その6 

 その6 




 本編攻略を開始して、5ヶ月―


 星奈はクリアしては、心が折れて僕の部屋で愚痴と管を巻くというソウルダーク3攻略生活を送っていた。


 攻略当初は雑魚の通常攻撃にも翻弄され、叫び声を上げていた彼女であったが、流石はコミュ力以外は高スペックの優等生少女である。


 現在は操作に慣れ、的確なローリング回避からのバックスタブ、完璧なタイミングのパリィからの致命的一撃をマスターしており、その腕前は認めたくはないが僕より上かもしれない。


 だが、それでも油断をすれば、クリアできないのがソウルダーク3である。


 星奈は何度もボスの兄弟王子をあと一歩まで追い込むのだが、倒しきれずにゲームオーバーを繰り返していた。


『あー! もう無理! 絶対無理!』


 いつものように、彼女がヘッドホンから大声で叫ぶ声が聞こえてくる。


『何回やっても勝てる気がしないんだけど…… ねぇ、今から明人の部屋に行っていい? このストレス発散したいから』


「僕や物に当たらなければ…… 」

『そんなこと絶対にしないわよ。今までだってしたことないでしょう?』


「じゃあ、いいよ」

『え? 行ってもいいの? 本当に? やった! じゃあ、すぐ行くね!』


 星奈の声が急に明るくなる。


(丁度いい… 僕も星奈に直接会って聞きたいことがあったんだ)


 数分後―


 僕の部屋に来た星奈は、ベッドの上で兄弟王子とソウルダークの文句を言った後に、横になってスマホをいじっていた。


 僕はPCの椅子に座って、彼女の方を向き例のことを尋ねようか悩みながら、彼女の様子を窺っているとどうやらその視線に気づいたらしく、こちらを見た彼女は怪訝な表情を浮かべる。


「さっきからこっち見てどうかしたの? 私の顔に何かついてる?」

「いや、そういうわけじゃないけど……」


(やっぱり本人を前にすると中々言いづらいな……)


 僕は口籠りながら言葉を濁す。


「じゃあ、なんでずっとこっち見てたの?」

「それは……」


 僕は、彼女に本当のことを聞こうか一瞬悩んだ。

 もし聞いて違えば、星奈に嫌われてしまうかもしれない……


 でも、僕もこのままではモヤモヤして、星奈との協力プレイを心から楽しめない…

 僕は覚悟を決めることにした。


「星奈… 最近ソウルダークを僕に気を使って嫌々プレイしてる?」

「!?……」


 僕の言葉を聞いた星奈は目を見開き驚いた顔をする。

 そして、黙ったまましばらく俯いた後、顔を上げ僕を見る。


「ど……どうしてそう思うの? そんな事ないわよ?」


 星奈は慌てて笑顔を作りながら答える。

 しかし、言葉とは裏腹にその瞳は動揺の色に染まっており、明らかに嘘だとわかる。


 僕は思い切って核心を突くことにする。


「いや、だって最近の星奈のプレイは、明らかに変だから…… 」


 僕は星奈の目を見ながら続ける。


「まず、ボスの兄弟王子をあと一歩まで追い詰めても、最後動きが急に悪くなって倒せてないよね。最初はボスの動きに翻弄されて対応できていないだけだと思っていたけど……」


「……」


 彼女は何も言わずに僕の話を聞いている。


「星奈の実力なら、とっくに敵の動きのパターンは覚えているはずだし、慣れても来ているはずだから、今の君が何十回と倒せず苦戦する理由が分からないんだよ。だから、理由があるとすれば、嫌々やっているから集中力が持たずに負けてるのかなと思って……」


「……」


 星奈は目を逸らしながら沈黙する。


(やはり図星だったのか?)


 僕は不安になりながら彼女の返答を待つと、星奈は小さな声で呟くように答える。


「違う…… 私はソウルダークが嫌いになったんじゃなくて…… 」


 星奈は一度言葉を止めると、意を決したような表情で僕の方を向いて話し始めた。


「今のボスを倒したくないの……」

「え? どういうこと?」


 予想外の答えに僕は驚く。


「だって、今のボスを倒したら、次はラスボスでしょう? それを倒してしまったら、このゲームが終わってしまう…… そうなると、明人とこうして一緒にゲームをすることもなくなるかもし、部屋に来る理由もなくなっちゃう…… 」


