二刀を負う者、一頭も得ず

脳幹 まこと

KAC20221



「今日も……ひとつの頭も手に入らなかったな」


 二本の日本刀を背負った首狩りの匠サムライ・ジャパン、すーさんが項垂れた。その顔にははっきりと焦燥が浮かび上がっている。


 11日間で打った首の数を競う、KubiAlwaysCutが始まって、はや10日目。


 首斬クビキリワードを求め、多くの首狩りの達人がしのぎを削る戦いをしていた。

 もちろん達人である彼らが自らの首をみすみす差し出すはずもなく、日本代表のすーさんは未だに一つの頭も手に入れていないのだった。


「ぺーちゃん、そっちはどう?」

「こちらも難儀ぜうす、やはり世界は広いぜうすなあ」


 友人のぺーちゃんも同じような状態らしい。このまま恥を晒して帰れるか。

 しかし、心の底にあるもやもやは晴れない。


「こんなときは……これか……」


 ストロングゼロを一缶あけ、一口含む。衝撃的な快楽がやってきて、何もかも忘れてしまいそうになる。


 が、悲しいかな、すーさんは恐ろしいまでの下戸で、

 採血の前のアルコール消毒ですら吐き気を催すという悲しみを抱いていた。


 ひとしきり吐いて、ストロングゼロの500缶を放り投げる。ドバドバと中身が出る。ああ、あのように流れる鮮血が見たい。


 すーさんは眠りについた。



 11日目。

 目覚めると、8つの頭が目の前にあった。しかも全てがすっかり眠りについている。

 

 ストロングゼロは神をも超えるのか。


「ぺーちゃん、俺、優勝できるかもしれない」


 友人にLINE既読無視されるのはこれが始めてではなかった。

 こうして、すーさん、正式名・須佐之男命スサノオノミコトは一挙に8つの頭を獲得した。


 最終日の夜、ぺーちゃんから以下の返信が来た。

「お疲れぜうす。おいどんも少し自信が出てきたぜうす」



 そして、KubiAlwaysCutの最優秀賞に選ばれたのは、ぺーちゃん、正式名・ペルセウスであった。


 自信があったすーさんは、侍の心を見せて切腹しようとしたが、それはすんでのところで止められた。


「一体、記録はいくつだったんだ?」

「数え切れなかったぜうす、100は超えていたと思うぜうす」


 一体、どんな殺戮ショーを見せたんだ……?


 と思って、獲物の姿を見たすーさんは、たちまち全身が石になってしまった。

 授賞式の前に再起不能リタイヤとなった為、すーさんの記録はゼロ頭となった。



 なお、その獲物はギリシア代表の一人で、めでゅさんと呼ばれていたらしい。



 P.S. 石になったすーさんは、石の中に引きこもったことのある姉貴のもとに着払いで郵送されたってさ。

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