第49話・しあわせになろう
「アリア、ちょっと出掛けようか」
ウクブレストからの報せを聞いた二日後、リカルドはアリアを外出に誘った。
愛馬のブレントに乗り、リカルドがアリアを連れてきたのは、二人のお気に入りの場所である、森の湖だった。
「アリア、この間はいろいろと、すまなかった」
「いえ、大丈夫です」
謝ったリカルドに、アリアは首を横に振った。
でも、彼の弱いところを知って、余計に彼を好きになったのは、秘密にしておこうと思う。
ウクブレストには、アリアの両親と弟のクリスが向かう事になった。
爵位を剥奪され、国外追放された身のため、アリアの父であるエランドは、最初難色を示していたが、ターニアにひどい事を言ってしまったから謝りたいと言うクリスに、ウクブレストへついてきてほしいと説得されたのだ。
三人はステファンに護衛され、今朝早くウクブレストへと旅立って行った。
「今回の事で、いろいろと考えた事があるんだ。それを君に聞いてもらおうと思って……いいかな?」
「はい、もちろんです」
改めて、どうしたのだろう?
少し不思議に思ったが、アリアは頷き、リカルドの言葉を待った。
「ディスタルのように、道を間違わないように生きていきたいって、改めてそう思ったんだ」
そう言ったリカルドは、ふう、と息をつくと、苦笑した。
「当たり前の事を、どうして言うんだろうって思っただろう? だけど、もう君も気付いているとは思うけど、俺たち二人は、ただの人間には大き過ぎる力を、手に入れてしまった……」
「はい……」
アリアは小さく頷いた。
二人とも、精霊に愛されているという事。
そして、ドラゴンという偉大な生物にも愛されている事。
確かにそれは、ただの人間には過ぎた力だった。
「今後、俺たちが何を目指すか、何を望むかで、周りに様々な影響を及ぼしていくだろう。だから思った。決して道を間違えてはいけないって」
「はい、私もそう思います。でも……」
「なんだい?」
「リカルド様は、決して間違えたりしないと思います」
アリアがそう答えると、リカルドは驚いたようだった。
「どうして、そう思うんだい?」
「それは、私がリカルドを信じているからです。それに……」
「それに?」
「リカルド様が望む未来を、私も一緒に見たいんです。だから、リカルド様が何かを望むのなら、望んでほしい。私はそれを、とても楽しみにしているから」
「アリア……ありがとう……」
ほ、と息をつき、リカルドは嬉しそうに笑った。
「ちょっと、気が抜けた。緊張していたのかな……」
「そうかもしれませんね。ご自分の事、俺って言ってましたから」
「あぁ、またカッコ悪いところを見せてしまったね」
「大丈夫ですよ、私はどんなリカルド様の事も、大好きですから。ところで……リカルド様は、何を望まれますか? 何か欲しいものがありますか?」
アリアの問いに、幸せそうな笑みを浮かべ、リカルドは言った。
「僕が一番望んでいたものは、もう手に入れたからなぁ」
「え?」
伸びてきたリカルドの指先が、優しくアリアの頰を撫でた。
「君は僕が一番望んだもの……。これから僕が望むのは……君との幸せな未来……どうかな?」
「はい! 私も、それが一番嬉しいです!」
アリアは頷くと、リカルドの腕に飛び込み――リカルドはアリアの体をしっかりと受け止めて抱きしめてくれた。
大勢の前で婚約破棄を言い渡されましたが、それは幸せへの道の第一歩でした 明衣令央 @akei-reo
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