その4





 次の日―


 学校から帰ってきた僕は、星奈のパソコンの前に座り起動すると、いつものようにゲームを立ち上げる。


 画面には壮大で重厚な曲と賛美歌のような歌声と共に、真っ黒の画面に<ソウルダーク3>の文字。


 タイトルからもこのゲームが良作若しくは神ゲーであると思わせ、自然と期待とワクワク感が溢れてくる。


 そして、プレイして気付くその高難易度のゲーム設定と理不尽とも思えるボスの強さ。何度挑戦しても勝てない敵。


 だがしかし、諦めずに何度も挑む内に少しずつクリアへと近づいていく達成感。

 そのため「こんなクソゲーやってられるか!!」とコントローラーを放り投げては、自然とまたコントローラーを握ってプレイしてしまう。


 そして、苦労の末についにボスを倒した時に感じる強力な達成感は、思わずガッツポーズしてしまうほどだ。


 その達成感とボスを倒した自信により、プレイを続けるがこの<死にゲー>の洗礼を受けては、コントローラーを投げ捨てまた握る、を繰り返すゲームである。


「それって、つまりこのゲームが好きな人って、M(マゾ)ってことよね?」


 背後から声をかけられ振り向くとそこには星奈の姿があり、彼女は呆れた様子でお腹の前で腕を組みながら立っている。


 しかも、昨日とは違うミニスカートを履いており、少しだけ太腿が見えていた。

 そんな彼女の格好を見て一瞬どきっとしたが、すぐに視線を画面に戻す。

 何故なら、思春期高校生でオタクの僕にとっては、刺激が強すぎるからである。


「星奈君…。僕のこのゲームに対する熱い説明を聞いて出てきた感想が、<プレイヤーがM>って……君はもう少しオブラートに包んで言えないのか? まぁ確かに否定はできないんだけどさ……」


 僕はため息混じりに答えた。

 <※ここまでは、あくまで二人の意見です。そして、ここからも二人の意見です。>


「だって事実じゃない? このゲームって死ぬのを前提でプレイするんでしょう? それを好きでやっているんだから<M>いえ<ドM>以外の何者でもないわ」


「……ぐっ!」


 全く持って言い返せない。

 だが、ここでなんとか言い返さなければ、ソウルダーク3ファンの名誉が傷つく。


「<ドM>って、星奈! 君はたった今、全国― いや世界にいるソウルダークファンを敵に回したぞ!? 謝れ! 世界中にいる1000万のファンに謝れ!」


 僕は星奈に向かって指を突き立てながらまくし立てた。


「えぇ~! 別に良いじゃない。どうせアンタしか聞いていないんだから。それに私はただ思った事を言っただけだし… 」


「そういう問題じゃないんだよ! いいから世界中のファンに謝れ!!」


 僕は思わず立ち上がって熱弁する。


「うーん……。じゃあ、全世界の皆様ごめんなさい」


 星奈はイマイチ納得していないようだが、一応謝罪の言葉を口にする。


「まったく、今度からは言葉には注意するだぞ? ちょっとミニスカから、見える太腿がエロイからって調子に乗るなよ!」


 しまった! つい興奮しすぎて本音が出てしまった。


「……え? あっ、ちょっ、今のなし!! 聞かなかった事にして!!!」


 慌てて口を塞いだものの時すでに遅し。

 星奈の顔はみるみると赤く染まり、僕に向かって何か言おうと口を開く。しかし、結局何も言わず俯いてしまう。


 それから数秒ほど沈黙が続いた後、彼女はおもむろに語り出した。


「まあ…… 別に… 見られても減るものじゃないし……」

「へ?」


「だから! 見たければ見ればいいじゃないってことよ…」

 消え入りそうな声でぼそっと呟いた。


「……」


 正直、何を言っているのか理解できなかった。


「ああ、もう! なんでもないから気にしないで。それよりボイスチャットの設定は出来たの?!」


「お、おう」


 僕は戸惑いながらも椅子から立ち上がり、ヘッドセットを手に取ると星奈に手渡す。


「ありがとう」


 星奈は短く礼を言うと再びパソコンの前に座り、マイクを自分の口元に当てる。


「これで設定完了だから、僕は自分の家に戻ったら携帯で知らせるから、そうしたらこのフレンドリストから僕を招待して」


「わかったわ。わざわざ設定しに来てくれてありがとうね」

「別にお礼なんていいよ。正直僕は嬉しんだ。大好きなゲームを星奈と協力プレイできるんだから」


 僕は素直に感謝の気持ちを伝える。でも、この言い方は少し語弊があった。


 正確には”大好きなゲームを気の合う知り合いと、ワイワイ話し合いながら協力プレイできる”である。


 僕のゲーム友達には、この<ドMゲーム― もとい高難易度ゲーム>は、不評で誰一人付き合ってくれなかった。


 そのため一人でプレイすることが多く、寂しい思いをしていたのだ。

 だが、今は違う。

 こうして一緒にゲームをしてくれる人がいるのだ、これほど嬉しいことはない。


「ふぅん……。明人は私とゲームするのが嬉しいんだ… へぇ~そうなんだぁ……ふふっ♪」


 星奈は綺麗な長い黒髪を指先でくるくる巻き上げながら、上機嫌そうに笑みを浮かべた。

 どうやら、星奈も僕との協力プレイが楽しみなようで安心した。


 僕は早速自室に戻るとPCデスクの前に座る。モニターにはフレンド登録するために、事前に起動させておいたソウルダーク3の映像が映しだされている。


 星奈からのフレンド申請を受理すると、彼女に携帯で連絡して彼女がホストの世界に招待して貰うとヘッドセットを装着して会話を始める。


「よし、準備できたよ」

『おっけー。じゃあ、始めるわよ?』

「うん!」


 こうして、僕達のソウルダーク3の冒険が始まるのであった。


 5分後―


「ちょっと、明人! 早く助けなさいよ!」


 星奈が悲痛な叫びを上げる。その声は明らかに焦っていた。


 それも無理はない。彼女のキャラは複数の骸骨から攻撃されており、それを頑張って盾で防いでいるがその度にスタミナは削られており、ダメージを受けて死ぬのも時間の問題だからである。


 僕はそんな彼女を見てため息をつく。


「だから、慎重に攻撃をしろって言ったじゃないか!」


 このゲームでは、雑魚でも強いため基本一対一を心掛けないといけない。だが、複数配置されていることが多いため、上手く攻撃をしないとあのように複数相手にすることになる。


 ちなみに僕は、敵の配置と攻撃パターンをだいたい把握しているので、どんな敵であろうと余裕をもって戦うことができる。


『だって、こんなことになるなんて思わなかったんだもん……』


(これは暫く介護プレイ確定だな…… )


 僕はその後、暫く介護プレイを続けて星奈のプレイを手助けすることになる。

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