、わかった。陸奥さんと戸山さんは帰ってくれ。わかり次第連絡するから」

「わかった」

「またね」


 陸奥さんと戸山さんはおっちゃんに言われてすぐに帰っていった。タマが足をタシタシさせている。


「で? タマ、どうしたんだ? 言っとくけど俺はお前らがしゃべるのはもう知ってるからな?」


 おっちゃんはそう言ってニヤリとした。すごく悪い笑みだ。俺は天を仰いだ。

 タマが何やってんのよ、アンタ! と言うように俺をつつく。


「いてっ! 今それどころじゃないだろっ!」


 タマが嘆息した。ため息をつくニワトリとかぁ……。


「イノシシー、デカイー」

「……マジかよ。何頭だ?」

「ニー?」


 タマがコキャッと首を傾げた。相変わらず数字もわかるなんてタマさんぱねえっす。


「二頭か。じゃあ行くか」


 おっちゃんも相川さんもいつのまにかロープを用意していた。ニワトリたちが狩りをしたとわかった途端その手際のよさはなんなのか。もう何も言うまい。


「ハヤクー」

「わかった。ポチやメイは怪我とかしてないんだよな?」

「ダイジョブー」


 そして俺たちはタマについていくことにした。林に入ればもう真っ暗だ。相川さんもおっちゃんも懐中電灯を持っている。だからどんだけ。(以下略)

 先頭がタマ、相川さん、おっちゃん、俺、ユマの隊列でできるだけ急いで進む。なかなか手入れができないから、木の細い枝とか当たってきたりして痛い。


「うわぁ……」


 そうして辿り着いたのは、裏山との境だった。ポチとメイが見張っていたらしい。二羽の羽もかなり乱れているように見えた。

 大きいイノシシが一頭と小ぶりなイノシシが一頭倒れていた。


「これは、どうしましょうかね……」


 相川さんが獲物を見て考えるような顔をする。すでに暗くなってきているので持って移動するというのもなかなか難しそうではあった。


「確か近くに川があったはずですから、そっちに沈めてきましょう」

「それは助かるな」


 相川さんの方がうちの山を熟知してるとかなんなんだ。

 どうにかこうにかイノシシを縛って川に運んで水に漬け、俺たちは家に戻った。


「さすがにこの暗さでは……」

「帰れませんね」

「帰れねえなぁ……」


 うちの山道、街灯とかないし。縁石しかないところもあるから軽トラを走らせるのは危険すぎる。


「どやされそうだ……」


 おっちゃんが頭を掻く。


「すみません、うちのニワトリたちが……」

「いいってことよ」

「楽しかったですよ」


 風呂はないけど、今夜は二人ともうちに泊めることになったのだった。

 ちなみに、久しぶりに狩りができたニワトリたちはとても満足そうだった。ちくしょう。


次の更新は26日(火)です。よろしくー


山暮らし7巻、お迎えいただけたでしょうか? 今回も書下ろし満載、もふもふ&かわいい増量でっす!

是非感想など、こちらやレビュー、ファンレターなどでお寄せいただけると嬉しいですー。

みんないつも読んでくれてありがとー♪

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