山の上の学校で肝試し全国ネット中継、悪魔が出るとウワサの学校で。

グイ・ネクスト

第1話 肝試しの始まり

「こうちゃん、もうみんな来てるよ」と、ボクは後ろにいる夏瀬浩二に声をかける。

「てっちゃん、待ってくれよ」と、夏瀬はぜーぜーと肩で息をしている。山の上の学校のグランドの北入口からボクたちは入場した。ジャングルジムの横を通り、グランドの中心に歩いて行く。ライトアップで照らされていて、グランドの中央は明るい。何せ全国ネットでの中継だ。朝礼台には付図(ふず)テレビの男性アナウンサーが背広を着て司会をしている。ボクたち中学生は制服での参加を義務付けられているけれど、大学生以上は私服で参加しているようだ。


 兵庫県の山の上の学校。昔通っていた学校なので、肝試しに使われる廊下は目をつぶっていても歩けそう。この学校に半年ほど前に一人の行方不明者が出て、それが悪魔の仕業とウワサが立った。最初は根も葉も無いウワサだとみんな思っていた。卒業生のボクたちは少なくともそう思った。だが、その後も続けて十五名の人間が行方不明になった。それで残念な事に廃校になろうとしているわけだが、廃校にする前にテレビで肝試しをして欲しいと多くの卒業生たちがカンパを募り、賞金百万円を出すという異例の肝試しとなった。自分の父親もカンパした一人なので、理由を聞くと「泣いている奴がいるんだ。だから大勢集まって騒げば浄化されるはずさ」と、よくわからない事を言っていた。

「てっちゃん、てっちゃん。おい、ってば」と、ボクの名前を呼ぶ。ボクは小波内哲。てっちゃんと呼ばれている。

「何、こうちゃん」

「第一グループ帰ってないんだってさ。悪魔に食べられたのかな」

「バカな事言うなよ。悪魔なんているわけない。二十人で入ったから予定より遅れているだけさ」と、ボクは目線を斜め上に向けてしまう。

「ほら、斜め見た。強がるなよ。金髪なんだって…悪魔。てっちゃんも調べて来たんだろ?」

「そ、そりゃあまあ。つ、強がってなんか。あーもう。調べたよ、当たり前だろ。五人以上で入らない時に限って行方不明事件が起きた事も。だから大丈夫だよ。たった三百メートルの廊下を真っ直ぐ歩くだけじゃないか。それも体育館前の西玄関から東玄関に向かって。」と、ボクは夏瀬の顔を見る。その顔の後ろに金髪の子どもの頭が見えた。「ひぃ」と、ボクは思わず叫んでしまう。

「どしたの?」と、夏瀬は聞いて来る。

「こうちゃん、うしろ。うしろだよ」と、ボクはしゃがみこんでしまう。

「みなさーん。お待たせしましたーーー。二組、三組、四組、五組、六組は西玄関から。七組、八組、九組、十組は東玄関から入ってくださーい」

「何もないよ。てっちゃん、さあ、行こう」

「やだよ、やめようよ。それに一組ずつだったのに、何で二手に分かれて入る事になってるんだよ」と、ボクはまだ地面を見つめたままだ。

グランドの土を見つめている。土から金髪の目が空洞になっている顔が浮かび上がってきた。「あぎゃぎゃぎゃー」と、ボクは叫ぶ。

「お前はデザート」と、言われた。

「おい、おい、てっちゃん。どしたんだよ、しっかりしろよ」と、夏瀬に肩を揺さぶられている。

「こうちゃん、今すぐ帰ろう」

「ダメだよ。金髪の、目の無い悪魔さんに出会いに行かなきゃ」

「え?こうちゃんも見たの?」

「オレは見てないけど。父さんはそう言っていた。お前たちなら会える。大丈夫だって。な、だから行こう。それに百九十人で一斉に入るんだ。怖くないだろ」

「もう会ってるよ。お前はデザートって言われちゃったよ」

「え?てっちゃん、もう会ったのか。いいなぁ、羨ましい。」

「よくないよ。食べる宣言されちゃったのに」

「まあ、とりあえず司会の人のところに行ってみない。何で急に全員で突入する事になったのか」

「ううう。まあ、それも一理あるね。こうちゃん、いい事言うじゃない」

「まあね」と、夏瀬の後ろにまた金髪の目の無い男の子の姿が見える。服装は青いローブを着ている。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」と、ボクはまた叫んでしまった。

