第10話 事の顛末

村に帰り付き村長の家に近づくとなにやら中が騒がしい。


そっと窓を覗くとシャルが椅子に座り周りに村人達が囲む様に立っている。近くに村長とカヤリが困った顔でどうにか落ち着かせようとなだめている。状況からシャルがつるし上げを喰らっている様だ。ミリーアはそのシャルの困惑したしょぼくれ顔に噴き出しそうになって口を塞ぐ。


しゃがみ込み笑いを堪えながら息を整えると、再度窓から中を覗こうとするミリーアをエドが肩を叩いて止める。

「もう入るぞ。」

「そ、そうね。」

そう言ってミリーアはペシペシと手で顔をはたいて整え、勢いよく家の扉を開ける。


「お待たせした様ね!」

ミリーア達が帰って来たのを見てシャルが助かった!という顔を向ける。一瞬目の合ったミリーアの動きが止まる、が、次の瞬間破顔してシャルを指さしながら盛大に笑い出す。


「おいいぃぃ!こっちは必死なんだぞ!?みんなに説明してくれ!俺の無実を説明してくれ!!」

「ごめんごめん、あまりにしょぼくれた顔してたからつい。」

「そろそろ俺泣くぞ!!ほんとお前ら帰ってこないし、良く判らん状況で詰め寄られるし!」

「あんな騒がしい中ぐっすり寝てるのが悪いのよ。」


そこへたまりかねたという様にデマスが声を荒げる。

「いい加減にしろ!襲撃が来ないなんて嘘で俺たちを騙そうとしやがって!どうせ適当やったら報酬をもらって逃げ出すつもりだったんだろ!」

デマスの凄い剣幕に村人達もそうだそうだと同調する。


ミリーアはゆっくりと村人達の顔を見渡す。騙されたと思って村人達の顔には怒りが浮かんでいる。村長は目を瞑り腕を組んで沈黙している。カヤリとダンには困惑の表情が見て取れる。特にダンは連れて来た手前、ちょっと微妙な立場という事もあるかもしれない。ミリーアはあえてゆっくりとした口調で話し始める。


「皆さんのお怒りは理解します。無い物と思っていた襲撃が再度来た。これは我々も想定していなかった事で、その点はお詫びせねばなりません。」

そうだそうだ!という声が上がる。


「しかし、我々はつい先ほどその原因を突き止めました。」

そう言ってミリーアがエドに手を差し出す。エドは懐から宝玉を取り出しミリーアに手渡す。みんなの視線が宝玉に注がれる。その中で一人、動揺した態度を見せた者をミリーアは見逃さなかった。そのままの調子でミリーアが続ける。


「これはダンスウィズゴブリンⅣ、ゴブリンを操り芸等をさせるための魔法アイテムです。無論、操っていますので村を襲ったり人を襲わせる事もできます。かなり単調な動きになりますが。」


それを聞いて村人がざわつく。そのうち一人が声を上げる。

「それ、そう言えば以前来た行商人の品に並んでなかったか?」

「そう言われれば見た気がするぞ。」

もう一人も声を上げる。どういうことだと村人達が話し始める。村長も考え込む様に宝玉を注視する。それを手で制してミリーアが更に続ける。


「さて、皆さん既にご察しの様に、この村にゴブリンを操った犯人がいるという事です。」

村人がそれぞれの顔を見比べ、誰が犯人なのかを探し始める。シャルも驚いた顔で周りを見ている。そこにデマスが口を挟む。


「おい、騙されるな!きっとこの冒険者達が仕掛けた事に違いない!それを使ってゴブリン襲撃を演出して仕事を作りだしたんだろ!?」

デマスが憮然とした態度でミリーアを指さして糾弾する。それを聞いて全員が静かになる。再度ミリーアに注目が集まる。


「なるほど、名案ですね。この宝玉ですが、実はもう一つペアになっている指輪のアイテムがあるんですよ。その指輪でこの宝玉を起動しゴブリンを操作するんです。皆さん両手を挙げてもらえますか?」

そう言うと部屋にいた全員が素直に手を挙げる。


ミリーアは例の村人がズボンのポケットに何かを入れたのを見逃さなかった。ふとシャルを見ると何故か一緒になって手を挙げている。

(あんたはいいのよ!怪しい動きを探しなさいよ!!)

心の中でツッコミを入れながら犯人を炙り出す筋書きを再確認する。無理に隠した物を出させてもそれが目眩しの囮だったら事だ。ここは慎重に事を進めるに限る。


全員の手をゆっくりと見渡すとカヤリの右手に指輪が見えた。

「こ、これは、そういうのでは。」

カヤリが動揺しながらそう伝えると、ミリーアもそうですねと頷く。村人の何人かがその指輪に凄く注目している。


「さて、それではそのままでお聞きください。実はこの宝玉と指輪は魔法的繋がりがあります。そして指輪から魔力が送られるとこの宝玉が起動します。しかしそれを逆にすると、つまり宝玉から魔力を送ってやると何が起こるか判りますか?」


