ほんのちょっと、気持ちを添えて

佐倉伸哉

本編

 世界的な流行病はやりやまいから、2年が経った。現在も終息には至っていない。

 日常生活でも、色々な制約を余儀なくされている。マスク、アルコール消毒、人と人の距離。新たな習慣と言えばそれまでだけど、やっぱり以前のように制約のない生活に戻りたい気持ちもどこかにはある。

 ここまで影響が長引くとは、みんな思ってもいなかっただろう。流行病になってから、閉店したお店を見る機会が多くなったように感じる。元々景気が良くなかったせいか、それとも流行病でお客さんが減ったからか。多分どっちもだろうけど、今まで普通に営業していたお店が閉店すると、やっぱり悲しい気持ちになる。

 私も、行きつけのお店は幾つかある。ご飯屋さんだけに限らず、本屋さん、花屋さん、喫茶店、雑貨屋さん、等々……。個人経営でもチェーン店でも関係ない。「無くなったら嫌だな」と思うお店は、正直潰れてほしくない。

 世の中には、“推し活”という言葉がある。『アイドルや架空のキャラクターなど、自分が好きな対象に関連する物品を購入したり他の人にその好きな対象の良さを広めたりして、応援を形として表す』といった感じの言葉らしい。私はそんな熱を上げるものがある訳ではないけれど、このご時世で色々と大変な思いをしている“応援したい”お店や対象に、ほんのちょっと気持ちを添えて応援するようにしている。

 例えば、喫茶店。

「いらっしゃいませー」

 月に何度か通っている、行きつけのお店。流行病の影響で、客足は落ちていると前にマスターは言っていた。

 いつもと同じように、私はコーヒーを1杯飲む。落ち着いた雰囲気、マスターと常連さんで交わされる何気ない会話、美味しいコーヒー。この時間が、私にとって大切な時間。

 ずっと続いてほしい。無くならないでほしい。だから、私のちょっとした“推し活”。

「マスター、いつもの100グラム。豆のままで」

 以前の私は、自宅でコーヒーを飲む習慣は無かった。それが変わったキッカケは、世界的な流行病。全国的に自粛が叫ばれる中、店内飲食の中止が余儀なくされた。そんな時、私はお店のコーヒー豆を買おうと思った。外で飲めないなら自宅で飲もうと思ったのもあるけれど、店内飲食で減った売上に少しでも穴埋め出来れば、という気持ちも少しはあった。私が少し買ったくらいで売上がはね上がる事はないだろうけど、少しでも長く続いてほしいという応援の気持ちが込められていた。


 私は、本を読む。

 読書家という程ではないし、読んだ本をいちいち「ここはこう面白かった、この文章は悪かった」みたいに批評したりもしない。ただ純粋に、面白い本を読みたい、それだけだ。

 今日も、一冊の本を読み終えた。……なかなか、面白かった。

 作品の余韻に浸りつつ、スマホを取り出す。開いたのは、短文を呟くSNS。

 思った事や良かった事を感想としてまとめて、送信。……これも、一つの“推し活”。

 作り手さんは、一生懸命頑張ってこの作品を書いたのだと思う。その作品が私の手に渡って、読んで、「面白かった」という思いが伝わればいいな。そういう気持ちから始めた事だけど、無理強いされてやっていないのもあり、負担にはなっていない。

 それに、時々だけど、作者さんと思われるアカウントから反応があったりする。その反応を見て、私もほっこりする。

 一個人の感想一つで何かが変わるとは思わないけれど、私の感想で作者さんが「書いて良かった!」と思ってくれたら嬉しく思う。


 ほんのちょっと、気持ちを添えて。

 気持ちを行動にする事で、応援したい相手が嬉しくなってくれたら。そうした優しい気持ちで、世界が満たされるといいな。

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ほんのちょっと、気持ちを添えて 佐倉伸哉 @fourrami

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