 星奈はそう言うと、また下を向く。


(そうか…… 星奈は僕との繋がりが切れてしまうことを恐れていたのか……。しかし、まさかそんな理由でボスを倒さないようにしていたなんて…… )


 僕は少し呆れながらも、星奈が僕との関係を大切に思ってくれていることが嬉しかった。


「なんだ、そんなことか…… 」

「え? そんなことって…… 私にとっては重要なのよ!」


 まあ、コミュ障で友達が2人(そのうち1人は妹)の星奈の場合、その2人と遊べないと僕しか遊ぶ相手がいないんもんな。なら、そう考えてもしかたがない。


「大丈夫だよ! 僕はソウルダーク3をクリアしても、星奈との関係は終わらせたりしないし、部屋にも遊びに来てもいいから。だって、星奈は僕の大事な幼馴染だろう?」


 僕は笑顔を浮かべ、星奈に話しかける。


「うん! そうだよね!」


 星奈は僕の言葉を聞くと、満面の笑みを見せた。


「それに心配しなくても、ラスボスを倒してもソウルダーク3には、DLCで追加されたクソ強い修道女さんやこれまたクソ強い奴隷の騎士さんもいるから、むしろ本当の地獄はここからだぞ?」


「え? そうなの?」

「ああ。だから安心してくれ」

「そっか…… よかった……」


 星奈は安堵した表情を見せる。―が、すぐに眉間にシワを寄せた。


「って、それじゃあ、クリアするのが凄く伸びるじゃない! 私のコミュ障改善が伸びるじゃないの!? それは、それで困るのよ!」


 そのクリアを先延ばししていた事を棚に上げて、星奈は焦りながら僕に抗議するので、僕はその事を突っ込む。


「でも、星奈もクリアを先延ばしに― 」


 だが、星奈は僕のツッコミを遮ると、反論を捲し立ててくる


「うるさいわね! ソウルダークじゃなくても明人と一緒に― ゲームを一緒にできるんだから、さっきまでとは状況は変わったのよ! もう今の私には、あんなドMゲーいつまでもやる理由はないのよ! なんなら、もう本編エンドだけでいいのよ! もっと、いうなら、明人と『あつまれ、アニマルフォレスト』をまったりのんびりほっこりやりたいのよ!!」


「また、真逆のゲームを出してきたね」


 僕は苦笑いしながら答える。


「とにかく、そういう事なの! もう、クリアとかどうでもいいの! ただ明人と一緒に―  ゲームをしたいの! とはいえ、乗りかかった舟だから、本編のラスボスは倒すわ。その後は、ほのぼの系ゲームをするから! もう骨やおっかない騎士は懲り懲りなのよ……」


「わかったよ。なら、さっさとラスボスを倒して、一緒に『ほのぼのゲーム』をしよう」

「約束よ!」

「うん」


 僕は微笑んで返事をした。


「よし、そうと決まれば早速攻略再開しよう!」


 僕は気持ちも新たに再びコントローラーを握る。


「もう今日はいいわ」

「ええ……」


 僕は予想外の答えに困惑する。ここは完全にゲームを再開する流れだよね?!

 すると、星奈が僕の方を向いて、少し照れた様子で話す。

 その頬は心なしか赤く染まっていた。


「それよりも… 天気もいいし… 外に遊びに行かない…? でっ デートじゃないんだからね!? かっ 勘違いしないでよね!? たまには…… 外に出て、体を動かしたほうがいいと思っただけなんだからね!?」


 ゲーム今まで僕との繋がりがゲームであるためゲームばかりしていたが、その繋がりが切れる心配が無くなった星奈は、外へ出るという事を提案してきたのだ。


 まあ、この場合、単にゲームに飽きただけかもしれないけど……。


(でも確かに…… 星奈の言う通り、せっかくの休日だし、たまには外で遊ぶのも悪くないかも…… )


 長い髪を触りながら、モジモジと僕の様子を伺う星奈を見て、僕はそう思った。

 それから僕らは少し準備をして、僕と星奈は街へ出かけた。目的は特にない。

 ただ2人で適当にぶらついて楽しむだけだ。


 でも、隣の幼馴染の顔はどこか嬉しげだった。でも、隣の幼馴染の顔はどこか嬉しげで楽しげであった。


 そして、その横顔を見つめる僕もまた、きっと同じような顔をしているんだろうなと自分で感じていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

コミュ障の幼馴染(♀)に<死にゲー>を勧めてみた 土岡太郎 @teroro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