第8話 村へ帰ると
戦闘が終わりしばらく周りを警戒していたが、既にゴブリン達の気配は消え、三人は後始末に着手した。
巣穴は炸裂玉で潰してしまったので収穫はゴブリンチャンピオンの身に着けていた指輪一つだけであった。それもいくらか身体強化するだけの汎用品で巣穴を潰した割には寂しい収穫であった。もともと巣穴の通路も狭く、いずれにせよ中の探索は難しかったので仕方ないのだが。
武器に使われていた金属類も売ればいくらかにはなるが、重さの割には大した額にならないので、エドが使えない様に盾で潰して捨て置く。
最後にシャルが証として討伐したゴブリン達の右耳をそぎ落として煙幕を入れていた麻袋に放り込んでいく。途中から染み出た血で麻袋の底が色づき始める。最終的な討伐数は36体あった。戦闘員だけである事を考えるとかなりの数だ。
「あ~あ、この片付けがホント気が滅入るわ。」
シャルがうんざりした声を上げる。
「同感ね。この作業があると報酬が安く感じてくるわ。」
「まぁ、やったの俺だけなんだけどな。」
「そんな事レディーの私にさせるつもり?デリカシーの無い男はモテないわよ。」
「っけ、おこちゃまにデリカシーなんて不要だろが。それに子供にモテてもなぁ。」
ナイフを左右に振りながら心の底からうんざりした様にため息をつくシャルに怒りマックスなミリーアが飛び掛かる。
「あんたの証も追加してやる!」
「うお!あぶねえ!あぶねえって!!」
結局エドに引き離されて耳削ぎは失敗し、村に到着する頃にはかなり日が傾いていた。
村長の家で村長に簡単に巣穴制圧の成功と玄関脇に証の入った麻袋がある事を伝える。それから三人はすぐに装備の手入れに入る。装備の手入れは冒険者の基本だ。特に血の付いた金属はそこから腐食しやすい。なのでその日のうちにしっかり手入れしてやることが長持ちの秘訣だ。
武器は麻布で荒めにふき取った後でもっと軟らかい綿布でふき取り、しっかりと血糊がふき取れたことを確認して最後に油を引き直す。防具も拭いて綺麗にした後、不具合が無いか点検する。エドは鎧を着たままミリーアが拭いてあげている。
それが終わると用意してもらった風呂で身体を綺麗にする。風呂と言ってもお湯で体を拭いた後で仕上げにかけ流しをする程度のもので湯舟につかるなんて贅沢はなかなかできない。
因みにシャルはいつもエドと風呂に入ろうとするのだが、その度に入口で見張りをしているミリーアに追い返される。場所によっては結界を張る徹底ぶりで、ついぞエドの本体とご対面した事が無い。無論風呂からあがっても変わらぬ鎧姿だ。
ミリーアとシャルの二人は装備を全て外して一仕事終えた時用の普段着である。
三人が改めて村長と話をしようと食卓に行くと多くの人が集まっていた。村長も結果だけは聞かされてはいたがみな詳細を聞きたくて集まったのだ。食堂には既に宴会の準備がされ、ゴブリン討伐のお祝いをしようと皆が杯を手に待ち構えていた。いや、既に始まっており、一部は出来上がっていた。
まず、村長が改めて状況の報告をミリーアに求める。ミリーアは村長に軽く頷くと話を始める。
「みなさん、我々はあちらの山に発見したゴブリンの巣穴を崩壊させました。討伐数は大凡30体、また群れのボスも討ち取りました。」
それを聞いて村人がおおと歓声を上げる。酔っぱらいの一団がカップをかち合わせ酒を飲み干している。
「特にボスを討伐した事で群れの統率は崩壊し、もし残されたゴブリンが再度群れを成したとしても同じ規模になるにはかなりの年月が必要でしょう。また、今回の恐怖で人の里を襲撃する様な事はほぼ起こらないと考えています。」
それを聞いて村人達が拍手喝采する。
「我らの村の救い主に!!」
そこに村長の掛け声で改めて村人が乾杯を合唱する。誰の顔も満面の笑みであったが、その中にデマスの姿は無かった。
