第9話 襲撃を撃退して

エドが到着した時、既に戦闘は始まっていた。


デマスを中央に左右に並び、懸命に攻撃を受けながら反撃しようと奮戦している。デマスの足元には2体のゴブリンが倒れていた。デマスは懸命に声を上げて周りの村人を励ます。

「右に2体行ったぞ、ダン、そちらの2体はお前がやれ!お前ならできる!頑張れ!シン、槍が左に行った!気を付けろ。」


ダンは指示された通りに2体のゴブリンをどうにかさばいていた。しかし流石に一人で2体同時は厳しく徐々に手数で押され始める。

そこにエドが右側から入り、ダンに正に槍を突き刺さんとするゴブリンをアックスで跳ね飛ばす。


「待たせてしまったな。下がってくれ」

「エドさん!」

ダンが声を上げる。エドに気が付いた村人にも安堵の声が漏れる。

「気を緩めるな。」

エドが村人達に意識を集中する様に促す。


エドが改めてゴブリンに向き合う。しかしゴブリン達はエドという脅威に目もくれず執拗に村人の集団に向かって進もうとする。そこに違和感を感じながらもエドが盾で村人からゴブリンを遠ざけ、アックスで更に1体を切り落とす。そして中央に陣取ろうとするエドにデマスが怒鳴り声をあげる。


「邪魔だ、冒険者!こんな奴ら俺たちだけでやれるんだ!」

それに対してエドが冷静に返す。

「周りをよく見ろ、他の者はかなり疲弊しているぞ。」

そう言われてデマスが周りを見る。他の者は慣れない戦闘で消耗しており、エドが来た事で一対一になっているにも関わらず防戦一方となっていた。


デマスはただ一人悔しそうにエドの背中を睨みつける。

そこへミリーアが駆けつける。

「状況は!?みんな無事ですか?」

ミリーアが来たのを確認してデマスが密かに舌打ちをして譲る様に後ろに下がる。ダンたち他の村人もお任せとばかりに距離を取る。


ミリーアがエドに補助魔法を掛け始めると村人達からおお、とか凄いとか声が上がる。残りのゴブリンは7体、エドがさらに1体を屠るとゴブリン達の様子がおかしい。悲鳴の様な雄叫びを上げたと思うと全員踵を返して逃げ去っていく。


それを見た村人達から歓声があがる。エドもアックスを下ろす。しかしミリーアが走りだしエドに指示を出す。

「エド!逃がしちゃだめよ!あいつらを追いかけるわ!!」

それを聞いてエドも走り出す。


「おい!追撃はいい!村の周りを警戒するんだ!!」

後ろからデマスが大声を張り上げる。それを無視して二人はゴブリンの走り去っている方向に向かって進んでゆく。補助魔法で速度は上がっているがエドは重装備、ミリーアはローブのため全力疾走のゴブリンといい勝負だ。


ミリーアは走りながら考えを整理していた。巣穴討伐の際もおかしかったのだ。ゴブリンチャンピオンが身に着けていた装飾品は非常に少なかった。どう考えたって殆ど人を襲った事の無い群れだ。


それにさっきのゴブリンの変わりよう。どう考えたって裏に仕掛けがある。

ゴブリン達は臆病だしお互いの領域を守っていればある意味無害な生き物だ。ただし頭が足りなすぎるので良く下僕として使われる。ゴブリンの上位種であるロードやシャーマンから始まりオーク、オーガに加えバンパイアなんかの例もある。


