コミュ障の幼馴染(♀)に<死にゲー>を勧めてみた

土岡太郎

その1





「明人。私に何かいい感じのオンラインゲームを教えてよ」


 幼馴染の<佐川星奈さがわせいな>は、突然そのようなお願いをこの僕<羽山明人はやまあきと>にしてきた。


 幼馴染の佐川星奈は、突然そのようなお願いをこの僕羽山明人にしてきた。いつものように彼女は、僕の部屋に勝手に上がり込み、ベッドの上に寝転がりながらそう言ってきたのだ。


 僕は(それぐらいググれ!)と言いたい気持ちを抑えて、彼女に理由を尋ねてみる。


「それはまた何故?」


 すると、星奈は起き上がる肩のあたり長い黒髪を弄りながら、少し言いにくそうに理由を話し始める。


「ほら… 私って人と話すのがあまり好きじゃない… ”孤高の人間”じゃない…?」


「何が”孤高の人間”だよ。人と話すのが苦手なただの― いや、重度のコミュ障じゃないか」


 彼女の言葉を聞いて僕はつい突っ込んでしまう。


「うるさいわね!」


 すると、彼女は顔を真っ赤にして、枕を投げつけてくるが僕は慣れたものでそれをひょいと避ける。


 星奈は腰の近くまである長い綺麗な黒髪、整った顔立ちにツリ目が印象的な美少女で、成績も学年で常に上位でスポーツも卒なくこなすが、教室では一人でいることが多いためクールな印象を持たれていた。


 ――が、実際はコミュ障であるため人付き合いが苦手なだけである。


 そんな彼女とは家が近くで幼い頃から一緒なため、彼女は僕とだけは普通に喋れるようで、こうやってたまに僕を頼ってくることがある。


“天は二物を与えず”というが、これでコミュ力まで備わっていれば、きっとスクールカースト上位に君臨して、充実した学園生活を送っていたであろう。


(いや、コミュ力が無いだけで、いくつも”物”を与えられているな… )


 世の中の不公平を心の中で嘆いていると、星奈はそんな僕をツリ目で睨みながら、上の空の幼馴染に自分の話を聞いているのか問いかけてきた。


「ちょっと、人の話を聞いているの!?」

「世の中の不平等について考えていた」


「はぁ? 何を言っているのよ?」


 僕の答えを聞いた彼女は、意味がわからないといった表情を浮かべると気を取り直して説明を続ける。


「まあ、明人の言う通り私はコミュ障で、友達も少ないわ」

「少ないって、いないだろう?」


 僕は思わずツッコミを入れてしまう。

 星奈はこちらをギロリと睨むと、そのまま捲し立ててくる。


「しっ 失礼ね! とっ 友達くらいいるわよ…… 1人は1年の時に友達になった雪穂で… 」

 指折り数えていく彼女だが、指は1本折れた後に辛うじて2本目が折れるが、そこから先は折れず、そんな幼馴染を見た僕は思わず心の中で泣きそうになってしまう。


 <大川雪穂大川ゆきほ>は、星奈と同じクラスで大人しい子である。


 そのため、体育の授業のペアを決める時に二人してあぶれ、必然的にペアとなる事が多かったので次第に仲良くなり友達となった。


「2人目は……」

「因みに妹は友達に入らないぞ」

「なっ!?」


 図星だったようだ。

 妹の美月は2歳年下の中学生3年生で、よく一緒に買物に行くほど姉妹仲はとても良い。


 僕の指摘を受けた星奈は絶句して、しばらく無言のまま俯いていたが、やがてゆっくりと顔を上げると脱線していた話を元に戻して、ゲームを紹介して欲しい理由を話し始める。


 僕は内心(立ち直るの早いな……)と思いつつ、その話の続きを聞くことにした。


「まっ まあ、兎も角、私はこのコミュ障を克服したいの! でも、いきなり人と面と向かって、会話するなんて無理なのは自分でもわかっているわ。そこで、まずはオンラインゲームのチャットから始めようと思うの」


「なるほど、そういう事か」


 彼女の言葉を聞いて僕は納得した。確かにコミュ障にとって、人前で話すよりオンライン上で話す方がハードルは低いかもしれない。


「そこで、ほらアンタってゲームに詳しいじゃない? いい感じのゲームを教えてよ」


 彼女はそう言って期待するような眼差しを向けてきた。


(うーん、どうしたものかな?)


 僕は腕を組んで考える。オンラインゲームには色々なジャンルがある。対戦ものや協力もの、MMORPGなどだ。


「それで、どんなゲームがいいんだ?」


 僕がそう尋ねると彼女は少し考えて答える。


「そうね… ジャンルはRPGにしようかな。あとチャットとはいえ、一杯話し掛けられても困るから、プレイしている人が少なくて、モチベが続くように面白いのがいいわ」


「RPGで… プレイ人口が少なくて、面白いゲームか… なかなか難しい条件だな… 」


 星奈の言葉を聞いて僕は再び考え込む。そして、ある一つのゲームが思い浮かぶ。


(あれなら、星奈にも楽しめるんじゃないか?)


