772.相変わらずごはんが進む

 お風呂が沸いたことを知らされ、


「先に入っちゃってください」


 と相川さんに言われた。日が落ちると一気に気温が下がるからできるだけ早めに浸かった方がいい。ユマとメイを促して、ざっと二羽と俺の汚れを落とし、ジャボンと大きな露天風呂に浸かった。(さすがにメイはだっこして俺が入れた)屋根があるだけなので、首から上が冷えるけど、それはそれで心地いい。


「あー……」


 思わず声が出た。

 なんで薪で沸かしたお湯ってこんなにじんわりと気持ちいいんだろうなぁ。気持ちの問題だけではない気がする。どっかで検証とかしてないんだろうか?

 ユマとメイもお湯に浸かってむふーっとしている。

 お湯で顔を洗う。


「気持ちいいなー……」


 いい湯だな、と歌いたくなるのもしょうがないだろう。さすがに人んちで歌わないけど。

 風呂から出た後もぽかぽかだ。急いで俺が身体を拭き、ユマとメイを拭いて相川さんちに戻った。リンさんがドライヤーを持って待っていてくれた。


「佐野さん、ポチさんとタマさんの足は洗いましたよ」

「あ、すみません……ありがとうございます」


 ポチとタマはギリギリまで表にいたのだ。ポチは土間でもふっとなっている。タマは俺を見ると、フイッとそっぽを向いた。

 なんだよ、態度悪いな。

 リンさんがユマとメイを手招きして、ゴーッとドライヤーをかけてくれる。すごいなと思った。


「リンさん、ありがとうございます」

「アリガトウ?」


 リンさんはとても不思議そうに身体を傾けた。


「ユマとメイにドライヤーをかけてくれてありがとうございます」

「ド、イタシマシテ」


 ちゃんと言わないとだめだよな。


「すみません、お風呂入ってきますね」

「はい、いってらっしゃい」


 相川さんがお風呂に行った。リンさんは楽しそうにユマとメイにドライヤーをかけてくれている。けっこう世話好きなんだろうな。


「ダイジョブー」


 ユマは羽をバサバサさせるとリンさんから離れた。メイも少ししてから離れる。ココッと鳴いて。きっと礼を言ったのだろう。

 リンさんはゆっくりとドライヤーを棚に置くと、またとぐろを巻いた。疲れたのかもしれない。

 相川さんが出てきた。


「やっぱりお風呂はいいですね。今夕飯を用意します」

「ありがとうございます」


 ニワトリたちには青菜とシカ肉をスライスしたものを出してくれた。


「簡単で申し訳ないんですけど……」

「いや、全然簡単じゃないですよ!」


 漬物は普通に出てくるものとして、小松菜と油揚げの煮びたし、ほうれん草のおひたし、ひじきの煮物、切干大根の他にチーズの乗った麻婆豆腐が出てきた。小さめの土鍋でぐつぐつしている。とてもおいしそうだった。

 ごはんはごっちゃり、汁は卵スープだった。


「いただきます!」

「どうぞ召し上がれ」


 どれもこれもおいしかった。チーズの乗った麻婆豆腐は熱くて辛くて最高だった。


「チーズかぁ……これ最高ですねー」

「ちょっとアレンジしただけなんですけどね。おいしいですよねー」


 うちでも麻婆豆腐の素を買ってきてやってみようかと思った。相川さんちは麻婆豆腐の味つけも全部自分ちでやるんだろうけどさ。


「これ、味付けは相川さんのアレンジですよね」

「はい。その方が好きな味付けにできるじゃないですか」

「まぁ、そうですね……」


 麻婆豆腐を好きな味付けでって意味がわからない。豆板醤を増やしたりとか酒の量を調節したりとかそういうアレなんだろうか。とにかくおいしかった。


「明日は湯本さんちでしたっけ?」

「そうですね」

「明後日で終わらなかったら、また泊まりに来てください。今度はきちんと作りますから」

「いやいやいやいや……」


 十分きちんと作っていただいていると思う。でもなんか、相川さん的に納得がいかないのかもしれない。


「相川さんが無理のないようにお願いします。俺はおもてなしされてるだけなんで……」

「風呂場の増築も参道作りもさせていただいてるじゃないですか。それにこれからは狩猟もしますしね」

「ええええ……」


 俺はしてもらってる側なんだけど、させてもらってるってなんだろう。おっちゃんといい陸奥さんたちといい、でっかい工作大好きすぎないか?


「……正直言うといろいろ作りたいんですよ。自分のところはもう間伐以外することはあまりないので。炭焼きはしますけど、変化がほしいんですよね」

「ああ……」


 わからないでもないと言いたいが、やっぱり俺にはわからなかった。

 明日も作業があるのでお互いビールを一缶空けただけで早々に布団に入った。

 俺は明日何をするかな。養鶏場に電話して、問題なければニワトリたちの餌を買いに行こう。そろそろ少なくなってきたし。

 寒くなると外で餌の調達ができなくなるから食べる量が増えるんだよな。ポリバケツ二個分ぐらいいるだろうか。

 そんなことを考えていたらいつのまにか寝てしまった。



「……だからなんでだ!」


 相川さんちなのになんでメイが俺の足の上に座っているんでしょうか?

 バッと腹筋を使って起き上がり、メイをガシッと捕まえた。


「いいかげんにしろー!」


 人んちでやるんじゃなーい!

 コッ、ココッ、キョッ、ワエエエエ~~~~ッッ!

 相川さんちでメイの叫びがこだましたのだった。


次の更新は、19日(火)です。よろしくー


山暮らし7巻お迎えいただけたでしょうか?

まだの方はよろしくご検討くださいませー!

書下ろしも満載で、イラストもかわいくてとっても楽しいよっ! ひよこの頃のお話も入ってまーす。よろろーん

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