御幸町のバルザック

京河いわ

第1話 高校入学

 “It’s better to burn out than to fade away.” – Kurt Cobain


 人で混みあう横断歩道。スマートフォンを片手に何度も頷きながら忙しなく歩くスーツの男性。イヤフォンをして手元の画面を操作する学生。一歩一歩確実に歩を進めるご老人。渡り終えた先のアーケードに立ち並ぶテナントからお客を呼び込む店員。この20メートル強の横断歩道で、一体何通りの人生がすれ違っているのだろう。私はふと思う。

 「んー…あの曲名なんだったかなぁ…?」

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2000年8月


ピッ+81…90..3756..1×××..


プップップットゥルルルルル…トゥルルル…


「おーもしもし!?んー、今ね、あつしとご飯食べてる。」


「あ、そうなの?ごめんね、またにしようか?」


「大丈夫だよ、少し席はずしたから。今度のライブでオリジナルの曲もやるんだけど。ちょっと変更したいところとかあってね。周りが騒がしいから、聞こえにくかったらごめんね。今そっち何時?」


「お昼の12時。今日も補助レッスンがあってさ、すごくやんちゃで面白いスペイン人の子が新しく入って来たよ。コアが好きなんだけど、KORNとかも好きなんだって。黒いTシャツにタイトジーンズでさ、もう見たままで笑っちゃったよ。」


「やっぱヨーロッパはいいなぁ、パンクもメタルもとにかく色んな音楽がいっぱい聴けそうだし。クラスも楽しそうじゃん!」


「うん。…あのさ、話があって。」


「どうした?」


「あのさ…別れよう。」



2000年4月


 高校の入学式。何てことない、という顔をしているけどやっぱり少し緊張する。ここは中高一貫の学校で、私はその高等部から新しく入るのだ。中学部から仲がいい生徒もたくさんいるだろう。誰か、よそから入った私に声をかけてくれるだろうか。話し出すとよく喋るといわれるけど、きっかけはいつも他人任せの受け身だ。


 講堂には半数以上の生徒がすでにいて、クラスごとに席についている。自分のクラスの席に近づくと、新しく担任になるという先生が挨拶をしにきてくれた。握手しながら「よろしく!」と明るく言ってくれたので何だか安心できた。赤いフワフワした椅子に座ると、二つ隣の席の男子とその後ろの男子がコソコソ話して笑っている。あぁ私はそういうのが苦手なんだよ。私が笑われたんじゃないだろうか、と思ってしまう。入学式の開始時間5分前くらいに隣に座ってきた女の子。「ねぇねぇ、外部の子?」高校から編入してきた生徒を外部と言った。「う、うん。あなたは?」「私もだよ!よかった~よろしくね!私、織部おりべみさき。」「あ、うん!よろしくね。私、川辺かわべ小麦こむぎ。」良かった。入学式に友達ができた。



つづく。


著者コメ こむぎさん、友達どころかそのあとすぐに初めての彼氏までできます

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