 僕は早速、彼女に先程思いついたゲームのタイトルを告げた。


「いいのがあった!」

「本当!?」


 僕の言葉に星奈は目を輝かせながら食いついてくる。


「僕が勧めるゲームは、<ソウルダーク3>だ!」

「<ソウルダーク3>? どこかで、聞いたことがあるような… 」


 彼女は少し首を傾げるが、思い出せないようだ。僕はそれを見て説明する。


 <ソウルダーク3>とは、このゲームを作った会社が出している人気シリーズのタイトルの一つである。


 プレイヤーは暗黒騎士となって、仲間と共に様々なクエストをこなしていくというものだ。


 ストーリーとしては、主人公の冒険者パーティーがとある王国へ赴き、魔王の復活を阻止するという王道な展開である。


 しかし、ただの冒険ファンタジーではなく、敵として出てくるモンスターはどれも中々の強さを誇り、倒していく度にプレイヤースキルが上がり自分が強くなっていく爽快感が味わえる。


 また、プレイヤー同士の対人戦もできるので、やり込み要素も多く、僕も好きな作品の一つだった。


「どうして、そんな人気ゲームのプレイ人口が少ないの?」


 星奈は不思議そうな顔で尋ねてくる。


 その理由は二つあった。一つは、人気作ではあるが発売から既に6年経っており、更に新作が発売されたこと。もう一つは、前述した難易度の高さである。


 ソウルダークシリーズは、難易度が非常に高いことで有名であり、特に高難度モードでは初心者がクリアできないどころか、上級者が挑戦しても死亡する可能性が高い所謂<死にゲー>であるため新規プレイヤーが入りづらいのである。


 僕の説明を聞いた星奈は呆れた様子で言う。


「そんな難しいゲームを紹介しないでよ。チャットどころじゃ無くなるじゃない」


 つまり、死なないゲームを紹介しろとのことらしい。

 僕は思わず苦笑いを浮かべてしまう。


 星奈の言うことも一理あるのだが、僕的にはこのゲームはオススメなのだ。


 確かにこのゲームは人によっては、<死にゲー>と<クソゲー>の真逆の評価を受ける高難易度ゲームである。だが、それ故にボスを倒した時の達成感は他のゲームでは中々味わえない。


 僕はその達成感を星奈にも味わってほしいのだ。

 そこで僕は星奈を説得することにした。


 ※明人は星奈の目的が、コミュ障改善であることをすっかり忘れています。


 僕は長い付き合いから、星奈をその気にさせるのは心得ている。

 僕は彼女に笑顔を向けると、こう切り出した。


 ─それはまるで、悪魔の囁きのように…… 僕は星奈に笑顔を向けた。

 それはまるで、悪魔のような笑みで……。


「いや~ やっぱり、<星奈さん>には難しいよね、このゲーム。ゲーマーの僕でもクリアに半年以上掛かったからね~。よし、<星奈ちゃん>には、<小学生>でも<簡単にプレイ>できるRPGを探すとするよ」


 僕の言葉を聞いた星奈は、こちらを見つめると怒りでプルプルと震え出す。


(おっ これは効いたな)


 僕は内心ほくそ笑む。


 星奈はコミュ障ではあるが負けず嫌いであり、彼女が文武両道なのもボッチで問題無く過ごすためでもあるが、負けず嫌いからでもある。


 そのため難しくてクリアできないから、小学生でもクリアできる別のゲームを紹介すると言われれば、彼女の性格上乗ってくる事は予想出来ていた。


 そして、案の定、彼女はムキになって反論してくる。


「ばっ 馬鹿にしないで! 私にだってクリアできるわよ! そうね… アンタが半年かかったなら、私なら5ヶ月あれば余裕でクリアしてみせるわ!」


(たった一ヶ月短縮かい!)


 僕は心の中で、思わず突っ込んでしまう。

 しかし、その発言が僕の思惑通りであることに彼女は気づいてないようだった。


「ふーん、そうか。なら、このソウルダーク3をクリアしてみせてくれよ。もし、この僕を驚かせることが出来たら、なんでも言うことを聞こうじゃないか」


 僕はそう言って不敵に笑う。この台詞を言った瞬間、僕はいつも後悔する事になるのだが、この時の僕はまだ知らない。


「……わかったわよ」


 彼女はそう言って立ち上がる。


「どこに行くんだ?」


 僕は疑問に思って尋ねる。すると、彼女は当然の如く答えた。


「決まっているじゃない。さっき言っていたゲームを買いに行ってくるのよ!」

「え? 今から?」


「当たり前でしょう? 善は急げって言うじゃない! 当然、明人も付いてきてよね!」


「それなら、ダウンロード版があるからそれを購入すればいい。これから星奈の部屋に行って、プレイできるように設定を手伝うよ」


 こうして、コミュ障改善という本来の目的を忘れ星奈の<死にゲー>プレイ生活が始まる。


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