妹と二刀流、合わせて三刀流
犬鳴つかさ
妹と二刀流、合わせて三刀流
オレにとって至高の時間は『二刀流』をしている時だ。
何も言葉の意味まんまに刀を振るう、ってわけじゃない。『ゲーム』しながら『アニメ』を見る。これがオレにとっての二本の刀。ゴールデンタイムは他の家族にテレビを占有されているので、この
「あれぇ……? おにぃ、またこんな時間に……」
トイレにでも行きたくなって起きてきたのだろう。廊下に通じる扉から、今年中学に入ったばかりの妹がリビングに入ってきた。
「ちゃんと寝なきゃダメじゃん」
なんて、いっちょまえに言い出す。ホント、ついこの前まではオレにべったりだったのに、最近は小さい母さんみたいになってきた。
「お前にゃ、関係ねー。これがオレにとって唯一の楽しみなんだ。邪魔してくれるな」
「ひどーい。何その言い方ー」
私はおにぃのこと心配して言ってるのに、と妹はテレビの前にあるソファに近づいてくる。そして、寝そべりながらスマホゲームをいじるオレの頭の隣に腰を下ろした。
「どっちか一つにしないと集中できなくない?」
「んなこたぁない。この二刀流に関しちゃ、オレは免許
「ふぅん……。二刀流ねぇ……」
何言ってんだか、という
「あー、あー、そこのおにぃ。刀を捨てて投降しなさい。大人しくオフトゥンに入るのです」
「その提案には承服しかねる。オレは断固としてオレ自身の自由と尊厳のために戦い続ける。降伏勧告は無駄だと知るがいい」
むぅ……と妹は
ならさ、と妹は立ち上がりオレのほうを向いてから目が合うようにしゃがみこむ。
「私と合わせて……三刀流にする?」
「はい?」
それからどういうわけかオレは妹に
いくら女性に膝枕をされたと言っても、やはり妹なのでこれといってドギマギするようなことはない。しかし、自らその役柄を買って出ただけあってそのパジャマ越しの太ももの感触は、なかなかちょうど良い心地よさがあった。
「おー、このアニメの女の子可愛いねぇ。おにぃ、もしかしてこういう娘が好きなの?」
「別に。ストーリーが面白いから見てるだけだ」
「ふぅん……なぁんかオトコのコの言い訳って感じィー」
「うるせ」
だいたい、今はゲームのほうが良いところなのだ。アニメにも妹にも構っている余裕はない。
「……あーくそっ」
「……」
「もうっ、ちょっとで……」
「……ふうっ」
「に゛ゃっ……!」
突然、妹が耳に息を吹きかけてきたので手元が狂う。ゲーム内のオレはレイドボスの
「んっ……なにすんだ!」
「ほら、やっぱり集中できてない」
おにぃ
「……たしかに、面白いことは目が回っちゃうぐらい色々あるけどさ。一個のことに集中する時間作んないと逆にもったいなくない?」
「わかったふうなことをおっしゃいますな、我が
「そういうふうに
なんて言いながら生意気にもオレの頭を
そこでオレは気づいた。変わったのは、むしろ自分のほうだったんじゃないかと。
高校に上がって、やらなきゃいけないことが増え、やらなくても良いこともたくさん増やした。そんな日々に
もしかすれば、妹はそんなオレに気を使って今までわざと距離を……さすがにそれは無いか。
「まぁ、多少は……お前の言う通りかも……」
「わかればよろしい」
首の向きを変えて、妹の顔を見上げてみる。オレに降りかかる笑みがなんだか妙に
「ただ念のため言っとくけど──」
その不意を突くように、妹の顔がオレの頰にせまり──軽く、
「私のことにも──集中してよね」
妹は
リビングには次のアニメのオープニングテーマを垂れ流すテレビと、スタート画面に戻ったスマホゲーム、そして
もう、ゲームにもアニメにも集中できなかった。
妹と二刀流、合わせて三刀流 犬鳴つかさ @wanwano_shiba
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