その夜は大盛り上がりであった。シャルが酔っぱらって活躍の場面の再現を始めると村人たちが沸くので、調子に乗ってさらに大げさな振り付けで演技をする。ミリーアは自分の演技をするシャルにもっと色っぽいだろ等と注文を付けては大笑いして酒を飲み干す。エドは村の子供達がフルフェイスヘルムを取ろうとするのを手で抑えながら悠々と酒を口に運んでいる。
騒がしい宴会も徐々にピークを付け最終的にカヤリが酔いつぶれる寸前のミリーアとシャルを誘導してベッドに連れてゆき、エドも少し酔った足取りでそれに続いて部屋に戻る。
村人たちも寝静まった深い静寂の中、突然村の鐘が鳴り響いた。
「襲撃だー!ゴブリン共が襲撃に来たぞー!!」
その音に何人かの村人が武器を持って声のする方へ走り集まる。その数僅か三名、後の者は酔いつぶれて起きてこない。ゴブリンはざっと10を超えていた。
その一団が徐々に村に近づいて来ている。冒険者の様に戦闘慣れしていない村人にとってこれはかなり劣勢の状況である。駆けつけた内の一人であるダンが叫ぶ。
「誰か、冒険者さん達を起こして来てくれ!」
「そ、そうだな。」
その声を打ち消す様に鐘を鳴らしていた男が櫓から降りて来て怒鳴る。
「落ち着け!!酔っぱらった冒険者なんぞ役に立つか!俺たちでどうにかするんだ!」
村人がそちらに目を向ける、その男はデマスであった。どうやら宴会には参加せず、ずっと一人で見張りをしていた様だ。
「もう時間もない!この俺、デマスがいればあの程度の数どうにかなる!着いて来い!」
その声に勇気づけられ他の3名も「流石デマスさん!」「やってやるぜ!」等と気合の入った声を上げてデマスに続く。
村長の家ではエドが鐘の音に起こされていた。怒鳴り声からどうやら再度の襲撃があったらしい事を察する。まだボケている頭を抑えながら急いでシャルを起こす。しかしシャルは深い眠りの中で起きる気配がない。日ごろ気の張った睡眠しかできないためこういう時の眠りが異常に深いのだ。エドは何度かシャルを起こそうと試みるが遂に諦めミリーアの部屋に行く。
エドは無遠慮にミリーアの部屋に入る。ミリーアも今日はぐっすりと眠っており、鐘の音程度では起きない。しかしエドはミリーアの起こし方は良く解っている。エドがミリーアの髪の端を持って耳の中をくすぐる。
「ふひゃあ!!」
まるで猫が飛び跳ねる様にミリーアが飛び起きる。
そんな様子を全く気にもかけずエドが端的に状況を伝える。
「襲撃だ。」
「なんですって!?」
その言葉にミリーアはすぐに反応して支度を始めようとベッドを出る。
そこへカヤリが飛び込んで来る。
「大変です!ゴブリンがまた襲撃に!!」
ミリーアがカヤリに視線を送り少し頷く。カヤリは恐怖で引きつった顔をしていたがミリーアが起きていた事で少し落ち着きを取り戻した様だ。
「先に行く。」
エドがミリーアに声をかけて部屋を出ていく。
「どうしてこんな事に。」
カヤリの問いかけにミリーアは上手く答えられない。装備を身に着けながらカヤリに聞かせる様に口に出して状況を整理する。
「正直、判らないわ。あれだけの巣穴で近くに別の巣穴があるとは思えない。それにあいつらは臆病よ。復讐のために村に襲撃するなんて事普通は無いわ。実は襲撃はあの巣穴の奴らでは無くてはぐれゴブリンの集団だった?そう言えば最初の集団で様子がおかしかった件はまだ何も判ってないわ・・・」
最後の方は考え込む様に小さな声になりカヤリには聞こえていなかった。少しの間考える様に沈黙してからハッと顔を上げカヤリに声をかける。
「まずは今の状況をどうにかしないとね。安心して私たちがいればゴブリンなんて相手にならないわ。」
そう言ってミリーアも部屋を駆け足で出ていく。
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