その5
本編攻略開始2週間後―
「星奈、今日はソウルダークしないの?」
「あー…… なんか、疲れちゃったし、今日はいいかなぁ…… っていうか暫くいいかなぁ…」
星奈は僕のベッドに寝転び携帯をいじりながらやる気なさげに答える。
あれからというもの、彼女は僕と一緒に毎日ソウルダーク3をプレイしていたのだが、ある日を境にプレイする気力が無くなったのか、最近はずっとこの調子だった。
僕はその理由を知っている。それは3日前のことだ。
『うぎゃああああああ!! なんでコイツこんなに強いのよぉおお!!』
「ちょ!? 星奈、女の子の悲鳴が<うぎゃああああああ!!>は、如何なものかと思うよ?」
ヘッドセット越しに聞こえてきた星奈の悲鳴に、僕は思わず突っ込んでしまう。
『うるさい! こっちは必死なんだから黙ってて!』
ボスに翻弄され蹂躙され続ける星奈の声を聞きながら僕は思う。
(確かに苦戦するけど、ここまで来たプレイスキルがあれば、そこまで強くないんだけどなぁ……? あっ!? そうか…… 僕が介護プレイして来たから、星奈のプレイスキルが育っていないんだ……)
きっとそうだ。今度からは、星奈のスキルが上がるような手助けの仕方をしないと…
そんなことを考えていると、「いやあぁぁぁぁぁ!!!」今度は女の子らしい悲鳴が響いた。
『うわぁあああん! もういやぁ~!! こんなクソゲーもうやめてやる~!!』
「えっ!? ちょっと、星奈!?もう少し頑張ろうよ」
『うるさいわね!! 私はアンタと違って、ドMじゃないのよ!! 数十回死んだ後も「次も頑張るぞ」って、ならないのよ! ボスの猛攻撃を受けて死んだ感想が「今の攻撃しゅごい(うっとり)」とかにならないのよ!』
「いや、最後の「今の攻撃しゅごい(うっとり)」は、僕もならないぞ!? あとドMじゃないから!!」
僕は思わず突っ込みを入れる。
『もう嫌よ…… これ以上やったら発狂して死んじゃうわよ……』
今日だけで、道中の雑魚に死角から襲われ、ボスに蹂躙されゲームオーバーになる事、20回以上… とうとう星奈の心は折れてしまったようだ。
「……分かったよ。じゃあ、今日は止めようか」
『ごめんなさい…… 今日はありがと……』
こうして、僕は星奈とソウルダーク3を止めることにした。
そして、あの日以来すっかりやる気を無くした彼女は、僕の部屋に来てはゴロゴロするようになった。
僕の部屋に来ている理由は―― 唯一の友達の大川と都合があわずに暇なのだろう。
でも、中学に入ってからはソウルダークを一緒にプレイするまでは、あまり僕の部屋には遊びに来なかった。それが突然、毎日来るようになったのは何故だろうか?
「ねぇ、星奈。最近、よく僕の部屋に遊びに来るようになったよね」
「あー…… まあ、そうかもねー……」
「何か理由でもあるの?」
「べ、別に深い意味はないわよ。……迷惑だった? だったら、今後は控えるけど……」
星奈の表情が曇る。
「あ、そういう訳じゃなくてさ! ただ、急に頻繁に来るようになったから、ちょっと不思議だっただけだよ!」
「そっかぁ……。じゃあさ、ちょっと聞きたいんだけど、明人って好きな子とかいたりする?」
「へぇっ!? な、なななっ 何言ってんだよ!! いないし!」
急な質問に驚きながらも否定する。
「ふぅん…… そうなんだぁ~」
星奈が悪戯っぽい笑みを浮かべて、僕を見つめてくる。
「どうして、そんなこと聞くの?」
(もしかして…… 星奈が僕のことを好きとか?……いやいや、それは無いか)
僕は一瞬浮かんだ妄想を打ち消す。
彼女はコミュ障だけど美少女だ、ゲームオタクの僕とは釣り合わない……
そもそも、星奈は僕を恋愛対象として見ていないはずだ……
「だって、明人に好きな子がいたら、幼馴染とはいえあまり側にいるとその子が誤解するでしょう? だから、確認しとこうと思って… 」
「ああ、そういうことだったのか」
(なんだ、そういう話だったのか。そりゃそうだよな。星奈が僕みたいな冴えない男を好きになるとかありえないよな。うん)
僕は内心ホッとすると同時に、少し残念に思った。
「星奈こそ、好きな人とかはいないの?」
お返しとばかりに、僕は星奈に尋ねる。
「うぇ!? わっ 私!?」
星奈は動揺し始める。どうやら、この質問が自分に帰ってくるとはこの質問が自分に帰ってくるとは思っていなかったらしい。
彼女は驚いて起き上がると頬を赤らめながら、肩に掛かる長い髪を指でくるくるし始め、チラリと僕を見て少し間を開けてから答えた。
「私も…… 今は居ないかな…… 」
そう言うと、彼女は再びベッドに寝転ぶ。
そして、僕の方を向くと笑顔ではあるが声は照れ隠しなのか、少し怒ったような口調で話し始める。
「そもそも私の場合好きな人の前に、まずはこのコミュ障を直さないと無理だし、そのためにオンラインゲームでコミュニケーションスキルを上げようと思っていたのに、誰かさんが<クソ高難易度>を勧めてくれたおかげで、クリアするまでそれもお預け状態になっているのよね」
照れ隠しではなく、本当に軽くお怒りになっているようである。
「それに関しては、わたくし本当に申し訳なく思っております」
僕は素直に頭を下げるが、彼女は更に続ける。
「いや~、ホント、明人が好きな子がいなくてよかったわ。あんまりにも難しいせいで、いつクリアできるか解らず、その分私のコミュ障改善が遠くなっているのに、これでアンタだけその好きな子と上手くいったなんてなったら、ぶっ飛ばしてやるところよ☆」
星奈は僕への抗議を最後に笑顔で締め括る。
「だから、ソウルダーク3をクリアするまでは、攻略にずっと付き合ってもらうつもりだから、好きな人なんて作っている暇なんて無いんだからね…… 覚悟しておきなさいよね……」
星奈は顔を真っ赤にしながら呟くと、僕に背を向けてしまう。
「うん、わかったよ。じゃあ、星奈のコミュ障克服のために一緒に頑張るよ」
僕は背中を向けた星奈にそう答える。すると、彼女は嬉しそうな顔でこちらに振り向くが、すぐにまた背中を向けてしまうが
「ありがと……」
星奈は小さな声で感謝の言葉を口にした。
僕からは見えなかったが、星奈は僕にばれないように、嬉しくてニヤける口元を押さえていた。
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