773.お客さんが少ない季節?

「面白いですね」


 相川さんは何度も思い出し笑いをした。よっぽどメイの慌てた姿が面白かったらしい。俺から逃れたメイが土間に走り込んできてコケたようだ。それは確かに笑うかもしれないなと思った。

 つい笑ってしまったことで相川さんはメイにつつかれたようだ。それをユマが止めてくれたと言っていた。ユマさんさまさまです。

 最近は前日の夜に「明日の朝は起こすな」と言っておいてもメイが足の上に乗っかってくるのだ。で、俺が起きたことで逃げようとするのだけど俺の方が動きが早いからまず捕まる。

 捕まるのが嫌なら乗らなければいいだけなんだが、どうしても乗りたいらしい。


「メイちゃん、佐野さんのことが大好きなんでしょうね」

「……まぁ、嫌われてはいないと思いますけど……」

「毎朝起こしてくれるなんて愛情たっぷりじゃないですか」

「……俺の反応が楽しいんじゃないですか?」


 好かれている、とは思うけどメイはまだよくわからないんだよな。ユマみたいにひっついてくる時もあれば、ツーンとしていることも意外と多くて。はっ、これが本当のツンデレってやつか?

 俺は思わずタマを見てしまった。すぐに見とがめられてつつかれてしまう。


「いてっ、タマ痛いって!」


 なんでそんなに察しがいいんですか、タマさん。その様子を見て相川さんの笑いが止まらなくなった。ええいもうそのまま笑い死ぬがいいわ(冗談です)

 朝ごはんをいただいて相川さんも一緒に山へ戻ることに。

 リンさんがわざわざ家から出て、緩慢に手を振ってくれた。


「お邪魔しました」

「サノ、モット、クル」

「また来ます」


 リンさんは相川さんが大好きだから、相川さんが寂しくないように考えているんだろうな。

 ユマがリンさんから一歩離れたところにいて、お互いに別れを惜しんでいるみたいだった。異種族女子の交流ってなんか微笑ましいよな。そんなことを考えながらユマを促して今度こそうちの山に戻った。

 山に戻って少ししてからおっちゃんたちが来た。


「おはようございます。よろしくお願いします」

「おう、おはよう! 今日はうちに来るんだぞ!」


 おっちゃんはそう念を押すように言って、ガハハと笑った。


「お世話になります」


 おっちゃんに頭を下げた。ポチタマメイがそわそわしていたので、


「暗くなる前には戻ってこいよ。今夜はおっちゃんちに泊まりに行くからな」


 と伝えた。ポチがココッ! と返事をし、三羽はツッタカターと遊びに行った。山のパトロールに行ってくれるのはありがたいんだが、なんか狩ってきたりしないよな? って、こういうこと考えるといけないんだっけか。

 おっちゃん、陸奥さん、戸山さん、相川さんはさっそくビニールシートを外して作業を開始した。風呂桶は外から入れるらしく、進み具合によって職人さんを改めて呼ぶのだそうだ。斎藤さんは風呂桶を作る職人さんだけど、設置も請け負っているらしい。長年職人やってる人ってけっこうなんでもできたりするよな。

 今日養鶏場に行こうと思っていたのに電話をするのを忘れていた。

 とりあえず電話してみた。


「こんにちは、佐野です。今日の今日で申し訳ないんですけど、ニワトリの餌を買わせてもらうことは可能でしょうか?」

「ああ、佐野君か。用意してあるからいつでもおいで。ん? なんだって?」


 電話に出たのは松山のおじさんだった。後ろからおばさんに声をかけられたみたいだ。話し声が聞こえる。


「あー、佐野君。今日は昼飯は食っていけるんだよな?」

「えっと……今日は昼は用事があるので餌だけ買って帰ろうかなって……」


 おばさんに何か言われたらしく、おじさんが畳みかけるように聞いてきたがさすがに昼ごちそうになるわけにはいかない。


「えっ、そうなの!?」


 おばさんの驚いたような大声で耳が痛くなった。おじさんから受話器を奪い取ったみたいだ。


「餌って今日ないとまずいかしら!?」

「い、いえ……まだ多分一週間分は大丈夫かと……」

「だったらお昼も食べに来れる時に来てちょうだいっ!」

「わ、わかりました!」


 おばさんの剣幕に負けた。松山さんちもお客さんが来なくてヒマなのかもしれない。松山のおばさん、もてなすのが好きみたいだしなぁ。


「いつがいいかしら?」

「えーと……」


 もしかしたら明日で終わらないかもしれないことを考えると、木曜日ぐらいがいいんだろうか。十二月に入っちゃうけど。


「でしたら、木曜日にお伺いしてもいいですか?」

「木曜日ね、わかったわ! 是非お友達も連れてきてちょうだい!」

「わかりました。いつもありがとうございます」

「もー、礼なんていいのよ! 来てくれるだけでありがたいんだから!」


 おばさんのテンションが高い。元気でいいなと思った。ユマが俺の様子をおかしいと思ったのか、そっと寄り添ってくれた。もー、ユマは優しいなぁ。

 電話を切って、


「大丈夫だよ」


 と羽を撫でた。


「早くお風呂ができるといいな」


 ユマがココッと鳴く。俺は家に入り、昼用のみそ汁を作ることにした。今日の具材は何がいいだろうか。

 冬だと大根がおいしいよな。冬はけっこう柔らかくなるからそれが好きだったりする。

 ユマは表で過ごすことにしたみたいだ。時折ガンガンという音を聞きながら、他に何を用意したものかと考えたのだった。


次の更新は、22日(金)です。よろしくー

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