最終話【天狗騨記者の挑戦状返し(最も手強い敵は無能な味方である)】
「改憲派の皆さんじゃないですね。味方が一番の敵です」天狗騨記者は答えた。
「味方が敵って、もう味方じゃないじゃない」呆れたような顔で田原総一朗が言った。
「実は憲法9条が改正されてしまう危険性がひとつだけあるんです。このままだとその問題を生むのが護憲派の皆さんというオチになりかねない」
当然の如く護憲側の席からは罵声が飛ぶ。しかしその仲間割れを目の当たりにしても今は改憲側の顔に笑みはまるで無い。そんな中、田原総一朗がらしからぬ事を口にした。
「ちょっと話し聞きましょうよ」
司会が珍しく司会らしい仕事をし、天狗騨に発言が促された。
「『専守防衛』という四文字熟語があります。憲法9条が元となって生まれた四文字熟語です。自衛隊を象徴する四文字熟語であり、自衛隊を縛る四文字熟語でもありますが問題はその縛り方です」
ここで天狗騨は田原総一朗ばりに手を振ると、
「憲法9条が自衛隊の行動に縛りをかけるのはいいんです。しかし憲法9条が自衛隊の装備に縛りをかけられるとなると問題が出てくる!」と言い切った。
「どういう事?」
「『航続距離の短い戦闘機』に、『射程の短いミサイル』と言った方が解りやすいですか。日本は不可思議な事に自らの兵器を故意に劣化させてきた。これの根拠が憲法9条という事になったら『この憲法は中国の軍事的脅威が日々増していくこの時代にそぐわない』、という事になり数年のうちに改正されるのは確実ですよ!」
ここで天狗騨はジロリと護憲側を見廻した。
「『敵基地攻撃能力』でも『反撃能力』でも皆さんが反対するのは自由ですが、くれぐれも憲法9条を根拠にしないようにして頂きたい!」
天狗騨は改憲側も護憲側も見境無く蹴散らす程度では留まらず、最後の最後で討って出ていた。言われた側はお通夜のようになったまま。——なのだが、天狗騨はどうもスッキリしない。
肝心の(?)田原総一朗は、というと、(向こうが掘っているだけで論戦にならない)、(上手いことかわされたまま)と、そうした思いしか天狗騨にはない。こうしたものがこの気分の原因であるとしか思えなかった。
いつの間にか番組は締めに近くなっている。同伴者であり天狗騨のお目付役でもあった左沢政治部長はというと途中少々居眠りし、発言の機会も僅かしかなく、中盤以降はもう空気のようになっているだけだった。
「僕はね、あなたの意見に全て賛成じゃないけど、率直に言ってなんか凄くやりにくい」田原総一朗は言った。
「それはこっちも同じです」と天狗騨が応じた。
「あなた嫌われてるでしょ?」
「それもお互い様かと思いますね」天狗騨記者がニカッと髭もじゃの口を開いて笑った。この笑いには苦い笑いも半分ほど混じっている。ただ今午前四時過ぎ、天狗騨は番組終了まで遂に居眠りせずに過ごせたのだった。
(了)
憲法9条 田原総一朗 VS 天狗騨記者 齋藤 龍彦 @TTT-SSS
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