第六話【田原総一朗の挑戦状】
「『非武装中立』ですか。ありますね。〝昔々に通用した9条的価値観〟ですね」天狗騨が答えた。
「どう思う?」
「無理でしょう」
「どっちが?」
(どっち?)天狗騨は答えにたどり着くのに僅かに手間取った。
「『非武装』と『中立』は相対する価値観で両立しません。中立国と言えば永世中立国のスイスですがこの国は国民皆兵の武装中立です。仮に非武装の国があったのならその国は中立する事はできません。どこか、外国に占領される事になるでしょう」
「正にそこなの。実はあなたの言った事は史実でアメリカが日本を占領した時にできたのが憲法9条だから。日本が占領されてもそういうされ方なら憲法9条は消滅しないじゃない?」
(正気か、この人は?)と天狗騨は思うほかない。(人に面白い事を言わせるために故意に煽っているとしか言い様がない)とも。
(どう答えたらいい?)と考えるほかない。
(ありきたりな答え方ならこうだろう。『それはアメリカ合衆国の場合に過ぎず中華人民共和国が占領した場合はそうはならないだろう』と。つまり日本国は『日本省』となり、国家としての日本が無くなるのだから日本国憲法9条も当然無くなる)
(しかしこれをテレビの電波に乗せて語って良いのか?)
SNSは荒れ、嵐の如き抗議が山のように来るのが容易に想像できた。社の上層部からは左遷の口実にされるだけだろうと。だからやり方を変えた。
「第三者の外国人から羨ましがられなければ憲法9条に価値はありません。外国に占領されて『憲法9条を守っています!』じゃ誰も真似しようとしませんよ」そう天狗騨は切り返した。
「そう言えば憲法9条、真似しようっていう国はないな。あなた面白い事を言うね」
「私に言わせれば『護憲派』の行動がおかしいんです。『日本に改憲の動きがある。これに圧力をかけて阻止してくれ』と外国にご注進に行っている。その外国は憲法9条を持っていないのにです」
「どうなの? その辺は?」田原総一朗はおもむろに護憲派に振った。しかし誰一人答えられない。「やはりあなたしかいないか」と言って今度は天狗騨に振る。
指名を受けた天狗騨は語り出す。
「私は、アメリカ合衆国、中華人民共和国、ロシア連邦が現行の日本国憲法第9条を採用したなら世界は平和になると考えていますよ。軍事力で他を圧倒する国こそ憲法9条で軍事力の自制を意識させるんです」
「そんな事できると思う?」
(また来たか)
「少なくとも日本に『憲法9条を変えるな!』と言っていたアメリカ人・中国人連中はいますから、まずはそこを攻めるか攻めないかですよ。日本人相手だけに『憲法9条を変えるな!』を言っているだけじゃこの時代説得力無しです」
「じゃああなたはやるの?」と田原総一朗は突っ込んできた。
「やりましょうか。きっと人間の化けの皮を剥がせると思いますよ」そう言って天狗騨はニカッと笑った。
「あなたなら外国人にも遠慮無さそうだしやりかねないね。じゃあ他の護憲派の皆さんにも9条の海外布教活動をやってもらいますか」田原総一朗は言った。護憲派な面々は苦虫をかみつぶしたような顔をして黙りこくったままでいた。
こうして天狗騨記者は改憲側に続き護憲側をもやっつけてしまった。しかし田原総一朗だけは例外で一筋縄ではいかなかった。
「天狗騨さん、護憲するに当たり最も手強い敵って誰?」そんな事を訊いてきた。
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