ミッションクリア

緋雪

ミッション「二刀流」クリアなるか?

 書類4枚に目を通し、情報をモバイル端末に入力する。今日のミッションは少しハードだ。限られた時間でのクリアを考えれば、1つ、どうしても諦めねばならないかも知れないターゲットがある。が、迷っている時間はなかった。


 車に乗り、出発する。ボスから支給された新車だ。他の車が苦労する道もガンガン走る。


 1箇所目、敵に囲まれながらのミッションだ。ターゲットは複数だが、敵の数はその倍以上いた。上から来る敵を横からかわし、この場所で一番重要なターゲットをゲットした。それさえゲットすればこちらの物だ。敵がそちらに気を取られている隙に、他のターゲットを次々とゲットする。


 次に向かう途中、仲間を二人拾う。車内は少し狭くなる。こいつらは、いろんなことでよく揉める。頼むから大人しくしてろよ、ベイビー。

 次の箇所も無難にこなし、最後の目的地に着いた。仲間たちが、このアイテムも一緒にどうだ?と聞いてくる。耳も貸さずに最終ターゲットまでゲットし、アジトへと戻った。


 まだボスは帰っていなかった。ボスが帰ってくる前に、まだやっておかねばならない仕事がある。着替えて、素早く持ち場につく。


 今日一番のターゲットを目の前に、ふっと笑いがこぼれる。まず、こいつをナイフで一部切断する。さらに鈍器で殴る。お前、白い粉は好きだったな。もっとスペシャルなやつもかけてやるよ。ふふっ。これがお前の最期だよ。煮えたぎる溶鉱炉に放り込む。You'll never be back. いや、ある程度のとこで助けてやろう。やりすぎるとボスに叱られちまう。


「おい、それは俺のもんだぞ!」

「なんでよ!あたしが見つけたんだからね。」

ちょっと前にボスが手に入れていたブツを見つけたやつらが、仲間割れを始める。

「やめな!お前らにやるとは一言も言ってないだろ!ボスに聞いてからにしな!」

奴らは渋々、それをテーブルの上に置く。


「お前ら、報告することはないんだろうな?」

一人が書類を見せてくる。来週、会合があるらしい。

「お前の腕前の見せ所だな。期待してるぜ。」

「まあ、やれるだけのことはな。」

男は笑う。


「お前はないのか?」

もう一人の女に聞く。

「いや…あるといえばあるんだが…」

そう言いながら渡される書類に目を見張る。

「お前、これは、どういうことだ?!」

いつの書類だ?このミッションを今日中にクリアしろと?ふざけるな!

「指示書は早く出せと、あれほど言ってきかせてるのに、何故お前はそれができない?!ボスにどんな仕打ちをされても構わないんだな?」


「もういい。もうすぐボスのお帰りだ。そのへんに取っ散らかしたものを片付けな。」

それがギリギリ終わった時、ガチャリとドアが開く音がした。



「パパ、お帰り〜。」

二人の子どもたちは、パパを玄関までお迎えに走る。

「ただいま〜。玄関までいい匂いがしてたよ。お腹へった〜。」

「おかえりなさい。すぐご飯にするね。」

「お。今日はトンカツか〜。いいねえ。」

「トンカツ用の肉がさ、特売だったの。思わず隣町のスーパーまで行っちゃった。」

「えー、あの坂越えて?」

「買ってもらった電動自転車、すっごい助かる〜。坂道、楽勝だった。」

優しいパパは、子供のお迎えや買い物が大変だろうと、一番性能のいい電動自転車を買ってくれたのだ。


「トンカツ旨い。特売の肉なのに、凄く柔らかいね。」

「筋切りして、叩いてるからね。ちょっとした手間で、違ってくるのよ。」

「へえ〜。」

パパに褒められて、ちょっと嬉しくなる。


「ママがお菓子買ってくれなかったんだよ〜。」

子供たちが不満気にパパに報告する。

「ママは今日、いっぱい行かないと行けないところがあったから、急いでたんだよ、ね?」

「そうよ。何でどこのスーパーも火曜日に特売セールやるのかしら。ホントに。忙しいったら。トイレットペーパーは諦めたわ、さすがに子供乗せては、ねえ。」

「そんなに無理しなくても、一つのスーパーで済ませてもいいのに。」

「何に必要になるかわからないから、コツコツ貯めておかないと、って思ったらねぇ。」

そう、貯金はあるに越したことはない。


「あ、そうだ。パパ、チョコ買って、そのへんの棚の上とかに置いておいたでしょ?」

「あー、ごめん、隠すの忘れてた。」

「さっき、子どもたち見つけて取り合いしてたからさ、気をつけてね。」

「はい。今度から、ちゃんと隠します。」

パパは笑ってそう言った。


「パパ〜、参観日、来る?」

長男が尋ねる。

「来週、参観日があるのよ。あなた、行ける?」

「行ってもいいけど?」

「そのあと、PTA総会あるけど?」

「ごめん、パスします。」

二人して笑った。


「食べたら、すぐお風呂に入りなさい。ママ、まだお仕事残ってるからね、今日は一緒に入れないわ。」

「仕事?」

パパに聞かれて、長女が今ごろになって出してきたプリントを見せる。

「お道具入れのバッグを作らないといけないのか〜。大丈夫?」

「裁縫苦手だからなぁ…」

私はため息をつく。

「いいよ。俺が作っとく。子供たちと風呂入ってきなよ。」

「いいの?」

思いがけないパパの申し出に、思いっきり甘えた。


お風呂からあがると、お道具入れのバッグは、もう半分以上できていた。私が作るより遥かに綺麗に。

「子どもたち、寝かしつけてきなよ。俺、これ仕上げたら、風呂入るから。」

いつも、ホント、優しいなぁ。


子どもたちを何とか寝かしつけ、リビングに行くと、風呂上がりのパパ。

テーブルの上には、できあがった袋が置いてあった。

「すご〜い。ありがとう。ホントに助かった〜。」

ソファに座るパパに抱きつく。子供が寝たら、イチャイチャしたい。


「おいで。」

パパは、私の手を取って、寝室へと誘ってきた。


さ。


「ママ」は、そろそろ「ツマ」に変身します。

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ミッションクリア 緋雪 @hiyuki0714

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