お兄ちゃんと二刀流

雪桜

お兄ちゃんと二刀流


 神木かみき家には、宝石のような男の子がいます。


 赤みがかった金色の髪に、海のように澄んだブルーの瞳。誰もが振り返るほどの美しい容姿をした男の子の名は──神木かみき 飛鳥あすかくん。


 現在、小学5年生の飛鳥くんは、この世のものとは思えないほど美しく、幼少期から人を惹きつける魅力に溢れていました。


 街を歩けば、モデルや芸能界にスカウトされ、幼稚園や小学校では、女子や男子からラブレターを貰いまくり、最終的に学校一のアイドルにまでのぼりつめました。


 そして極めつけは、あまりにも美しかったが故に『コレクションにしたい』言い出した変態に、誘拐されそうになったこと。


 間一髪、無事でしたが、美しぎる飛鳥くんは、意外と波乱万丈な人生を歩んでいました。


 ですが、そんな飛鳥くんにも、大切な家族がいます。特に、5つ下の双子の妹弟のことを、飛鳥くんは、いつも守っていました。


 双子の名前は──はなちゃんとれんくん。まだ、5歳です。


 茶色がかった黒髪をした双子は、日本人特有の姿をしていて、クリッとした大きな瞳に、愛らしい頬は、なんとも可愛らしい。


 ですが、金髪碧眼の飛鳥くんと、黒髪の双子たちは、全く似ていませんでした。


 え? 血は繋がってるのかって?

 それは、また別の機会に語ると致しまして。


 これは、そんな似てない兄妹弟と、彼らのお父さんが過ごす、穏やかな日常の一コマです。











   * お兄ちゃんと二刀流 *











 ***


 冬の寒さが残る3月初旬。

 神木家は、家族みんなで買い物に出かけていた。


 三兄妹弟の父である神木かみき 侑斗ゆうとは、黒髪でスレンダーな体躯をしたイケメンパパ。買い物カートを押しながら食品を物色する姿は、もはや慣れ親しんだ姿だ。

 だが、そんな父に頼まれ、双子の面倒を見ていた飛鳥は、珍しく慌てていた。


(蓮のやつ、どこいったんだろう……!)


 どうやら、さっきまで側にいた弟の蓮が、突然いなくなってしまったらしい。ほんの一瞬の出来事だ。しかも、蓮の隣にいた華に聞いても『わからない』という。


「お兄ちゃん、蓮はー! どこいっちゃったの!?」


「華、大丈夫だよ。すぐ見つけるから!」


 双子の片割れがいなくなり、今にも泣き出しそうな華の手をしっかりと握りしめ、飛鳥はスーパーの中をぐるぐると探し回った。


 お菓子コーナーだろうか?

 それとも、パンコーナーだろうか?


 蓮がいきそうな場所を、不安げな表情でひたすら歩き回る。すると、それからしばらくして、スーパーの奥にあったオモチャコーナーの中で、蓮がうずくまっているのが見えた。


「蓮!」


 視界に入るなり、飛鳥は慌てて蓮に声をかける。

 まだ5歳の幼児がいなくなったのだ、それなりに肝を冷やした。すると、蓮の元に駆け寄れば、ずっと泣くのを我慢していた華が、声をあげて蓮に抱きついた。


「もう、れんのばか〜、しんぱいしたんだからぁー!!」

「ぁ……ごめん、華」


 泣きじゃくる華とは対象的に、冷静な蓮。それをみて、飛鳥はほっと息をついた。

 探す方は、泣きたくなるくらい必死だったってのに、探されていた方は、この様子。


(迷子になって、泣いてると思ってたのに)


 少し拍子抜けしたが、弟が泣いていなかったことを、飛鳥は素直に喜んだ。もし、はぐれて泣いていたとしたら、それは、一瞬でも目を離した、自分の責任だから。


「蓮、俺の手を離れちゃダメだよ。はぐれたら、危ないから」


「ねぇ、お兄ちゃん、これ買って」


「え?」


 すると、飛鳥が蓮の手を掴んだ瞬間、蓮はオモチャコーナーの棚を指さした。


 そこには、今流行りのオモチャがずらりと並んでいた。そして、蓮がさしたのは、最近よく見ているサムライアニメのオモチャらしい。


 しかも、主人公が持っている一刀流の刀の方ではなく、その仲間が持っている二刀流の刀の方。要は、箱の中に刀が二本入っていてる、それなりに立派なオモチャだ。しかも金額は──7000円。


(高っか!!)


