二刀流ハンター・D

砂漠の使徒

ある日のD

 俺は巷で噂の二刀流ハンター・Dだ。

 理由は単純。

 この背中に背負っている二本の剣で戦うからだ。

 DはダブルのDだ。


「わー! かっこいいー!!」


 そんな声がかかるのは日常茶飯事だ。

 町の子供は俺のまねをして、両手に棒きれを持っている。

 だが、二刀流はそんなに簡単なものじゃない。

 剣に注ぐ力を誤れば、一刀にも満たない力しか発揮できない。

 そう、二刀流ができるのは俺みたいな熟練のハンターだけなのだ。


「今日はどんな依頼がある」


 日課のモンスター討伐に行くために、ギルドで依頼を確認する。

 俺にしかできないような、手強い依頼をいつも探している。


「あ、今日はDにふさわしい依頼が来てますよ!」


 俺にふさわしい……だと?


「ほら! 見てください!!」


 受付嬢が提示した紙には大きく「にとうりゅう」と書かれている。


「ふっ、二刀流か」


 まさに俺にふさわしい。


「なんでも、村の周辺に住み着いているドラゴンを討伐してほしいと」


 ずいぶん強いんだろうな、そのドラゴンは。

 なにせ二刀流の俺を求めるくらいだからな。


「報酬は、村の伝統料理らしいです!」


 食い物か……。

 面白い。

 強さだけを求める俺に金は要らない。

 むしろこういう依頼の方が、金の処分に困らなくて助かる。


「わかった、受けようじゃないか」


―――――――――


「……」


 洞窟に入って、しばらく。

 ドラゴン特有の体臭が漂ってきた。

 奥に進むほど強くなる。

 そろそろだな。


「ぎゃおーーーん!」


 静寂を破る咆哮。

 ターゲットのお出ましだ。

 漆黒の洞窟内に光が満ちる。

 奴の口から吐き出されるブレスだ。

 それを華麗に避け、俺は背後に回り込む。

 ドラゴンと言えど、弱点は同じ。

 体の中心にある心臓を貫けば絶命する。


「おわりだ」


 右手の剣を両翼の間に深々と突き刺す。

 硬い鱗に守られた皮膚からじわじわと血がにじみ出る。

 剣は的確に急所を貫いた。

 後はこいつを解体……と考えていた時だ。

 背後から迫る気配を感じ取った。

 急ぎ左の剣を背後に振る。


「グルルルル!」


 剣は刺さらず、弾かれた。

 しかし、攻撃はなんとか受け流す。

 それほどまでに硬い皮膚はやはり。

 

「二体目……だと?」


 そこに立っていたのは、さきほど殺したドラゴンと似ている。

 色だけが違う。

 まさか夫婦か、親子か。

 だが、俺にそんなことは関係ない。


「グオーーー!!」


 怒り狂っているドラゴンのブレスは、数倍にも強化されている。

 触れれば、一瞬で炭になる。

 だから、狭い洞窟内を走る。

 もちろん逃げているだけではない、ベストポジションを探しているのだ。


 俺は二刀流ハンター・D。

 唯一の武器である剣の強化は怠らない。

 惜しむらくは相棒の片割れがまだドラゴンの死体に刺さったままなこと。

 まあ、一本あれば十分だ。

 俺はそれをブレスでできた炎の壁の中に投げ入れる。

 一般人には戦闘を放棄したように見えるだろう。

 しかし、違う。

 俺の投げた剣は特別性だ。

 ドラゴンのブレスにも耐えうる。

 そして、その剣は炎壁の向こう、急所へ届く。


「ガ……!」


 短い断末魔。

 暗闇と静寂が戻る。

 これで依頼達成だ。


 俺は死体から二つの剣を抜き、ドラゴンの解体に取り掛かる。

 あらかた鱗をはぎ終わったときだ。


「素晴らしい!」


 拍手をしながら老人が現れた。


「誰ですか?」


「ワシは依頼をした村の村長じゃよ」


 なるほど。

 俺の仕事ぶりを見に来たってわけか。


「ここまででかいのは、ワシも初めて見たでな。ハンターに頼まざるを得なかったのじゃよ」


 そうだろうな。

 老人はおろか、並のハンターだって討伐は無理だ。


「二頭とも、急所を一突き。すばらしい手際だ」


 そうだろ?

 二刀流じゃなきゃ、できない所業だ。


 ……そういえば。


「ドラゴンが二頭いましたが、そういう情報は書いてもらわないと困りますよ」


 俺はいいんだが、他のハンターが命を落としたら気の毒だ。

 気遣いもできる男、それが二刀流ハンター・Dだ。


「はて、書いていましたがな? 見逃しましたでしょうか?」


 老人は首をかしげる。

 なにをとぼけているんだ?

 さては、ボケて……。


「最初に、にとうりゅうと」


「だから、それは俺のことだろ?」


「いえ、あなた様は『二刀流』です。ワシが言いたいのは、龍が二頭いるということですじゃ」


「……」


 二頭龍……か。

 どうやら俺の勘違いだったようだ。


「さあ、龍も討伐したことですし、村に来ませんか、ハンター殿。もう宴の準備もできています。後はドラゴンの頭だけです」


「ドラゴンの頭? なんに使うんだ?」


「鍋で煮て味付けする、我が村の伝統料理、『煮頭龍』です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

二刀流ハンター・D 砂漠の使徒 @461kuma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