全員が固唾を飲んで次の言葉を待つ。


「許容量を超えて魔力を送ってやると、爆発するんですよ。まぁ下半身が吹き飛んじゃう程度ですが。」

それを聞いてまた全員がざわざわとし始める。そこにミリーアが村人に向かって鋭く指示をする。

「はい、皆さん!手を下ろさないで!!2m程距離を取って!巻き込まれますよ!!」


「おい、っちょ、巻き込まれてけが人が出たらどうするんだ!!」

デマスの抗議の言葉に皆が頷きながらも距離を取り始める。

シャルも「おいおいマジかよ」と言いながら移動してミリーアの後ろに立つ。


「では行きます!」

デマスの声を無視してミリーアが宝玉に手をかざす。すると徐々に宝玉が光り始め段々と赤くなってゆく。


「お、おい待て!危ないだろ!!」

デマスがミリーアを制止しようと机まで近づいてくる。


「バーン!!!」


ミリーアが口で炸裂音を上げると、村人がびっくりした様子で誰が爆発したのかと回りを見渡す。そんな中、全員の前に出て来た形になったデマスが膝をがくがくと震えさせながらへたり込む。


そのデマスを指さしてミリーアが宣言する。

「犯人はあなた。」


「ち、違う。驚いて腰を抜かしただけだ!」

「いいえ、周りを見て。当事者でもないのにそんなに驚く者は居ないわ。」

デマスが動揺して周りを見渡す。その村人達も全員デマスに注目している。


何とか言い訳をしようとデマスが口を開いた所に村人の一人が思い出した様に声を上げる。

「そう言えば、デマスさんその宝玉を売ってた行商人と熱心に話をしていたぞ!」

「本当か!?」

「ち、違う、あれは生まれ故郷の近況を聞いてただけで!」

さらなる状況証拠をどうにか打ち消そうとデマスが説明をする。


「往生際が悪いわね。本当に爆発させる?あと少し魔力を注ぐだけよ。」

ミリーアがそう言って再度手を宝玉にかざして光らせる。

「ほら、そっちのポケット、光って来たわよ。」

そう言ってデマスのズボンを指さす。デマスはヒィと声を漏らして慌ててズボンのポケットから指輪を取り出して確認する。しかし取り出した指輪は特に光を放っていなかった。


「騙したのか!?」

デマスは顔を真っ赤にして吠える様にミリーアを睨みつける。

「あら、騙したのはお互い様。でも下半身が吹き飛ばされなくて良かったでしょ?」

ミリーアは本当はできたのよと言わんばかりに肩をすくめる。そして怒りと屈辱で震えて動けないデマスの手から指輪をそっと取り上げる。


それは煤けた銀色の環に赤い宝石が嵌ったシンプルなデザインだった。光にかざしてよく見ると宝石の端から環を一周して文字が刻まれておりそれが魔法アイテムであることが判る。


その後、御縄についたデマスに対する事情聴取は村長とミリーアによって行われた。支離滅裂な証言をつなぎ合わせると次の様な話であった。


事は行商人がダンスウィズゴブリンⅣを持ってきた事から始まった。最初はデマスも村の催しとして皆をビックリさせようと思って、いや、もっと言えばカヤリを驚き喜ばせたかった。そのため村人にばれない様に行商人からこっそりとダンスウィズゴブリンⅣを購入し、隠しておいたのである。


デマスはいつか村長から認められ婿養子としてカヤリを譲り受けたいと考えていた。そのために頑張って村のために尽くして来たのだ。


しかしある日デマスは見てしまったのだ、川べりでカヤリがダンと二人で居る所を。そして次の日、カヤリの指には指輪が嵌められていた。最早そのままの状態では猶予は無いと考えたデマスはダンスウィズゴブリンⅣを使って襲撃を演出し、村の救世主となる事で夢を実現しようと決意したのだった。


話を聞いたミリーアと村長はお互いに顔を見合わせる。

「デマスさんって幾つなんですか?」

「確かワシのちょっと下だったと思うんだが・・・」

ミリーアが困った子供でも見る様な顔でデマスの肩に手を置く。


こうしてゴブリン襲撃騒動は終わりを迎えたのであった。


次の日、村の総出でお祝いをすることになり、三人はまた楽しい時間を過ごし、今度こそゆったりと睡眠をとったのであった。もちろん報酬もしっかりともらった。ついでにダンスウィズゴブリンⅣも貰っていく事にした。村人たちはもうゴブリンは見たくも無いとの事であった。


村人達に盛大に送り出され、三人は意気揚々と町へ向かって歩き出す。

「そう言えば町の祭りっていつだっけ?」

ふと思い出した様にシャルがミリーアに聞く。ミリーアもハッとした様に指で日付を数え始める。そしてその顔色がみるみる朱く染まり、すぐに青くなっていく。


「今日よ!今日がお祭りだよ!!」

それを聞いてシャルがあちゃーと右手で顔を覆う。

「そうかぁ、なんかそろそろな気ぃしたんだよなぁ。」

「そんな悠長な事言ってる場合じゃない!町まで走るわよ!!」

言うが早いかミリーアが魔法を唱え始める。


「おいおい、もう間に合わないんじゃないのか?」

「まだ間に合う!すっぽかしたらペナルティじゃ済まないよ!?」

二人に速力向上の魔法を唱え終わると当然の様にエドの背中に乗って森を指さす。


「森、突っ切るわよ!Go!!」

シャルはエドと顔を見合わせて仕方ないという仕草をすると、エイグリンの町へ向けて走りだしたのであった。

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諸事情あって旅しなきゃいけなくなったので冒険者してる三人組の話 にひろ @nihilo

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