推しを経費で落としたい
甘木 銭
推しを経費で落としたい
私は、激しく葛藤していた。
スーパーのお菓子売り場で。
手には私の大好きなアニメのカード付ウエハース。
「やっぱまずいかなぁ……」
私は今、会社が開催する子供向けのクリスマスパーティーで配るお菓子の買い出しに来ている。
お菓子調達担当は私一人。
適当なお菓子を見繕って、一人当たり三百円前後になるよう袋に分けて詰めるのである。
作るのは三十セット。
三十枚一気に買える。
私はこのウエハースのカードはとっくの昔にコンプしている。
箱推しなもので。
おかげで私の食事は五日間ウエハースになったものだ。
しかし、今この状況。
追加で三十枚分コンテンツに課金できてしまう。
いや、こんなウエハース三十枚など、微々たるものだ。
何なら私が買ったっていい。
しかし、これ以上貢いでしまうと私の家計簿が黙っていない。
食費を削る訳にはいかないし。
だからこそ経費で課金が出来るこの機会は実に美味しいのだが。
いやでも公私混同だよなぁ。
私は相変わらずウエハースのパッケージを手に取ってにらめっこしている。
子どもやお母さま方の視線が痛くなっていた。
こんな大人ですみません。
よろしくない。
よろしくないとは思いつつ。
課金の誘惑に勝てない私がいる。
大体にして、ウエハースは一枚百円。
三百円の予算の実に三分の一。
それならこまごましたチョコなんぞを二、三枚入れてあげた方が喜ぶだろう。
アニメ自体も子供向けではない、アイドルものだしなぁ。
いや、かわいい女の子が描いてあるから喜んでくれるだろうか?
子どもなんてカード付を喜ぶだろうし……。
は、こういう考え方はいけない。
確かに子供の頃の私はカードが好きだったけど、今の子どもがそうとは限らないし。
やはり普通に、いやしかし。
もしここで私のチョイスによって運命の出会いを果たす子がいたら?
そうだ、三十人もいるのだから、一人くらい興味を持ってくれるかもしれない。
これは布教でもある!
……って、それならなおさら経費でやっちゃいけないよなぁ。
うん、こんな形で課金しても、彼女らは喜ばないだろうし。
そうだ、今の私の任務は子供たちを喜ばせることだ。
私はウエハースを棚に戻し、子供が喜ぶお菓子を真剣に考え、レジに向かった。
ウエハースは自費で買った。
私の食事は向こう三日間糖質過多だ。
推しを経費で落としたい 甘木 銭 @chicken_rabbit
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます