マジカル二刀流 メロディ♪ツイン
紫風
メロディ♪ツイン 参上!
「出たわね」
ピンク色の長い髪をツインテールにして、セーラー服を基調としたコスチューム。胸元に大きなリボンと、その真ん中に大きなブローチ。ギャザーをたっぷり寄せてふんわり広がったピンク色のミニスカートの下から、膝までの長めのフリルが二重に広がる。
10代後半特有の体つきに、愛らしくも勝気な顔の少女。
その彼女に、身体に黒いもやをまとわせた老若男女ばらばらの人間が、ゾンビのようにゆらゆらと迫る。
そのゾンビもどきに、びしっと右の人差し指を差して、左手は腰。ひざ下までのピンクのロングブーツの両足を肩幅に開き。
どこのコスプレかと思う格好の彼女であったが、いいや、彼女こそは――
――魔法少女
「マジカル二刀流 メロディ♪ツイン 参上!!」
□▲〇
2022年春。
春といえば、浮かれる人がいる一方、気が重くなる人も多い季節である。
花粉症、異動、卒業、入学等々。
環境の変わることの多い季節は、自律神経失調症の多い季節でもある。
憂鬱な気分。
その憂鬱な気分を好物とする、魔が人類を狙っていた。
―― ヒイッヒッヒッヒ。みんな憂鬱になっておしまい
現代日本には、悩める人が多い。憂鬱の種なんて、みんな持っている。
会社行きたくない、学校行きたくない、花粉症の季節がやってきた……。
魔は、そんな人々の心に付け込んで、憂鬱な気分を増幅させて作ったもやで人間たちを包み、操り人形にした。
目指すは、世界征服である。もとい、自己増殖で世界を覆いつくす、ということである。
「ちょおっと待った!」
もやに包まれ、ただひたすら憂鬱な気分に浸っている人たちの前に、紫色のコスチュームの少女が現れた!
「みんなのその憂鬱な気持ち、このメロディ♪ツインが黙ってないよ!」
―― なんだいお前は
もやの一部が集まり、人の形を作る。魔のお出ましだ。
「マジカル二刀流 メロディ♪ツイン 参上!!」
紫色の少女は、ぴしっとポーズを付けて、そう名乗った。
「まずは、そのもや、片付けさせてもらうわ!」
紫色の、セーラー服を基調としたコスチューム。胸元には大きなブローチ。
彼女は、その胸元のブローチに手をやった。
ブローチは真ん中の部分が動くようになっており、彼女はその動く部分をくるりと回した。
と、ブローチを中心に、彼女が光に包まれた。
―― !!
光が収まった時、そこにいたのは『彼女』ではなかった。
剣を1本ずつ両腰に下げた、青年がそこに立っていた。
―― さっきの小娘はどこに……
魔の問いにも答えず、青年は、胸の前で腕を交差させた。そして、もやをまとったゾンビもどきの群れの中に飛び込むと、両腰の剣を抜き払った!
素早い動きで青年は両腕の剣を振り回すと、ゾンビもどきの人間たちの、もやだけを切り払っていった。人間たちには、一筋も当てていない。
立ち止まった青年が振り返り、剣を払って鞘に納めると、ゾンビもどきになっていた人間たちが崩れ落ちた。攻撃は当たっていないので、気を失っているだけだ。
青年は、魔を見据えた。
「次はお前の番だ」
―― …………
魔は、青年を睨みつける。
青年は、胸のブローチの動く部分を、少女と同じように回した。
青年が光に包まれる。
―― またか!
光が収まった時、そこにはピンク色の少女が現れた!
最初の、紫の少女とは若干コスチュームのグレードが上がっているのは気のせいか。
「マジカル……」
―― それはもういい
「人々を、憂鬱な気分で包むなんて、許せない! このメロディ♪ツインが退治してやるわ!」
―― そうはいっても、人間であるなら、憂鬱な気分から無縁で生きることはできない。いくらでも無限に取り出すことは可能だ。特に春はやりやすい。
「確かに春は、いろいろあるわ。でもね、春にもいいところはあるのよ!」
―― 例えば?
「春はね、プロ野球のシーズンが始まるのよ!!!」
―― は?
「だからね、シーズンオフを越えて、2月から春季キャンプ、キャンプ終盤には練習試合とオープン戦、3月にはペナントレースが開幕するの。いい? この沸き立つ気持ちがわからないかしら?」
一気に、メロディ♪ツインがまくしたてた。
―― はあ。
「野球ファンにとって、この時期は、長い冬を経てようやく再開の兆しにワクワクする。憂鬱になってる暇なんかないのよ!」
―― はあ。
「ああ開幕。開幕よ、開幕。今年はいったい、何位になるかしら」
くるんくるんと浮かれたように、訂正、浮かれきって、メロディ♪ツインが舞う。
魔にとって、ペナントレースなどどうでもいい。
―― えーと、じゃあ、もういい、ですか? あ、よさそう。では、お前も憂鬱にしてやる!!
もやがメロディ♪ツインに迫る!
メロディ♪ツインは、両手に部品を取り出した。
手を前に持ってきてジョイントすると、それは1本の笛になった。
―― 笛?
メロディ♪ツインは、にやりと笑うと、笛を吹き始めた。
「ひとの心に巣食う闇、(俺と)(わたしで)ホームラン!」
―― そ、その曲はっ!
それは、とある都市では、秋になると街中のあちらこちらで流される曲だった。
夏の祭り、秋のシーズン終了時期になると、バスの運転手、ショッピングセンターの店員、タクシーの運転手、あまつさえデパートの店員やピザの配達員、宅配業者などが何故か着ているユニフォームの、プロ野球球団の球団応援歌だった。
「浮き立つでしょう、浮き立つわよねこの曲!!」
力強いメロディは陽の気を帯びて、魔のもやを剥いでいく。
―― あ……あ………………
魔は光に押され、少しずつ小さくなっていく。
消える寸前。
―― わたしはサッカー派だ……
そう言いおいて、魔は消えた。
□▲〇
どん、どん、どんどんどん。
ぱーぱーぱーぱーぱぱぱぱぱ。
トランペットの音と太鼓の音が、とある球場の、まだ人がまばらな外野スタンドに響く。
以前は生演奏だったが、2022年、このご時世ではまだトランペットは吹けない。2021年、応援が禁止されてから、それでも選手が寂しかろうと録音で応援歌を流していた。今年はというか去年末ごろから、太鼓くらいは生で叩いている球場もあった。
その、私設応援団の中に、見た顔があった。
メロディ♪ツインの青年である。
応援団の一員ではあったが、ぐおおという感じではなく、おとなしそうに手拍子だったりをしている。
グラウンドでは、球団のマスコットと公式チアリーディングチームが、観客に手を振っている。
その中に、メロディ♪ツインの少女がいた。髪は平均的な日本人の色である。さすがにピンクとかではちょっと。
今日の試合は勝った。
「お待たせ」
外で待っていた青年に、少女が声を掛ける。
「お腹すいた~~~」
「うん」
この二人、二卵性双生児の兄妹であった。
名前を、兄の方はゆうき、妹の方はまみやといった。
「今日、球場入り間に合わないかと思ったよ~~」
「そうだね」
活発な妹と、寡黙な兄。魔法少女になるときは、なぜか二人で一人なのである。
「これからシーズンになるから、あんまりあっちの活動できないね」
「時間がずれてたらいいけどな」
妹は公式チアリーディングチームの一員、兄は私設応援団の一員。ホームで試合があるときは、球場に入っていないといけない。特に妹。
「ホームじゃなかったらいいんだけど」
「半分はビジターだからな」
ビジターには、ついて行かないことの方が多い。相手方のチアリーディングチームがいるからだ。その場合も特に休みではないのだが、ホームほど拘束されない。
「まだ店空いてるかなあ」
「最近早いからな」
□▲〇
今日も今日とて敵は来る。
今日もホームでナイターだ。
「んもう!! シーズンオフに来てちょうだいっ!!!」
END
※さて、いくつダブルの要素があったでしょうか?
マジカル二刀流 メロディ♪ツイン 紫風 @sifu_m
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