「そ、そうか。てっちゃんを見習えばいいんだ。でも、難しいな。感情をてっちゃんみたいに表現できないし」と、夏瀬は意味不明な事を言う。

「な、人が怖がっているのに何をわけのわからない事を」

「悪魔は感情を好むんだよ。だから、てっちゃんみたいに感情豊かなタイプはデザートになるんじゃない。いいなぁ。でも、そうだね。そんなてっちゃんと一緒にいれば必ず会える気がするよ」

「いやだよ。何それ。もう帰ろうよ」と、ボクは北入口に向かって歩こうとする。

「きひひ」と、金髪を肩で切りそろえている男の子が目の前で笑っている。

「っ」と、ボクは尻餅をついて後ずさる。

「そっちにいるんだね。」と、夏瀬はボクの前に立ち、キョロキョロとする。

「いないじゃん」と、夏瀬に文句を言われる。

「知らないよ」と、夏瀬に怒っていると右肩をトントンと叩かれる。夏瀬は前にいる。じゃあ、肩を叩いているのは金髪の男の子だ。目は無い。

「……」言葉にならない。

「見えた。見えたぞぉ」と、夏瀬は嬉しそうだ。

「三組の夏瀬浩二くん、同じく三組の小波内哲くん、至急西玄関前まで来てください」と、付図テレビのアナウンサーが朝礼台でマイクを持って叫んでいる。

「わ、わかった。行くよ、行きゃいいんでしょ」と、ボクは足を奮い立たせて西玄関に向かって歩き出す。

「すごいなぁ、てっちゃん。オレたちすでに悪魔に出会ったよ。すげー」

「すごくないよ。今も左斜め後ろにいるじゃん」

「ああ、気配って奴だね」

「そうとしか言わないよ」

西玄関にはボクたちを含めて百人の人が集まっていた。

「えー全員そろったようなので、説明させてもらいます。最初に入った二十名が第三カメラに映る事無く、消えました。皆さんには同じルートを通っていただき、東玄関を目指してもらいます。百名なので、二組から順にお願いします。東玄関からは八十名とすれ違うかもしれません。それでもしももしもですけど、最初に入った二十名の方を見つけた方は運べそうなら運んでもらいたいです。または報告してもらいたいです。分からない事はあるでしょうか」

「た、大変だー。牛頭くん、と、とにかく東玄関が大変なんだー」と、タブレットを持ってテレビ関係者の帽子を被った男性が走って来る。

「どうされました?」

「はあ、はあ、は…。」走ってきた帽子を被った男性の後ろに金髪の男の子がいる。もちろん、目は無い。

「……」ボクは悲鳴が上がると思っていた。驚く事に沈黙。

誰も無言のまま、帽子を被った男性が黒い何かに食べられていく様を見ていた。

足元から徐々に食べられ、食べられながらも声一つ上げず、地面の中へ消えて行った。消えると、金髪の男の子は口角を上げてにっこり笑ったように見えた。

「……」また沈黙。みんな思考停止してしまったのか。

「えーっと牛頭さん…あ、ごめんなさい」と、ボクは途中で謝ってしまった。

牛頭さんと呼ばれたアナウンサーの首はすでに無かった。牛頭さんもまた地面へ消えていく。異常な出来事が起きているのに、誰も声を上げない。どうなっているんだ。

ボクは周囲を見た。夏瀬はいた。

でも、どこを見ても百人いたはずの参加者たちは誰もいなかった。

声を出さないんじゃなくて、すでに食べられていたんだ。

「こうちゃん、どうする?」

「てっちゃんはデザートなんだろ。へへ。何度も言っているだろ、てっちゃん。オレは悪魔に会いに来たんだって。だからもちろん、会いに行くよ」

「お、おう。三百メートルの短い廊下だしな。楽勝だよな。って、言うわけないだろう。おい、こうちゃん、おかしいよ、これ。ヤバいよ。どうすんの?」

「どうもしないよ。目の前でちょうど百人の命が消えていったけどさ。向こう側の八十人も消えたのかもしれない。なあ、てっちゃん。逃げられないって分かっているだろ。それにこれ、全国ネット中継だから警察がやって来るかもしれん。そうなってしまうとゲームオーバーだよ。悪魔に会えなくなる。な、その前に会いにいこう。な、てっちゃん。」と、夏瀬はボクを見つめてくる。

夏瀬の後ろには、金髪の男の子がいる。口角を上げて笑っている。

「デザート、まだ食べない」

「はは、ハハハハ。分かったよ、行こう。進もう。どっちみちボクの寿命はもうほとんど無いみたいなもんだし。」

「はは、てっちゃんならそう言うと思ったよ」と、夏瀬はボクの手をひっぱり、西玄関へ入って行く。ボクも仕方無く入った。


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