魔王と言われ、勇者が来てるけど一緒にお茶飲んでます
NoY
1.「魔王」と「勇者」
「ぐはーっ」
「おわーっ」
「のわーっ」
外を見ると、赤毛の少女が大剣を振り回しながらこちらへ少しずつ近付いてきている。
少女が手に持つ大剣を振り回す度に、兵士たちがまるで演技のようにふっとぶ。
「ルシェル、勇者が来たぞ!!」
「あぁ、見れば分かるさ。じゃあ俺は行くぞ」
「場所は例の?」
「あぁ。可能な限り近付くなよ」
「分かってるって」
執務室から出て、城内を歩く。
元々は小さな集落だったが、襲撃を受けたことで壁を築き、城ができ、王にさせられてしまった。
まったく、こんな事がしたくて国を出た訳じゃないってのに…。
おっと、今はそんなことは置いておいて、目の前のことだ。
あの少女…「勇者」のサラ。あの国では何故か「魔王」と呼ばれている俺を殺すのを命じられている。
俺はそんな彼女を玉座で待つ。
…わけではなく、客室へ。
魔法で種火を付け、お湯を沸かす。
茶菓子は…必要ないな。あいつが用意するだろう。
ソファに座り、寛いでいると彼女はやってきた。
「ルシェル!来たぞ!」
バーン!とドアを勢いよく開き、入ってくる「勇者」サラ。
ズカズカと歩き、俺の正面のソファに座る。
「あぁ、見てたさ。誰も怪我させてないだろうな?」
「もちろんだ!しかし面倒だな、あんな演技するのは!」
「仕方ねぇだろ、お前が頑張ってるように演出してんだから」
実の所、彼女とは知り合いだ。一緒に冒険者育成学園で学び、卒業した友人である。
「ルシェルが国に戻ってくれれば解決なんだがな!なぁ、やっぱり国に戻らんか?一緒に謝るからさ。」
「だから何度も言ってるだろ。ヤだよ、あの国の上層部は腐りきってる」
「だからお前と私たちで上層部を蹴散らしていい国にすればいいじゃないか!」
「それも成功するにしてもその後がめんどいだろ。俺は自由気ままに楽してたいんだよ」
「ふん。今だって王みたいなことさせられてるではないか」
「不本意ながら、な…。早く他のやつに押し付けて自堕落な生活を送りたい…。っとそうだ、今日はなんでお前だけなんだ?他のやつらは?」
当然勇者とはいえ、1人で俺の殺害を命じられたわけではない。聖女に賢者、ガーディアン。まぁ、全員知り合いで、友人だから俺の殺害なんて微塵も思ってないけどな。
「ん?私が来たいから来ただけだぞ!ほら、この新作クッキーを買ってきたんだ!」
「お、あそこの店の新作クッキーか!いいねぇ。そいつは楽しみだ」
先程沸かしたお湯を茶葉の入ったティーポットを通して紅茶に。
「ん〜、ルシェルの淹れる紅茶はいい香りだな!いただきます!」
「ん、いただきます。お〜うまっ!」
魔王城の客室にて、「魔王」と「勇者」は仲良くクッキーとお茶を堪能しながら雑談を交わす。
それは彼が「魔王」と言われるようになってから、よくある日常である。
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お読みいただきありがとうございます。
基本一人称視点です。
現在でのやり取りをしながら、「こんなことあったよな」と回想する、そんな書き方を予定してます
異世界モノの小説を最近読んでて、書きたくなりました。
更新頻度低め、というか別作品の気分転換の意味が強めです。
それでも「面白い」と思っていただけると嬉しいです。
魔王と言われ、勇者が来てるけど一緒にお茶飲んでます NoY @Chalo
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