第5話
「”公務がまともに出来ない王子妃”と揶揄されているらしい」
「こればかりは仕方ありませんね。彼女自身の問題です。名誉挽回するにも、大変な努力が必要となるでしょう」
「最近では”不義から生まれた王子妃”、”血筋の劣る王子妃”、”略奪が得意な王子妃”と噂されている」
あらあらあら。
やっと、リリーが義妹ではなく異母妹である事が分かったのですね。皆さん鈍すぎます。
「ずいぶん遅かったですね」
「全くだ。王家と公爵家が隠蔽し続けていたのだろう。だがマリアンヌが帝国人になった事で真実が表にでて来てしまった。王家と公爵家は今では批判の的だ。”身分制度を理解できない私情を優先する愚かな王家”、”大国の皇女を妻に娶りながら裏切り続ける卑怯な公爵家”、と揶揄されている。国内だけでなく、国外でも批判され噂が流れている」
「事実しか噂になってませんね」
「これが外交方面にも響いているようだ。ノルデン王国の外交官も第一王子も苦労しているみたいだぞ。政略結婚を疎かにし相手の女性を裏切り蔑ろにする国の人間は容易に約束事を破るだろうから信用できない、と言われてな。」
お可哀そうなギルバート第一王子。
真実であるが故に否定することも出来ませんものね。
「外交の責めを負う形になるのですか?」
「そうなるだろうな。王家も公爵家も求心力を落としている。貴族も民衆も彼らを信じない。生贄が必要なのだろう」
「それでは
「高位貴族は、それは甘い処置だと考えているようだ」
甘い?
いずれは『病死』ですよ?
それ以上の処罰をお望みとは。
「では公爵家に行きますの?」
「いや、公爵家は伯爵位に降格された。跡取りも遠縁から養子を貰ったようだ」
あら?
何時の間に。
「それなら王妃様の実家ですか?」
「王妃とその一族は落第者を匿うほど優しくはない」
それもそうですね。
かの侯爵家は実力主義でもありますもの。
「では……」
「平民の身分に落とされるそうだ」
「それは…また」
随分思い切ったことをなさいます。
ギルバート第一王子もリリーも平民として暮らすなど無理もいいところ。一日とて、もたないでしょう。
「第一王子の頑張り次第でそれは無くなることもあるようだがな」
「外交で、ですか? なんとか出来ることなのですか?」
「無理だろうな。妻と離縁して、改めて高位貴族の令嬢を正妃に迎い入れれば、”なんとかなるかもしれない”、といったところだろうからな」
「それこそ無理な事ではありませんか。お二人は離縁できない夫婦なのですから」
「ははははははっ!!! 我が姪よりも遥かに劣る女を選んだのだ。しかも”真実の愛”などと宣ってな。あの国の輸出が規制対象になったのも、輸入品の値段が上がったのも、不利な取引をせねばならなくなったのも奴らの自業自得だ!」
伯父様は思った以上に我慢していたようです。
ノルデン王国にも、王家にも、公爵家にも。
戦争になれば間違いなく帝国が勝ちますが謂れなき誹謗中傷の浴びてしまう恐れもあります。三年前にそう言って伯父様たちを説得したのですが、いっそのこと戦争で何もかも奪われた方が彼らも王国も幸せだったのかもしれませんね。
物価も上がり続けていると聞きます。
そのうち、一切れのパンを巡って殺し合いが始まるかもしれない、という噂も耳に入ってきます。
まあ、噂は拡張して広まるのが常ですからね。
信憑性はありません。
どこまで本当なのか分かりませんが、諸外国から経済制裁を行われて通常に機能しているはずありません。噂も事実である可能性が高いでしょうね。
実際、そうなってしまっても帝国には関係ありませんから助けようがございません。
私が王太子妃にでもなっていれば話は別だったでしょうけれど、お気の毒に……。
恥ずべき行為を行ってきた自分達を恨んでください。
帝国の目を気にして経済制裁を自ら行った諸外国ですが、私たちはなにも言ってませんよ?
ただ、帝国の外交官の一人が「約束を常に反故にする国と仲が良い国の事も色々と思う事がある」と仰っただけですもの。
ね、
義妹に婚約者を取られてしまい、婚約を解消することに……傷心の私はお母様の国に亡命することに致します。二度と戻りませんので悪しからず。 つくも茄子 @yatuhasi2022
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