あるいは、考えたくもないが最悪デーモン族という事もあり得る。

そうなった場合、三人で対処するにはできるだけ入念な準備が必要だ。

そこまで考えてミリーアはふと思い出した様にエドに聞く。


「そう言えばシャルがいないけど?」

「あいつは起きなかった。」

「あんのバカ!冒険者稼業を何だと思ってるのよ!!ボンクラね!」

自分も鐘の音で起きなかった事を棚に上げてぐっすり寝ているであろうシャルを罵倒する。


そのうち川に到着し、ゴブリン達が川を渡り始める。

「あいつら上流に向かっているわ。」

「うむ。」

ゴブリン達が渡った場所に到着する。


「エド、背負ってちょうだい。」

エドが少し腰を落とすとそれに飛び乗り、エドが川を渡り始める。その間にゴブリン達は更に上流に走っていくと次々に姿をくらまして行く。


「あそこ!あそこに何かあるみたいだわ!」

川を渡り終えた所でエドから飛び降りながらミリーアが指さす方向に2人で走り寄ると、今度は先ほど姿を消した土手の陰からゴブリン達が再度出てくる。ミリーアはその意図を掴みかね頭に疑問符が付くが躊躇なく指示を出す。


「エド、チャージよ!」

「オウ!」

その指示に従いエドがゴブリンの集団に突撃をくらわす。3体のゴブリンが跳ね飛ばされて岸に転がる。勢いあまって他のゴブリンを通りすぎた所で止まると、エドを無視してミリーアに向かって歩くゴブリンを背後から排除してゆく。


戦闘が終了し、一呼吸してからミリーアがエドに話しかける。

「まさかこんな所にも巣穴があるなんてね。それにしてもなんであいつ等また出て来たのかしら?」

「うむ、村でも挙動がおかしかったな。」

2人はそう言って葦や岩で上手く隠された入口に近づく。


巣穴の入り口でミリーアは探査魔法を唱え内部を確認する。

「ここ、あの山の巣穴の方向に伸びてる。って事はやっぱり同じ巣穴のゴブリンかしら。」

驚きを込めてそう言うと、ミリーアが魔法で杖に光を灯して中を覗き込む。すると少し入った所に何か光を反射する物がある。


ミリーアは中にゴブリンが見えない事を確認してから、腰を少し屈めて巣穴に入って行くと光を反射した物に近づく。そこには拳程のサイズの宝玉が箱の中に納められて置いてあった。


(これ、人が置いてったものね。魔物だったらこんな丁寧に箱に入ってるなんて事あり得ないしね。)

バックに居たのが変な魔物ではなく人間である事に安堵すると、宝玉を手に巣穴から出る。


「何やら相手は焦ってたみたいね。証拠品を見つけたわ。」

ミリーアがそう言って差し出した物をエドが受け取り確認する。

「なるほど、ゴブリンが扱ったにしては丁寧な扱いだ。」


色々と箱の方向を変えて調べていたエドが、どうする?といった風にミリーアの顔を見る。ミリーアがそれに応える様にエドの持つ宝玉に手をかざすとアイテムが少し光を発する。

鑑定の魔法を唱えたのだ。


鑑定の魔法とは詳しい原理は判明していないが人々の認識にある情報を参照する魔法である。一説にはワールドライブラリーと言われる認知空間があり、そこへ対象物を通して接続する事で物品の参照が可能という事らしい。


一般的に現物を前に使う事で明確な参照ができるのだが、魔導学者の一部では逆にワールドライブラリーに直接アクセスして膨大な情報を引き出そうと試みている者も居るらしい。


鑑定が終わるとミリーアがうんざりした声でエドに肩をすくめる。

「ああ、これ普通に市販品ね。ダンスウィズゴブリンⅣ、ゴブリンを操って大道芸なんかで見世物やるやつ、あれってこの宝玉使ってたのね。これと対になる指輪があるはずだわ。」


ミリーアの言う大道芸とは大きな街等で開催する対決ショーや劇なんかの事である。それらで敵役として本物のゴブリンが出てくると観客が大きく沸くため、近年広く見る様になったものなのだが、どうやら見つけた宝玉がそれらに使われている品だった様だ。


「後は簡単な犯人捜しをするだけね。」

そう言うとミリーアはエドに帰りましょと声をかけて歩き出す。

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