 その金額をみて、飛鳥はたじろぐ。


 父子家庭である神木家は、父のお給料だけで生活している。つまり、誕生日やクリスマス以外に、こんな高価なオモチャを買うなんて、もってのほか!絶対に阻止しなくてはならない!


「だめだよ、蓮。今日は、普通に買い物しに来ただけなんだから、オモチャは買わないよ」


「えーーーー!!」


 すると、さっきまで大人しかった蓮が、突然、火のついた赤子のごとくわめき出した。


「やだぁぁぁ! これ欲しいー! なんでダメなの!」


「なんでって、蓮の誕生日は、もう少し先だろ。だから、今日はダメ」


「やだー! 買ってー!」


「……っ」


 すると、ついには泣きだしてしまった。こうなると面倒臭いのが、イヤイヤ期の幼児だ。だが、さすがに7000円は高い。


「蓮、わがまま言わないでよ。それに、なんで二刀流の方なの? 刀がほしいなら、一本でも十分」


「ダメ! 二本じゃないとダメ!」


 いやいや、なんでそんなに、二本にこだわるんだよ。

 しかも二刀流なために、他のキャラクターの刀より、金額が2倍近く跳ね上がっていた。一本なら、まだ買えない金額じゃないのに(ちなみに、主人公の刀は、3700円)


(ていうか、蓮の好きなキャラって、二刀流の人じゃなかったよね?)


 その瞬間、一緒にアニメを見ていた時に、蓮が好きだと言っていたキャラを思い出した。


 確か、蓮が好きなのは、刀から炎を出す金髪のお兄さんキャラだった気がする。

 もちろん、刀は一本で、そのキャラの刀も、二刀流の隣にあった。それなのに……


「なんで、二本じゃないとダメなの?」


 蓮の不可解な行動に、飛鳥は真面目な顔で問いかけた。すると


「だって、二本ないと、お兄ちゃんと華を同時に守れないし」


「え?」


「お兄ちゃんが、また変態に拐われそうになったら、今度は、オレが守ってあげるからね!」


「……っ」


 その言葉に、飛鳥は目を見開いた。


 つまり、兄姉きょうだいを二人とも守るために、二本ないとダメだと主張しているらしい。


(……そっか、それで二本なんだ。俺より、5つも年下のくせに)


 本来、守られるべきなのは、まだ小さい弟の方。

 だけど、その気持ちは、素直に嬉しくて──


「おーい! 華、蓮、飛鳥〜」


 すると、そんな兄妹弟の元に、父がカートを押しながらやってきた。どうやら、探していたのか、我が子が三人も同時にいなくなったからか、かなり血相を変えていた。


「あー、よかったー! 3人していなくなるなよ。お父さん、めちゃくちゃ焦っちゃったじゃん!」


「あ、ごめん」


「あれ? 蓮と華、なんで泣いてんの?」


 飛鳥が素直に謝れば、侑斗は、飛鳥の前で涙目になっている双子に気づいた。すると今度は、ずっと蓮の隣で黙っていた華が


「お父さん! 華も、お兄ちゃんと蓮を守りたい!」


「「え?」」



 ◇


 ◇


 ◇



 その後、会計をして店から出る頃には、双子は、それぞれの手にオモチャを抱えていた。


 あの二刀流のオモチャを──


「あんなに高いオモチャ、買ってよかったの?」


 一つ、7000円。しかも二セットも買うことになり、飛鳥が父に問いかければ、侑斗はにこやかに笑って答えた。


「まぁ、うちは双子だからなー。蓮だけ買って、華には買わないってわけにはいかないだろ」


「そうだけど。買わないって選択肢もあったでしょ」


「確かに、そうだけど……でも、せっかく育ってる気持ちを、ここでくじきたくはないだろ」


「気持ち?」


「あぁ、って気持ちは、俺も一緒だからな」


「……っ」


 父の大きな手が、飛鳥の金色の髪を撫でた。

 とてもとても大切だと言わんばかりに、目を細めた父に、少しだけ頬が赤くなる。


「あんなオモチャで、どうやって変質者、撃退すんの……っ」


「えー、そんな現実的なこと言う? それとも拗ねてるのかな〜。飛鳥にも、今度なにか買ってやるからな!」


「いらないよ! てか、拗ねてないし!」



 その日、神木家には、二刀流のオモチャが二箱、新たにやってきました。


 まだ幼い双子たちに芽生えた『家族を守りたい』という、温かな心と一緒に──…






* おしまい *

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